銀行融資

保証付融資のデメリットは融資実行に時間がかかること。その理由とは?

信用保証協会の保証付融資は、資金調達に時間がかかる。資金繰りに間に合わない。このような不満を抱いている経営者は多いことでしょう。
なぜ、保証付融資は融資実行に時間がかかるのでしょうか。スムーズな資金繰りのためには、このデメリットをよく理解し、資金繰り計画に織り込むことが大切です。
本稿では、保証付融資に時間がかかる理由を解説します。

保証付融資はなぜ時間がかかる?

信用が不足している会社でも、信用保証協会の保証付融資ならば融資のハードルがぐっと下がります。このため、中小企業にとって保証付融資は重宝すべき制度なのですが、デメリットもあります。例えば、融資実行までに時間がかかることです。保証付融資に時間がかかる理由は、大きく分けて二つあります。それは、

  • 保証審査のキャパシティが小さいこと
  • 融資実行までの工程が多いこと

です。

キャパシティの問題

まず、キャパシティの問題からみていきましょう。
銀行には、信用金庫、信用組合、地方銀行、メガバンクなど多種多様です。また、それぞれの銀行が多くの支店を構えており、多くの銀行員が働いています。つまり、融資の窓口である銀行は、日本全国に非常に多く存在しており、対応する銀行員も多く、キャパシティが大きいのです。
これに対し、信用保証協会は全国で51の協会が運営されており、全ての保証審査をここで処理しています。もちろん、それぞれの信用保証協会が複数の事業所を抱えていますが、エリア全体の事業所数・職員数は銀行に比べて圧倒的に少ないです。

信用保証協会のキャパシティ

このことは、具体的に比較してみるとよくわかります。福岡県の例で見てみましょう。
福岡県信用保証協会と、福岡県の代表的な地方銀行の事業所数と従業員数をまとめると、以下のようになります。

事業所数 従業員数
福岡県信用保証協会 6 181
福岡銀行 170 3,568
筑邦銀行 44 526
西日本シティ銀行 175 3,679
福岡中央銀行 41 468

福岡県内の代表的な地銀と比較すると、信用保証協会の事業所数・従業員数がいかに少ないかが分かるでしょう。中小企業が融資を依頼するとき、その受け皿となる銀行は複数あり、数百の事業所と数千人の従業員が対応します。キャパシティは大きく、資金需要の高まりによって融資依頼が短期間に集中しても、業務がパンクしてしまう可能性は低いです。

これに比べて、信用保証協会は基本的に各県にひとつずつしか存在せず、事業所数も職員数もかなり少ないといえます。キャパシティは小さく、保証依頼の処理件数・スピードには限界があります。これにより、保証の可否が決まるまでに数週間、実際の融資実行までに1ヶ月~1ヶ月半程度かかる、といったケースがよくあります。
これが、保証付融資に時間がかかってしまう大きな理由の一つです。

経済的な混乱によってパンクすることも

信用保証協会のキャパシティは小さいため、何らかの理由によって短期間のうちに保証依頼が殺到した場合、キャパシティを大きく超えてパンク状態に陥ることもあります。
実際に、2020年、全国の複数の信用保証協会がパンク状況に陥っています。コロナの影響によって経済が急激に悪化し、資金繰りに苦しむ中小企業が急増したことで、信用保証協会への保証依頼が殺到しました。
当時の混乱ぶりを示すデータをみると、

  • 日本政策金融公庫への問い合わせが1ヶ月で40倍に急増した
  • 自治体窓口に信用保証の問い合わせが殺到し、2ヶ月先まで面談予約が埋まった

といった状況であり、緊急貸付や保証付融資の依頼が急増している様子がよくわかります。
当然ながら、信用保証協会はこのような事態に対応できるほどのキャパシティがありません。会社側は「できるだけ早く借りられるように」と考え、書類も準備し保証付融資を依頼していても、保証審査の順番待ちが長くなり、融資に時間がかかってしまうのです。

緊急時は2~3ヶ月かかることも

経済悪化時の緊急的な保証制度を利用する場合には、このような傾向が特に顕著です。例えば「セーフティネット保証」では、

  1. 信用保証協会に相談し、必要書類などを確認する
  2. 書類を準備し自治体窓口を訪ね、セーフティネット保証の認定を申請する
  3. 認定が下りたら、認定書を持って信用保証協会に行き、保証を申し込む
  4. 保証審査が実施される
  5. 保証が下りたら、金融機関に保証付融資を申し込む
  6. 金融機関で審査が実施される
  7. 審査に問題がなければ融資が実行される

という流れとなり、通常の保証付融資よりも多くの手間がかかります。自治体による認定、信用保証協会の保証審査、金融機関の審査など、時間がかかる流れが複数あることから、2~3ヶ月かけてようやく融資実行というケースも多かったようです。

工程の多さ

プロパー融資と比べた場合、保証付融資は融資実行までに必要となる工程が多いです。これも、時間がかかるというデメリットの大きな原因といえます。

保証付融資の流れ

保証付融資の流れを簡単に説明すると、以下の通りです。

1、銀行に融資を相談し、ヒアリングを受ける

まず、会社から銀行に対して融資の相談をします。この時点では、プロパー融資と保証付融資のいずれを利用するか未定です。
相談を受け、銀行はヒアリングを実施します。資金使途、必要金額、返済計画、債権の保全などを把握し、銀行の担当者が大まかな条件を提案します。中小企業の場合、ここで保証付融資の提案を受けることが多いです。

2、銀行内で案件の検討が行われる

保証付融資に合意しても、それで融資を受けられると決まったわけではありません。保証付融資の可否について、銀行内で稟議を行う必要があります。
稟議書にはヒアリングの内容、他行の動向、経営の概況、取引の狙いなどが書かれ、融資することに危険はないか、特に融資すべき理由はあるか、銀行にとってうまみがあるかなど、総合的に判断します。

3、信用保証を申し込む

稟議が通ると、銀行は会社に「信用保証委託申込書」を渡します。これは、会社から信用保証協会に対して保証を依頼するための書類です。
会社が記入して銀行に提出すると、銀行は「信用保証依頼書」と「所見」を添えます。特に重要なのが所見です。所見とは、信用保証協会への伝達事項として、

  • 資金使途
  • 依頼主の業歴や業容
  • 取引銀行との関係
  • 業績や財務の概況

など、保証を申し込む会社の情報・状況が書かれたものです。会社の状況に悪い点があれば、所見にしっかりと記載されます。悪材料があるものの、銀行が融資を出してほしいと考える場合には、

「業績堅調であることや、当行の積極支援先であることから、取り扱い願いたく…」

といった所見が述べられることもあります。

4、保証審査が実施される

この後、信用保証協会で保証審査が行われます。審査は、会社概要、決算書、銀行の所見といった基本的な資料のほか、設備資金の借入れならば見積書や設備計画説明書、不動産担保を提供するならば不動産登記簿謄本などによって行います。

5、本部稟議が行われる

保証審査の結果、問題がなければ信用保証協会から銀行に「信用保証書」が送付されます。これをもって、保証の承諾が確定します。
これを受け、銀行で最終的な稟議(本部稟議)が行われます。信用保証協会の保証があれば、銀行は貸し倒れリスクの大部分を避けることができるため、よほどの問題がなければ本部稟議で否決されることはありません。

6、融資実行

本部稟議でOKが出れば、融資実行に至ります。

プロパー融資との比較

プロパー融資と比べると、保証付融資の工程の多さが分かります。プロパー融資は、上記の流れのうち、信用保証協会に関する工程がありません。したがって、

  1. 銀行に融資を申し入れ、ヒアリングを受ける
  2. 銀行内で審査・稟議を行う
  3. 融資額が大きい案件など、重要と見なされる案件は本部稟議を行う
  4. 融資実行

という流れです。
工程数でみると工程の差は2つであり、それほど大きな違いはないように思えるかもしれません。しかし、

  • 銀行が「所見」を作成する手間
  • 書類のやり取りの多さ(やり取りのたびに郵送にかかる日数)
  • 保証審査の手間

などを考えると、それなりに大きな差があることがイメージできるでしょう。
場合によっては、数週間単位での遅れが生じることもあります。例えば、銀行が非常に忙しい時期などに、銀行員が業務に忙殺されて信用保証協会へ書類提出を忘れてしまい、経営者からの問い合わせによって思い出し、慌てて手続きを再開する、といったケースです。
会社は資金繰りの必要に迫られているのですから、「忘れていた」では済まされません。信じられない話ですが、実際にこのようなケースもあるのです。
以上のように、保証付融資の流れや、書類のやり取りの多さなども、融資実行までに時間がかかる理由です。

まとめ

本稿では、保証付融資の時間がかかる二つの理由を解説しました。
手続きの多さにより、保証付融資は平常時でも時間がかかることが多いです。経済の急速な悪化など、非常事態においては特に時間がかかります。
したがって、保証付融資を活用するためには、普段から資金繰りをよく計画し、余裕をもって資金調達に臨むことが大切です。また非常時においては様々な資金調達方法を活用することが欠かせません。
資金繰り計画の策定や資金調達の多様化などは、専門家の支援を受けて取り組むとスムーズです。コンサルタントへの依頼なども視野に入れつつ、取り組んでみてください。

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