決算書はどれくらい影響するか
銀行の融資審査に影響を与える要素を大まかに挙げると、
・決算書(直近の決算内容と、過去数期の推移)
・資金使途(借入れの妥当性)
・提出書類(試算表、資金繰り表、経営計画書など決算書以外の書類)
・日常取引(預金、振込・振替、為替取引など)
などが挙げられます。
このうち、特に大きい要素は決算書です。決算書の内容が悪い場合、融資の道が全く閉ざされてしまうこともあります。決算が2期連続赤字や債務超過になっていれば、銀行融資は不可能といってよいでしょう。
逆に、決算内容が良好な会社はスムーズに融資を受けられます。交渉によって、低金利での融資やプロパー融資なども引き出すことも十分に可能です。
重要度を数値にしてみると・・・
決算書以外の要素はそれほど重要ではありません。決算書の重要度を10とすれば、資金使途の重要度は5、提出書類と日常取引の重要度は1~2程度です。
銀行融資において、資金使途はかなり重要とされることが多いです。確かにその通りで、資金使途が不明確であれば借入れは難しくなります。
資金使途には融資の可否を左右する影響があるわけですが、決算書の重要度は資金使途を上回るのです。
提出書類や日常取引は、融資条件をできるだけ良いものにしたり、悪材料をカバーしたりするためのもので、融資の可否を左右するほどの影響はありません。
銀行が決算書を見る流れ
したがって、安定的に融資を受けたいと考えるならば、決算内容が良くなるようにしっかりと経営することが大切です。
また、銀行が決算書をどのように見ているかを知ることが欠かせません。
決算書には様々な情報が記載されますが、銀行員は全ての情報を等しく見ているわけではなく、いくつかの項目を念入りにチェックしています。重視される項目を意識して経営に取り組めば、銀行員が好ましいと感じる決算内容に近づけることができます。
銀行員が好ましいと感じる決算内容とは、貸し倒れリスクが低く、安心して融資できる決算内容にほかなりません。決算書を銀行員目線で考えることで、銀行融資を受けやすくなるだけではなく、業績・財務ともに健全な会社に近づくことができます。
決算書は、貸借対照表と損益計算書を中心に作られています。貸借対照表と損益計算書については、
貸借対照表:財務状況についてまとめたもの
損益計算書:業績についてまとめたもの
と考えておけば間違いありません。
銀行員が貸借対照表と損益計算書をどのように見ているかを知っておくと、資金調達の際に何かと役立ちます。
貸借対照表の見られ方
まず、貸借対照表の見られ方を説明します。
最重要項目は「純資産」
銀行員は、貸借対照表を見ることによって財務の健全性を探ります。貸借対照表の情報のうち、最重要項目は右下に記載されてい「純資産」です。これにより、財務の健全性を知ることができます。
会社の保有資産(現金や売掛金、不動産など)を全て合わせたものを「総資産」といいます。一方、会社が負っている負債(支払手形や借入金など)を全て合わせたものが「総負債」です。
総資産から総負債を差し引いたとき、残る部分が純資産にあたります。「総資産-総負債」の計算をしたときに純資産がマイナスになる会社は、財務状況がかなり悪いと判断できます。総資産を総負債が上回っていることは、会社の資産を全て売り払っても負債が残ることを意味するからです。
これが「債務超過」と呼ばれる状態です。債務超過状態の会社は債務者区分が要管理先以下になるため、融資を受けられない可能性が非常に高くなります。
銀行員が貸借対照表を見るとき、真っ先に純資産を見る理由はここにあります。純資産がプラスになっていれば、審査の第一関門を突破したようなものです。
自己資本比率も見られる
ただし、純資産がプラスであれば融資を受けられるわけではありません。純資産が大幅にプラスの場合と、ぎりぎりプラスの場合では安全性に大きな差が生じます。
純資産額による財務健全性を把握する際には、自己資本比率を見ます。自己資本比率は、純資産を総資産で割ったものであり、この比率が高いほど財務体質が健全といえます。
したがって、銀行員は純資産がプラスであるかどうかに加えて、自己資本比率をチェックし、自己資本比率が高ければ好材料、低ければ悪材料と考えます。
銀行融資を受けられる自己資本比率の下限は10%です。純資産がプラスであっても、自己資本比率が10%を下回っている会社では借入れに苦労する可能性が高いです。
実質債務超過の有無
気をつけたいのが、実質債務超過の有無です。
純資産がプラスであれば債務超過状態ではありませんが、これはあくまでも数字の上でのことです。実質的に債務超過といえる状態であれば、銀行は融資を危ぶみます。
実質債務超過は、具体的な数字で考えると分かりやすいです。
貸借対照表の総資産が1億円、総負債が8,000万円であれば、貸借対照表の上では2,000万円の純資産があることになります。
しかし、実際には資産価値のないものが総資産に計上されていたらどうでしょうか。例えば総資産1億円のうち、期日を過ぎても支払われておらず、今後も支払われる見込みのない売掛金が3,000万円あるような状態です。
この場合、実質的な総資産は7,000万円であり、総負債を差し引いた純資産は-1,000万円となります。実質的に1,000万円の債務超過状態です。
実質債務超過は、当然ながら融資にかなり不利な状態です。決算書の内容が会社の実態と異なるのですから、悪印象に繋がる可能性もあります。
実質債務超過を避けるには、利益が多く出ているタイミングで価値のない資産を処理して純資産プラスの状態を保ちつつ、実態に近い資産を計上するのがポイントです。
借入金月商倍率は何ヶ月分か
貸借対照表で純資産に次いで重要になるのが、借入金総額です。純資産がプラスであり、実質債務超過もないことに加えて、借入金月商倍率も確認しておくべきです。
借入金月商倍率は、借入金総額(負債の部の短期借入金と長期借入金の総額)を月商で割ったものです。
例えば、借入金総額が5,000万円、月商が2,000万円の場合、借入金月商倍率は2.5倍となります。これは、借入金総額が月商の約2.5倍であることを意味します。これくらいであれば、審査で特に問題視されない可能性が高いです。
借入金月商倍率の審査への影響は、以下のように考えます。
借入金月商倍率 | 審査への影響 |
2倍以下 | 適正水準 |
2~4倍 | やや借りすぎ |
4倍以上 | 借りすぎ |
なお、この見方はあくまでも一般的なものです。不動産業など、多額の借入れが前提となる業種などは当てはまりません。しかし、多くの業種ではこの表のように見られます。
損益計算書の見られ方
貸借対照表と損益計算書はどちらも重要ですが、強いていえば貸借対照表のほうが重要といえるでしょう。
財務が不健全であれば、いくら業績が良くても融資は難しくなります。逆に、業績が多少悪かったとしても、財務が健全であれば貸し倒れリスクは低く、業績の改善によって返済も見込めるため、融資を受けられる可能性は高いです。
銀行が知りたいのは「稼ぐ力」
とはいえ、損益計算書も重視されることは間違いありません。融資を受けた会社は、事業から得た利益によって返済していくのです。損益計算書によって利益が出ていることを確認できなければ、銀行は融資を渋るのが普通です。
つまり、銀行は損益計算書によって「会社の稼ぐ力」を見ているのです。
利益には、営業利益と経常利益があります。営業利益は事業で稼ぐ力、経常利益は事業以外も含めて会社全体で継続的に稼ぐ力を見る指標です。
融資を受けるには、営業利益と経常利益がどちらもプラスであることが条件となります。営業利益がマイナスになれば事業が不調であることとなり、経常利益がマイナスになれば継続的に稼ぐ力がないものと見られてしまいます。
稼ぐ力がないことは、返済能力がないことにほかなりません。銀行融資を受けることも難しくなるのが普通です。
しかし、税金対策のために、あえて赤字決算にしている会社も多いものです。法人税を支払いたくないと考えて赤字決算にしている会社は、
・赤字にすることで法人税を支払わなくてよいが、銀行融資が困難な状態
・黒字で法人税を支払う必要があるが、銀行融資を受けられる状態
のどちらがよいか、よく考えてみるべきでしょう。
黒字であれば、納税資金も融資によってカバーできる可能性が高いです。赤字は避けて黒字を伸ばすことに努めていくならば、営業利益・経常利益が大きくなるにつれて「稼ぐ力が高い会社」と見られるようになり、審査に通りやすくなります。
利益率にも注意する
銀行は、営業利益・経常利益だけではなく利益率も見ます。利益率とは、利益を売上高で割ったものです。
目安としては、営業利益を売上高で割った「売上高営業利益率」は5%以上、経常利益を売上高で割った「売上高経常利益率」は3%以上が理想です。
赤字決算の会社は、営業利益と経常利益がどちらもプラスになることを目指し、その後は利益率を高めていくことを心がけましょう。
まとめ
本稿では、融資審査で最も重視される「決算書」の基本について解説しました。銀行員が貸借対照表と損益計算書をどのように見ているかを知っておけば、重要な項目を優先的に改善し、最短距離で「融資を受けやすい決算書」を目指すことができます。
銀行融資で悩んでいる会社は、ぜひ意識してみてください。
資金調達のプロがお客様の状況をヒアリングした上で適切なアドバイスを致します。
- ・初めて資金調達を行いたい
- ・銀行借入を成功させたい
- ・国の資金調達制度を使いたい
- ・助成金、補助金の申請をしたい
- ・早急に資金が必要
- ・資金繰りの改善をしたい