資金調達

複数行取引の落とし穴。借り換えを提案されても受けてはならない理由とは?

複数行取引と借り換えの関係

複数行取引をしている会社では、融資の借り換えを検討する機会があります。というのも、銀行と自社の取引や駆け引きの中で、銀行から借り換えを持ちかけられたり、こちらから借り換えをほのめかしたりすることがあるためです。

借り換えを提案する銀行の意図

まず、銀行から借り換えを提案される場合を考えてみましょう。融資提案の際に、複数行から受けている融資をまとめることを提案されることがあります。その際には、金利を下げるなど、会社にとって有利な条件を提示します。
借り換えの提案を受けやすい会社の特徴は、

・業績、財務が良好である
・複数の銀行が融資に積極的であるため資金調達に困っていない
・現時点で、特に資金を必要としていない

などです。この特徴を銀行の立場で考えると、

・貸し倒れリスクが低く、積極的に融資したい
・しかし、融資を受けられる銀行は複数あり、自行の融資シェアを伸ばしていくのが難しい
・特に資金需要がなければ融資を提案すべき理由も見つからない

といえます。
このような場合、普段と変わらない条件で融資を提案しても借りてもらえる可能性は低いでしょう。かといって、資金需要が発生してから提案すれば複数行と融資条件を競い合うことになり、銀行にとってあまりおいしい融資案件ではなくなる可能性が高く、他行が選ばれれば融資もできません。
そこで、銀行は借り換えの提案を突破口にします。すなわち、

・特に資金需要がないタイミングを選んで他行との競争を避ける
・資金需要がなくても借りてもらえるように、会社にとってもメリットのある借り換えを提案する
・提案が受け入れられれば、他行から融資シェアを奪うことができ、今後の取引では他行との競争が減る(全て借り換えることができれば自行の融資シェアが100%となり、競争そのものが起こらなくなる)

という狙いがあるからこそ、銀行は借り換えを提案してくるのです。

金利交渉の手段として

このほか金利交渉の手段として、自社から借り換えをほのめかすことが考えられます。
複数行から融資を受けている会社では、銀行によって金利差が大きいこともあります。このとき、借り換えをにおわせるのが効果的です。特に、金利が高い銀行に対する金利交渉の際に役立つことが多いです。
具体的に考えてみましょう。
ある会社では、A銀行から金利2%で融資を受けていました。あるとき、B銀行から金利1%での融資提案を受けました。B銀行の提案は、担保や保証、返済期間などの条件もA社と変わりません。さらに融資可能額も大きく、A銀行の金利2%の融資を借り換えられるだけの枠を確保できそうです。
このような場合には、A銀行に対して次のように持ち掛けるのです。

「(B銀行の提案書を見せて)B銀行からこんな提案をもらいました。金利はA銀行さんの半分で、他の融資条件もほぼ同じです。5,000万円の提案ですが、今はそんなに必要ありませんから、B銀行から借りてA銀行さんの2,000万円を返してしまおうと思っています。金利が安いに越したことはないので」

B銀行に借り換えられると、A銀行はこの会社の融資シェアを全て失うこととなります。それを避けるために、A銀行が既存の融資の金利を下げることが期待できるのです。

借り換えのメリットとは?

銀行から借り換えを持ちかけられたとき、皆さんはどのように考えるでしょうか。ありがたい提案だと考え、借り換えに応じる人もいるはずです。
個人の場合、借り換えは役立つことが多いです。特に、多重債務で苦しんでいる人であれば、借り換えによって全ての債務を一本化し、月々の返済額を減らすことで生計の立て直しもかなり容易になります。
会社でも、借り換えのメリットは個人とあまり変わりません。代表的なメリットをいくつか見ていきましょう。

金利が下がる

銀行から提案するにせよ、自社が金利交渉に利用するにせよ、結果的に金利が下がります。支払い利息が軽減され、資金繰りにもメリットが期待できます。
これが借り換えの最大のメリットであり、銀行が提案してくる際にも必ず強調するものです。

返済負担が減る

複数の融資を一本化すれば、月々の返済負担も軽くなります。
例えば、3,000万円・返済期間3年の融資を三行から受けている会社では、単純計算で毎月250万円の返済負担となります。この融資を借り換え、一行に対して9,000万円・返済期間5年とすれば月々の返済額は150万円に軽減されます。
資金繰りが苦しい会社にとって、借り換えのメリットが大きいと感じられる理由もここにあります。

財務効率が上がる

複数行から融資を受けていれば、それぞれの銀行から保全の充足を求められるため、不動産を担保に入れたり、一定以上の預金額を保ったりする必要があります。
借り換えによって取引銀行が減ると、その必要もなくなります。例えば、

・担保設定がなくなり、担保を有効活用できるようになる(特に担保価値に見合わない融資を受けていた場合など)
・複数行に預金を分散させる必要がなくなり、現金を活用しやすくなる

といったメリットが得られるため資産や現金を活用しやすくなり、財務効率のアップが期待できます。

複数行取引で借り換えはNG

借り換えのメリットを見れば、財務効率化を除けば会社も個人と同じメリットを享受できることが分かります。返済の負担が軽減された上に財務効率も上がり、良いことばかりにも見えるでしょう。
しかし、借り換えにはこれらのメリットをはるかに上回るデメリットを伴います。

借り換えされた銀行に屈辱を与える

借り換えの最大のデメリットは、借り換えされた銀行との関係が極度に悪化することです。
銀行という組織は、他業種に比べて同業他社への対抗意識が非常に強い傾向があります。このため、他行で借り換えされて融資シェアを奪われることを大変な屈辱と感じます。
一般的な業種でも、同業他社にシェアを奪われることを屈辱だと感じるでしょう。とはいえ、同業他社に乗り換えた取引先が再び取引を持ち掛けてきたとき、過去の屈辱を理由に取引を拒否するとは考えにくいです。むしろ、失った売上が戻ってくるのですから喜ばしいことです。
しかし、銀行の感じる屈辱は比べ物になりません。実際、借り換えされた銀行がその後一切融資してくれなくなることもよくあります。失った取引が戻ってくると考えて融資を歓迎するのは、融資先がよほど魅力的な場合に限られます。
つまり、借り換えの結果、資金調達の選択肢を大きく狭めることになってしまうのです。融資を受けられる銀行を開拓する難しさは、皆さんも常々感じていることと思います。借り換えによって取引銀行を減らしてしまうデメリットを考えるならば、返済負担軽減のメリットなど大した魅力ではありません。
「返済負担は苦しいが資金調達は比較的ラクである」と「資金調達は苦しいが返済負担は比較的ラクである」を選ぶなら、間違いなく前者を選ぶべきです。資金調達が苦しければ資金繰りも苦しく、返済負担の軽減では到底カバーできないからです。

新規取引銀行の借り換え提案は特に危険

取引銀行の一部を借り換え、借り換え後も複数行取引の状態を維持できるならばまだ良いほうです。
しかし、そもそも取引している銀行が少ない場合や、借り換えの提案が思い切った内容であれば、融資を全て借り換えて一本化することを提案されることもあります。
この提案を受け入れると、資金調達で最も忌むべき「一行取引」に陥ることとなります。借り換え先の銀行に融資を断られてしまえば、資金繰りが破綻する可能性は極めて高いです。
取引のない銀行に新規融資を申し入れても融資はほぼ受けられません。さらに、かつて借り換えによって屈辱を与えた銀行を頼ることはできず、新規融資を依頼できる銀行は減っています。このような状況、資金繰りの行き詰まりを意味するといっても過言ではないでしょう。
特に危険なのが、全く取引のなかった銀行から借り換えの提案を受けた場合です。新規取引銀行で借り換えて一行取引に陥ることは、二つの意味で絶対に避けるべきです。

さらに強い屈辱を与える

既存の銀行から提案されて借り換える場合には、借り換えされる銀行にあまり屈辱を与えずに済むこともあります。例えば、融資シェアが最も高い銀行に借り換えるならば、融資シェアの低い銀行はそれほど気にしないでしょう。
しかし、新規取引銀行に借り換えると、借り換えされた銀行は「新参者に取引を奪われた」と考えるため、強い屈辱を与えることになります。
さらに、取引がなく信頼関係もない銀行に借り換えることは、これまでに既存の銀行と築いてきた信頼関係を無視することにほかなりません。
したがって、関係の修復が一層困難になります。

借り換え先との相性は未知数

既存の銀行には融資と返済を通じて築いてきた信用があり、経営が少々悪化したくらいで見放されることはありません。経営悪化が深刻な場合にも、どこかの銀行が支援してくれる可能性があります。融資を受けられずとも、銀行が歩調を合わせてリスケに応じてくれることも多いです。
しかし、借り換えを提案した銀行とは全くの新規取引であり、信頼関係はありません。今後、取引を継続することでどの程度まで信用を得られるかも未知数です。
既に信用を得ている既存の銀行と、これから信用を得る必要がある(信用を得られるかどうかも不明)新規の銀行を比較すれば、既存の銀行のほうが大切であることは明らかです。
大切な既存の銀行を捨ててまで借り換えるメリットはありません。そのようなことをすれば、いずれ必ず資金調達に苦労します。

まとめ

本稿では、銀行融資の借り換えについて解説しました。
複数行取引をしていれば、銀行から借り換えを提案されることがあります。その時、銀行員は金利が下がる、返済負担が軽くなるなどとアピールするため、魅力的に思えるかもしれません。
しかし、それは複数行取引の落とし穴です。借り換えを提案する銀行には、借り換えを提案しなければならない理由があり、その裏には会社にとって危険が潜んでいます。
借り換えの本質を理解することは銀行の立場を理解することにもつながります。借り換えるかどうかに関係なく役立つ知識ですから、今は縁のない会社も理解しておいて損はありません。

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