事業資金

株式で資金調達する方法と株式発行の仕組み

会社の資金調達方法には色々なものがありますが、中でも分かりにくいのが株式発行による資金調達です。「株式」というと株式投資のイメージが先行しやすく、銀行融資などの一般的な資金調達方法とはかなり仕組みが違うため、理解がしづらいのです。

そこで本稿では、株式発行の知識がゼロの人でも理解できるように、株式発行の仕組み、資金調達の流れ、メリット・デメリットなどを解説します。

株式発行の基礎知識

株式発行とは、株式会社が株式を発行することです。会社の設立時に起業家が株式を発行することや、資金調達のために新規に株式を発行することを意味します。よく「増資」という言葉を耳にすると思いますが、増資とは新規の株式発行によって資金を調達することです。

資金調達方法のひとつに挙げられる「出資」も、簡単にいえば「株式を発行し、投資家から資金の提供を募ること」です。
株式発行による資金調達を、専門用語では「エクイティファイナンス」ともいいます。

「エクイティ」とは返済の義務がない資金のことです。株式を発行して資金を調達した場合、調達した資金に返済義務はありません。投資家は、将来的なリターンを求めると同時にリスクを背負うのです。
株式発行を理解するうえでは、まずは出資と融資の違いを把握しておくと理解が容易になります。

株式発行で資金調達できる仕組み

多くの人にとってイメージしづらいのが、株式発行で資金調達できる仕組みです。これは、一般的に「株式」といえば「株式投資」を思い浮かべるためです。株を買ったり売ったりすることはイメージできても、自社が株式を発行して資金を調達することがイメージできないのです。

株式発行による資金調達の仕組みを理解するには、会社の設立から増資までの流れをみるのが良いでしょう。

1.設立時

株式会社を設立するとき、手元資金を資本金として株式を発行します。
設立時の株価は、起業家自身が自由に決めることができます。株式市場においては、投資家が売買した結果として株価が決まりますが、これから設立する未上場の会社には当てはまりません。市場が株価を決めるのは、あくまでも上場企業に限られます。

ポイントは、時価総額ベースで考えることです。設立時には、手元資金、つまり資本金が時価総額となります。会社の設立時点では、まだ何の価値も創造していない状態ですから、「資本金=会社価値(時価総額)」となるのです。

設立時の株価に大きな意味はないため、時価総額を基準として、適当な株価を設定すれば問題ありません。例えば資本金500万円で会社を設立する場合には、

  • 株価100円で5万株発行
  • 株価500円で1万株発行
  • 株価1万円で500株発行

のいずれでも構いません。「株価×発行総数=時価総額」であれば問題ないのです。
ここでは、

  • 株価:100円
  • 発行総数:5万株
  • 時価総額:500万円

と仮定し、以下の説明を進めていきます。

2.増資直前

設立後、事業が徐々に軌道に乗り、やがて創業期を脱しました。
この後、起業時から温めていたアイデアを製品化し、一気に成長を目指したいと考えていますが、まだ業歴が浅いため銀行融資を受けることができません。資産内容も乏しいため、資産売却などによる資金調達も困難です。

そこで、株式発行によって資金を調達することに決めました。事業計画を作成し、製品を試作してプレゼンテーションを行い、投資家に出資を依頼したところ、今後の事業計画や試作品が期待され、投資家からプレ時価総額(増資前の時価総額)の評価を受けました。

この時、株式の発行総数は設立時と変わらず5万株のままです。発行総数5万株でプレ時価総額が1億円になったのですから、1株当たりの株価は2,000円になったことが分かります(2,000円×5万株=1億円)。

  • 株価:2,000円
  • 発行総数:5万株
  • プレ時価総額:1億円

3.増資直後

ただし、プレ時価総額基準で株価が2,000円に上昇しただけで、実際に資金が調達できたわけではありません。この条件で株式を新規発行(増資)し、投資家に引き受けてもらうことで初めて資金調達が実現します。

アイデアの製品化には、2,000万円の資金調達が必要でした。プレ時価総額により1株2,000円の評価を受けているため、2,000万円を調達するには1万株を新規発行すればよいことが分かります。
この増資によって、最終的には以下のようになりました。

  • 株価:2,000円
  • 増資前の発行総数:5万株
  • 必要調達額:2,000万円
  • 新規発行株数:1万株
  • 増資後の発行総数:6万株
  • ポスト時価総額(増資後の時価総額):1.2億円

増資の繰り返しによる資金調達も可能

株式発行による資金調達は、上記のように行います。この仕組みをごく簡単にまとめると、

  1. 会社の価値を上げる
  2. 株価の評価が上がる
  3. 増資によって資金を調達する

という流れです。スタートアップ企業の資金調達は、基本的にこの繰り返しです。会社を設立し、会社価値を高め、増資によって資金を調達し、調達資金によってさらに会社価値を高め、増資で資金を調達し・・・という流れを繰り返すのです。

もちろん、スタートアップに限らず、全ての会社が同じように資金調達できます。会社の価値と株価が上昇すれば、それをもとに資金調達できるのです。

持ち株比率を理解する

株式発行で資金を調達すると、新規発行した株式は投資家の持ち分となります。これにより、増資前は起業家の持ち株比率が100%であった状態から、その一部が投資家のものとなって持ち株比率が低下します。
つまり、

  • 株価:2,000円
  • 増資前の発行総数:5万株
  • 新規発行株数:1万株
  • 増資後の発行総数:6万株
  • ポスト時価総額(増資後の時価総額):1.2億円

の場合の持ち株比率は、

  • 増資前→起業家:投資家=5万株:0株=100:0
  • 増資後→起業家:投資家=5万株:1万株=83:17

へと変化するのです。

持ち株比率の問題

株式発行の仕組みを学ぶ際には、持ち株比率の理解が欠かせません。というのも、持ち株比率は経営権に影響するためです。

株式会社は、株式の持ち株比率が50%超の株主が経営権を握ります。このため、投資家の持ち株比率が50%を超えることは避けなければなりません。

また、50%を超えないとしても、持ち株比率が高い大株主が経営に口を出せば無視できません。そのため、自社の方針によっては、投資家の持ち株比率を抑えることも必要でしょう。
例えば、

  • 株価:2,000円
  • 発行総数:5万株
  • プレ時価総額:1億円

の会社が株式発行で5,000万円を調達する場合、2.5万株の新規発行が必要です。その結果、持ち株比率は「起業家:投資家=5万株:2.5株=67:33」となり、投資家の持ち株比率が高くなってしまいます。

投資家への交渉で調整する

この場合には、投資家に交渉してプレ時価総額を上げ、投資家の持ち株比率を下げることを考えます。
投資家に交渉した結果、プレ時価総額が2億円になれば、1株当たりの株価は4,000円です。これに伴い、5,000万円を調達するために必要な新規発行株数も、1.25万株に抑えることができます。
したがって、

  • 株価:4,000円
  • 増資前の発行総数:5万株
  • 新規発行株数:1.25万株
  • 増資後の発行総数:6.25万株
  • ポスト時価総額:2.5億円

となり、投資家の持ち株比率は20%に低下します(起業家:投資家=5万株:1.25株=80:20)。
もちろん、投資家が交渉に応じないこともあるでしょう。その際には、調達額を減らすことで新規の株式発行を抑え、投資家の持ち株比率を抑えるなどの工夫が必要です。

株式発行による資金調達の方法

株式発行による資金調達には、3つの方法があります。すなわち、

  1. 株主割当増資
  2. 第三者割当増資
  3. 公募増資

の3つです。
一口に株式発行といっても、発行株式の引受人が誰であるかによって、調達可能額や調達スピード、株主への影響、手続きの手間などが変わってきます。

1.株主割当増資

株主割当増資とは、新規発行の株式を既存の株主に割り当てるものです。既存の株主の持ち株比率に応じて割り当てるため、特定の株主の持ち株比率が高まることを防げます。

ただし、持ち株比率が変わらないことは、株主にとってはデメリットです。このため、理解を得られないまま増資に踏み切ると、株主が引受けを拒否し、増資そのものが頓挫することも考えられます。

とはいえ、株主は基本的に会社に協力する立場にあります。株主割当増資の際にきちんと説明し、条件も工夫して臨むならば、合意を得ることは十分に可能です。また、株主全員に平等に発行するため、条件の調整も比較的容易です。
ただし、引き受けるのは既存株主に限られるため、調達可能額は既存株主の資金力に左右されます。多額の調達には不向きといえるでしょう。

2.第三者割当増資

第三者割当増資は、既存の株主に限らず、第三者に新株を発行する方法です。
分かりやすいのが、上記の例のように会社設立後に初めて増資するケースです。株式会社を設立する際には、起業家が発行株式を100%保有した状態でスタートします。
その後、増資によって資金を調達する場合、既存株主は起業家本人だけですから、株主割当増資は不可能です。そこで、第三者に新規の株式発行を行い、資金を調達する必要があるのです。

もちろん、既存の株主がいる場合にも第三者割当増資は可能です。実際に、経営者側の力を強めたいとき、既存株主には新株を一切割り当てず、自社の役員や親族などに新株を割り当てることがあります。
このほか、特定の取引先に新株を発行して関係を強化し、互いの事業で相乗効果を図ることも可能です。

したがって、第三者割当増資は既存株主の不満につながる可能性があります。第三者が新たに株主になれば、既存株主の持ち株比率が下がるためです。これを「株式の希薄化」といい、株主の失望によって株価が下落する恐れもあります。

3.公募増資

公募増資は、既存株主や近しい第三者に新株を割り当てるのではなく、不特定多数を対象として新株を発行する方法です。
主に上場企業の資金調達に利用されており、未上場の中小企業にはあまり関係がありません。

また、公募増資では新株を時価で発行します。このため、増資時点で会社価値と株価が高い会社でなければ、十分な資金調達は困難です。

株式発行から資金調達までの流れ

それでは、株式発行から資金調達までの流れをみていきましょう。
もっとも、株式発行の実務は複雑であり、表面的な知識だけで会社が独自に取り組むのは困難です。法務を専門とする弁護士や、資金調達専門のコンサルタントに相談しながら進めるのが一般的であるため、ここではごく簡単に説明します。
株式発行で資金調達する流れは、

  1. 株式の設計
  2. 割当の決定
  3. 出資金の払込み
  4. 登記事項の変更

の4ステップです。
これらの流れについて、大まかなスケジュールを知っておくだけでも役立つはずです。

1.株式の設計

まず、株式の設計を行います。株式の設計とは、

  • 新株の発行株数
  • 新株の発行株価
  • 発行株価の算定方法
  • 割当の対象
  • 出資金の払込期日

などのことであり、いわば新株の募集要項です。
株式の設計は、会社法の定めに沿って進めます。設計の細部では専門知識が欠かせません。
設計の内容は、原則として株主総会の決議を経て確定します。専門家に依頼しておけば、株主に配慮しながら設計し、スムーズに進めることができるでしょう。

2.割当の決定

株式の設計が確定したら、新株の割当を決めていきます。
株主割当増資であれば、既存株主の持ち株比率に応じて割り当てるため簡単です。
第三者割当増資では、特定の第三者に対して出資を募り、公募増資では広く出資者を募ります。

募集を受けて、株式の設計に納得した出資者が新株の引受けを申し込みます。会社法における「割当自由の原則」に基づき、会社は申し込んだ出資者に対する割当を自由に決めていきます。

3.出資金の払込み

2で新株を割り当てられた出資者は、1で決めた払込期日までに出資金を払い込みます。ただし新株の割当は、あくまでも「新株を引き受ける権利」であり、実際に出資するかどうかは出資者次第です。当然、払込期日までに出資が履行されないこともあり得ます。

もっとも、株式設計の際に株主総会で決議していることですから、出資が履行されないことは基本的にはありません。

4.登記事項の変更

無事に出資金が払い込まれたら、登記事項の変更を行います。
この時点では、法務局の登記簿に記載されているのは増資前の情報です。増資後は株式発行総数や資本金額が変わるため、再度法務局で登記事項の変更手続きを行います。

登記手続きの期限は、出資金の払込期日から2週間以内と決められているため注意してください。

株式発行による資金調達のメリット・デメリット

最後に、株式発行で資金調達するメリットとデメリットをまとめます。
資金繰りにおいて大切なことは、自社に最適な資金調達方法を正しく選択することです。最適な方法は株式発行かもしれませんし、株式発行ではないかもしれません。

ここまでの解説と重複する内容もありますが、メリット・デメリットをしっかり把握してください。

株式発行で資金調達するメリット

株式発行で資金を調達するメリットには、以下の4つが挙げられます。

1.返済義務がない

基本的なことですが、株式発行は投資家から出資を受けて資金を調達します。銀行融資などの借入れとは根本的に異なる資金調達方法です。

借りたお金には返済義務があります。しかし、株式発行は出資で得たお金ですから、返済義務がなく利息による負担もありません。

2.担保が必要ない

借入れではないことから、株式発行の際には担保が必要ありません。
そもそも担保とは、債務不履行に備えて提供するものです。株式発行では、株価が下がったり、会社が倒産して株価がゼロになったりした場合にも補償を求められません。

このため、担保も不要です。担保資産を持っていない会社でも利用できるのが、株式発行のメリットのひとつといえます。

3.自己資本比率の向上

銀行融資など、外部から調達した資金を「他人資本」といいます。自社の手元資金になったものの返済義務があり、純粋に自社の資金とはいえない「他人の資本」というわけです。したがって、借入金は貸借対照表の負債の部に表示されます。

これに対し、株式発行で調達した資金は返済義務のない「自己資本」であり、純資産の部に表示されます。
総資産に占める自己資本の割合、すなわち「自己資本比率」は会社の安全性を表す指標です。銀行融資の際にも重視されます。

借入れの場合、総資産に占める他人資本の割合が高まり、相対的に自己資本比率が下がります。逆に、株式発行で資金調達すれば自己資本比率を高めることができ、財務内容改善に効果的です。

4.会社の評価が高まる

株式発行で資金を調達できるということは、投資家から良い評価を受けていることにほかなりません。
投資家は、自社の価値が将来的に上昇していくと考えて出資したのです。これにより、会社の評価が高まり、銀行や取引先との付き合いにも良い影響が期待できます。

株式発行で資金調達するデメリット

ただし、株式発行にはデメリットもあります。以下の3つのデメリットに注意してください。

1.経営権の問題

すでに解説した通り、新規の株式発行によって株主の持ち株比率が変化します。これにより、特定の株主の持ち株比率が大きくなれば、経営への影響力が高まり、経営権そのものを奪われる危険も生じます。
したがって、株主の持ち株比率に注意しなければなりません。

2.株主の反発

株主の反発も懸念すべき問題です。
株式発行にメリットがなければ、株主は反発します。特に、株式の希薄化によって株価が下がる場合には強い反発を受けやすく、資金調達そのものが頓挫する可能性も出てきます。

株式発行で資金調達することで会社が成長し、長期的には株主のメリットになることなど、理解を得るために難しい交渉を迫られます。これは、多くの経営者にとって大きな負担になることでしょう。

3.実務上の困難

最後に、実務上の困難が大きなデメリットです。
株式発行の際には、

  • 株式の適切な設計
  • 法規制への対応
  • 反発する株主との交渉
  • 資金調達後の税務処理

などが求められます。手続きは複雑であり、株主との交渉には経験やノウハウが欠かせません。法務や税務についても、専門家レベルの知識が必要です。
このため、株式発行を自社で独自に進め、資金調達することは現実的に困難です。

まとめ

本稿では、株式発行の基礎知識から具体的な仕組み、注意点やメリット・デメリットなどを詳しく解説しました。これらの知識があれば、株式発行による資金調達が自社に向いているかどうかも分かるでしょう。
ただし、株式発行の仕組みを理解していても、実際に株式を発行するのは簡単ではありません。多くの専門知識やノウハウが欠かせないのです。

株式発行に強い弁護士やコンサルタントなど、専門家に協力を依頼することが資金調達の第一歩となります。
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