経営者ならば、キャッシュフローという言葉をよく使っているはずです。しかし、キャッシュフローの基本や重要性について、十分に理解している人は少ないものです。
キャッシュフローの理解が曖昧な人は、まず基礎知識を身につけましょう。キャッシュフローの基礎知識があれば、キャッシュフローの良し悪しを具体的に考え、改善方法までわかるようになります。
キャッシュフローとは
経営者ならば、誰もが「キャッシュフロー」という言葉を知っているでしょう。「キャッシュフロー」は「キャッシュ(お金)+フロー(流れ)」であり、読んで字のごとく「お金の流れ」を意味する言葉です。
キャッシュインとキャッシュアウト
しかし「キャッシュフローはお金の流れ」といわれても、いまひとつピンときません。具体的にどのような流れを意味するのかを知る必要があります。
会社のお金の流れは、入ってくるお金と出ていくお金によって作られます。入ってくるお金を「キャッシュイン(キャッシュインフロー)」、出ていくお金を「キャッシュアウト(キャッシュアウトフロー)」といい、この二つによって形成される1年間のお金の流れが「キャッシュフロー」です。
キャッシュインの例は、売上代金の入金、貸付金の返済、銀行からの借入れ、資産の売却などです。お金が入ってくる動きであれば、基本的にキャッシュインとみなして差し支えありません。
キャッシュアウトの例は、仕入代金の支払い、銀行への返済、設備の購入、給与の支払い、損害賠償の支払いなどです。自社のお金が出ていく動きを、いろいろ当てはめてみると良いでしょう。
キャッシュストックとは
もうひとつ「キャッシュストック」という言葉があります。
ストックは、フローの対義語です。フローは流れることを意味し、ストックは止まることを意味します。収入や支出などの流れる動きはフロー、流れずに手元に止まる動きがストックです。
キャッシュストックとは、キャッシュインとキャッシュアウトを繰り返した結果、手元に残ったお金のことです。貸借対照表でいえば、最初に記載される現金預金がキャッシュストックにあたります。
1年間のキャッシュフローで考えると、
- 今期の期首、前期の期末に残ったキャッシュ(キャッシュストック)からスタートする
- 期中、キャッシュインフローやキャッシュアウトフローが繰り返される
- 期末に残ったキャッシュストックが来期に引き継がれる
という流れです。会社は、経営を続けるかぎりこの流れを繰り返します。
キャッシュフローの良い・悪い
この会社はキャッシュフローが良い、あるいはキャッシュフローが悪い、といった表現があります。では、キャッシュフローが良い・悪いとは、具体的にどのような状態を意味するのでしょうか。
企業財務の原則は「入るを量りて出ずるを制す 」です。これは、「入ってくるお金の量をしっかりと計算し、その範囲内で支出をコントロールする」ということです。
したがって、ごく簡単にいうならば、
キャッシュフローが良い:入ってくるお金の中でやりくりできている状態
キャッシュフローが悪い:入ってくるお金の中でやりくりできていない状態
といえます。
これだけでは分かりにくいので、詳しく考えていきましょう。
キャッシュフローが悪い状態
中小企業の多くは、キャッシュフローが悪い状態にあります。上記の通り、入ってくるお金の中でのやりくりに苦労しているのです。
キャッシュフローが悪い状態の典型例は、私たちのごく身近にあります。日本の国家財政です。
令和2年度の日本の国家予算は約102兆円でした。これを100兆円とみなし、歳入と歳出の内訳を整理すると以下のようになります。
歳入 | 歳出 |
---|---|
国債 31.7% | 国債償還費 14.5% |
利払費 8.2% | |
政策的経費 77.3% | |
税収 61.9% | |
その他 6.4% |
この表の通り、歳入は税収が約6割、国債が約3割、残りはその他という内訳になっています。歳出をみると、政策的経費が8割に迫っており、税収でカバーできていません。加えて、国債の償還や利払いにもお金がかかります。つまり、国家の基本的な収入である税収でカバーできない部分を、国債という借入れによってカバーし、なおかつ国債残高は年々増え続けている状態です。
企業財務に当てはめると、基本的な収入である売上を経費が上回り(赤字)、借入金の返済資金を捻出できず、借入れを増やし続けている状態です。毎年のように、銀行に赤字補填資金や返済資金などのいわゆる「後ろ向き資金」の融資を要請していることにほかなりません。
銀行には「追い貸し」という考え方があります。融資を拒否すると倒産する可能性が高く、なおかつ倒産によって銀行が被る損失が大きい場合、後ろ向き資金の融資に応じて支援を続け、経営改善を促し、貸し倒れを防ぐ考え方です。
日本の国家財政は、追い貸しを繰り返しているようなものです。国家財政だから成り立つだけで、会社ならばとっくに見放されて倒産しているに違いありません。後ろ向き資金は、融資の中でも特に審査に通りにくいものなのです。
厳密には、国家財政の原則は「出ずるを量りて入るを制す」 であって、企業財務の原則とは順番が逆です。それでも、日本という国家をひとつの会社と見なした場合、キャッシュフローが悪い状態の好例であることは間違いありません。
キャッシュフローが良い状態
キャッシュフローが悪い状態がわかれば、キャッシュフローが良い状態も分かりやすいでしょう。入ってくるお金の流れに合わせて、出ていくお金の流れを調整できるのが、キャッシュフローが良い状態です。
入ってくるお金には、売上の回収や資産の売却、銀行からの借入れなどがあります。まず入るを量る、例えば
- 売上の予測を立て、しっかり回収する
- 不要な資産を売却する
- 必要に応じて銀行から計画的に融資を受ける
- 助成金を受給して返済不要の資金を獲得する
といったことにより、入ってくるお金の量を予測・調整できます。特に、本業によるキャッシュイン(売上)がしっかりと確保できていることが重要です。
借入金は返済によるキャッシュアウトにもつながりますが、結果的にしっかりと売上につながるならば問題ありません。借入金というキャッシュインによって、売上というさらなるキャッシュインを生み出していくのが良い流れです。
キャッシュインに合わせて、出ていくお金を制することも大切です。例えば、
- 売上が低下すれば、仕入れを減らす
- 仕入れを減らすために、在庫管理を見直して過剰在庫の発生を防ぐ
- 人員を整理し、労務コストの削減を図る
- リスケジュールを行い、銀行の元金返済を止める
といった方法が考えられます。売上が増加した場合にも、増加後のキャッシュインに合わせてキャッシュアウトを調整することが欠かせません。
このように考えると、キャッシュアウトの増加は悪いことにも思えますが、そうとも言い切れません。設備投資によって大きなキャッシュアウトが発生しても、その設備が好調に稼働して売上が伸び、キャッシュインが増えることも期待できるからです。
キャッシュアウトのコントロールは、キャッシュインに与える影響も含めて考えるのがポイントです。一時的にキャッシュアウトが増加しても、将来的にそれを上回るキャッシュインが得られれば問題ないのです。
キャッシュフローの改善とは
「キャッシュフローの改善」といえば、難しく感じる人も多いでしょう。しかし、キャッシュフローが悪い状態と良い状態の違いを具体的に理解すると、悪い状態を良い状態に変えていくことも可能です。
国家財政の改善に比べると、企業財務の改善のほうがはるかに簡単です。国家財政は税収が基本になるため、キャッシュインを増やすには増税の必要があります。増税は国民の生活を直撃するため、簡単に実施できるものではありません。
キャッシュアウトの調整も困難です。国家財政におけるキャッシュアウトの内訳は社会保障費や公共事業費、防衛費などです。どれも簡単に減らすことはできず、安易に削減すると新たな社会問題が発生し、その対応によってキャッシュアウトが増加する可能性もあります。
これに比べて、会社のキャッシュフローはどうでしょうか。
キャッシュインを増やす、つまり売上を伸ばすためには営業に力を入れる必要があり、多くの困難が伴います。しかし、長期にわたって取り組むことにより、徐々に効果が得られるはずです。
より効果的なのは、キャッシュアウトの調整に取り組むことです。業務改善の積み重ねによって経費削減を進めると、キャッシュアウトは確実に減っていきます。経費を削減すれば、売上は変わらずとも利益が大きくなります。100万円の経費削減は、100万円の利益増加と実質的に同じ効果があり、キャッシュフロー改善に確実な効果をもたらすのです。
また、政府が働き方改革に力を入れている昨今、業務改善によって様々な助成金を受給できます。業務改善の結果、助成金を受給することによって、キャッシュアウトフローが減る一方でキャッシュインフローが増え、キャッシュフロー改善が加速します。
まとめ
キャッシュフローの意味をよく理解すれば、キャッシュフローの良し悪しや改善方法が分かります。自社に最適な取り組みも見えてくるでしょう。
もちろん、本稿で解説したのは基礎知識であり、具体的な実践にはより専門的な知識と経験が求められます。これからキャッシュフロー改善に取り組んでいく会社では、コンサルタントなどの専門家に相談しながら進めていくのがベストです。
まずは無料で相談できるコンサルタントを探し、相談してみることをおすすめします。
資金調達のプロがお客様の状況をヒアリングした上で適切なアドバイスを致します。
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