資金繰り改善

営業キャッシュフローの基礎知識と、マイナスになる5つの原因

キャッシュフロー計算書は、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3つによって構成されます。自社の実態を知る上でどれも欠かせないものですが、とりわけ重要なのが営業キャッシュフローです。
本稿では、営業キャッシュフローの基礎知識と、営業キャッシュフローがマイナスになる5つの原因を解説します。

営業キャッシュフローとは?

営業キャッシュフローとは、営業活動によるキャッシュフローのことです。期中における本業の営業活動で、お金がどのように出入りしたか、その結果どれだけのお金が手元に残ったかを表します。

「営業活動でのお金の出入り」とは、本来の営業にかかわる収入と支出をイメージすると分かりやすいです。具体的には、

  • 商品の売上代金
  • 商品の仕入代金
  • 外注費
  • 人件費

などです。

入ってくるお金は、ほとんどの場合売上代金が占めるため分かりやすいでしょう。

一方、出ていくお金には色々なものがあるため注意が必要です。

これらの収入と支出を並べ、差し引きでいくら残ったか(あるいはいくら不足したか)を表すのが営業キャッシュフローです。

営業キャッシュフローの仕組み

営業キャッシュフローに該当する項目には色々ありますが、主な項目は以下の通りです。具体的な数字と合わせてみていきましょう。

営業キャッシュフローの項目 (単位:万円)
商品販売など営業による収入 5,000
原材料や商品などの仕入れによる支出 -3,200
人件費による支出 -900
その他の営業支出 -500
受取利息 0
支払利息 -20
営業活動にかかる債権・債務により生じるキャッシュフロー 15
法人税などの支払い -170
差引営業キャッシュフロー 225

多くの会社では、これら項目を計上することで営業キャッシュフローを計算できます。

注意したいのは、受取利息・支払利息・法人税などの支払いが営業キャッシュフローに含まれることです。

これらの収支は、損益計算書では営業外収益として計上されるため、見落としやすい項目です。しかし、営業キャッシュフローではこれらの収支を「営業活動に伴う収支」とみなします。

キャッシュフロー計算は現金主義

このほか、「営業活動にかかる債権・債務により生じるキャッシュフロー」もややこしい項目です。これは、営業上の債権・債務のうち、売上債権と仕入債務から切り離して考えるものです。

会計ルールにおける利益計算は発生主義に基づきます。実際のお金の流れに関係なく、売上・原価・経費を決めて利益を計算します。売上債権を実際に回収する、仕入債務を実際に支払うというお金の流れは考慮しないのです。

一方、キャッシュフローは現金主義によって計算します。売上債権が未回収であれば、実際にお金が入ってくる動きはないため、営業キャッシュフローでは収入として計上しません。ところが、実際の経営では、

  • 売上債権は未回収だが、一部を前受金として受け取る
  • 仕入債務は未払いだが、一部を仮払金として支払う

といったお金の流れが生じることがあります。このような債権・債務による動きは、売上債権・仕入債務に比べると小さな動きであるため、まとめて計上するのです。

場合によっては、前受金として多額の現金が入ってくることもあるかもしれません。そのようなイレギュラーな動きは、新たに項目を設けて記載します。

営業キャッシュフローの中でも特に分かりにくい部分ですから、よく理解しておきましょう。

営業キャッシュフローは多いほうが良い

営業キャッシュフローの概念に初めて触れる人は、まず大まかなイメージを知るのが良いでしょう。すなわち、

  • 営業キャッシュフローはプラスの状態が良い(プラスが大きいほど良い)
  • 営業キャッシュフローがマイナスの状態は危険(マイナスが大きいほど危険)

というイメージです。

営業キャッシュフローがプラスの会社は、本業の収入で本業の支出を全てカバーできており、営業活動が順調であることが分かります。

当然、プラスの部分が大きいほど、営業活動が好調であることを意味します。銀行融資などの際も、「現金を生み出す力がある良い会社」と見なされ、高評価につながりやすいです。

一方、営業キャッシュフローがマイナスの場合には、本業で稼ぐことができず、支出が収入を上回っている状態です。したがって、営業活動が不調であることを意味します。

営業キャッシュフローのマイナスは、資金繰り悪化に直結します。銀行融資による資金調達が困難になるからです。

銀行は、返済できる会社にしか融資しません。原則的に、返済は会社が本業で生み出す現金によって行います。つまり、営業キャッシュフローがマイナスであれば借入金の返済ができない会社と見なされ、融資を断られる可能性が高いのです。

営業キャッシュフローを改善するには、稼ぐ力を高めるほかありません。しかし、経営改善にはコストがかかります。稼ぐ力が乏しいのですから、経営改善のためのコストを捻出することが難しく、ジリ貧に陥るケースも多いです。

このように考えると、「営業キャッシュフローはプラスが良い、マイナスは危険」の意味がよくわかるはずです。

営業キャッシュフローがマイナスになる原因

営業キャッシュフローのマイナスは避けるべきですが、そもそもなぜ営業キャッシュフローがマイナスになるのでしょうか。

営業キャッシュフローがマイナスになる主な原因は5つあります。経営改善の際には、自社の営業キャッシュフローのマイナス要因がどこにあるかを特定し、重点的に改善を図ることが大切です。

利益があがらない

まず、利益があがらないことが大きな原因です。

利益があがらないということは、売上に占める経費の割合が大きいということです。経費が売上を上回り、利益がマイナスになることもあります。

最も危険なのが赤字体質に陥ることです。赤字体質とは、赤字を簡単に受け入れ、赤字が慢性化することです。

赤字体質の会社では、採算性が悪く、初めから赤字になると分かりきっている案件でも、あえて受注する傾向があります。採算性が悪くとも、受注しなければ売上はゼロであり、固定費の支払いだけが発生します。このため、採算性が悪い案件でも「受注しないよりはマシ」と考えて受注するのです。

このような経営をしていると、利益がいつまでもあがりません。営業キャッシュフローがマイナスになるのも当然です。

採算性の悪い中でも利益を確保していくためには、経費削減をはじめとする経営効率化が急務です。

売上が落ちている

利益の次に重要なのが売上です。

キャッシュフロー計算は現金主義であり、売上は回収後に計上します。売上が減少すると、お金が入ってくる動きも少なくなり、営業キャッシュフローのプラス維持が難しくなります。

売上が減少しても、利益率を高めることである程度はプラスを維持できるでしょう。また、売上が横ばいの中、利益率を高めることで営業キャッシュフローのプラスを押し上げることもできます。

とはいえ、利益はあくまでも売上の中で増減するものであり、売上が大きいに越したことはありません。

売上と利益のどちらも重視しつつ、営業キャッシュフローのマイナスを遠ざけることが大切です。

売上債権が増加している

売上債権の増加も、営業キャッシュフロー減少の原因です。

なぜならば、売上債権増加のためには売上増加が必要であり、売上増加のためには仕入れの増加が必要だからです。仕入れの増加は支払いの増加(営業キャッシュフローの減少)をもたらします。

売上があがると、売上債権が発生します。いずれ回収して入ってくるのですから、営業キャッシュフローを高めることにもつながり、一概に悪いとは言い切れません。

問題なのは、売上の増加と売上債権の増加が比例せず、売上債権の増加が大きい場合です。これは、売上の回収がうまくいかず、売上が売上債権の状態で滞留していることを意味します。お金が入ってくる流れが伴わない状態です。

売上発生の前提として仕入れを行っているため、売上が回収できないまま仕入代金を支払うこととなります。これが、営業キャッシュフローの減少を招くのです。

棚卸資産が増加している

売上を得るには仕入れが必要です。原材料や商品を仕入れると、販売するまで在庫として保管します。これを棚卸資産といいます。

棚卸資産の減少は商品が売れて在庫が売上に変わったことを意味し、棚卸資産の増加は商品が売れるペースよりも仕入れるペースが早いことを意味します。売れない在庫を抱えたまま新たな在庫を仕入れると、古い在庫が滞留して不良在庫・過剰在庫を抱える可能性が高いです。

不良在庫・過剰在庫は売れない在庫ですが、現金を支払って仕入れています。営業キャッシュフローが入ってくる動きがなく、出ていく動きだけが起こるのです。

したがって、棚卸資産の増加も営業キャッシュフローのマイナス要因です。

仕入債務が減少している

仕入先に買掛金を支払うと、仕入債務が減少します。

売上を得るためには仕入れが必要ですから、仕入債務の支払いは悪いことではありません。ただ、売上を回収するスピードに比べて、仕入代金を支払うスピード(仕入債務の減少)が早すぎると、営業キャッシュフローが悪化します。

そもそも仕入債務とは、仕入代金を後日支払いとすることで発生します。いわば仕入先に代金を立え替えてもらっている状態です。

仕入債務の減少は、立て替えてもらっている期間・金額の減少にほかならず、減少分だけ現金が出ていくため、営業キャッシュフローが減少するのです。

まとめ

営業キャッシュフローは、本業の順調・不調を表す指標です。近年、銀行は資金繰りよりキャッシュフローを重視する傾向があります。資金調達のためにも、営業キャッシュフローの維持・改善が重要です。

ただし、営業キャッシュフローの悪化には、複数の原因が複雑に絡んでいることも多いです。本稿で挙げた以外の原因も検討することが欠かせません。

専門知識が必要ですから、まずはコンサルタントへの無料相談などを活用し、方針を立てることをおすすめします。

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