資金調達

銀行はなぜ保証付融資を勧めたがる?内部事情を教えます

中小企業が銀行融資を申し込んだ際、多くの場合、信用保証協会の保証付融資を提案されます。プロパー融資での資金調達はハードルが高く、また「借りられるならばいい」と思う経営者が多いことから、中小企業と信用保証協会は密接な関係にあります。では、銀行はなぜ信用保証協会を好むのでしょうか。信用保証協会について深く理解するためにも、銀行の内部事情も含めて解説します。

貸し倒れリスクの回避

銀行が保証付融資を好む理由は、主に二つあります。「貸し倒れリスクを回避できるから」と「利益の保全につながるから」という理由です。
すでにご存じの方も多いかもしれませんが、まずは貸し倒れリスクの回避についてみていきましょう。

保証付融資と銀行のリスク

保証付融資によって融資を出せば、銀行は貸し倒れリスクの大部分を避けることができます。というのも、信用保証協会の保証を付けて貸した場合、万が一回収不能になったとして、銀行が被る損失は貸し倒れ全体の2割に抑えられるからです。残る8割は、信用保証協会が代位弁済します。

 かつては、貸し倒れ損失の100%を信用保証協会が代位弁済していたため、銀行はリスクゼロで貸し付けることができました。これにより、銀行が簡単に融資を出すケースが増え、信用保証協会の代位弁済があまりにも多くなりすぎたため、銀行が2割を負担する「責任共有制度」が導入されました。

 とはいえ、貸し倒れ損失の8割を信用保証協会がカバーしてくれる保険効果は、銀行のリスク回避に非常に役立ちます。これが、銀行が保証付融資を好む最大の理由ともいえます。

保証付融資の保険効果

保証付融資の保険効果がどれほど大きいか、具体例で考えてみるとよく分かります。プロパー融資と保証付融資の場合の、銀行の貸し倒れリスクを比較してみましょう。
 ここでは、以下を条件とします

融資額:1,000万円

金利:2%

返済方法:1年後に全額一括返済

プロパー融資の場合

 プロパー融資の場合、銀行は返済期日に金利2%分を上乗せした1,020万円の返済を受けます。もし、返済期日までに融資先が倒産した場合には、1,000万円全額が貸し倒れ損失となります。
 これは、20万円の利益を得るために、1,000万円の貸し倒れリスクを背負っているということです。

保証付融資の場合

保証付融資の場合にも、返済期日に1,020万円の返済を受けます。しかし、融資先が倒産した場合、銀行の貸し倒れ損失は融資額の2割に過ぎません。この場合、20万円の利益を得るために負う貸し倒れリスクは200万円です。
この比較から、保証付融資の場合に銀行が負う貸し倒れリスクは、プロパー融資の1/5に抑えられることがわかります。
さらにいえば、1,000万円のプロパー融資(期待利益:20万円、貸し倒れリスク:1,000万円)を出すよりも、5,000万円の保証付融資(期待利益:100万円、貸し倒れリスク:1,000万円)を出した方が、同じ貸し倒れリスクでより多くを稼げるのです。
このように考えると、銀行が保証付融資を好む理由が分かるでしょう。

利益の保全

次に、利益の保全について考えていきましょう。これも、銀行にとって非常に重要なポイントです。

債務者区分と貸倒引当金

 利益保全の観点から、銀行が保証付融資を好む理由を理解するためには、債務者区分や貸倒引当金の知識が必要です。
 債務者区分とは、銀行が融資先の返済状況、業績・財務状況などを評価し、格付けするものです。債務者区分が良い会社は貸し倒れリスクも低いため、銀行は好条件で融資して利息を稼ぎたい、また関係を深めて今後の収益機会を広げたいと考えます。したがって、

  • プロパー融資
  • 低金利での借入れ
  • 無担保融資

といった、好条件での融資を引き出しやすくなります。

逆に、債務者区分が低くなってしまうと、

  • 信用保証協会の保証を求められる
  • 金利が高くなる
  • 担保を求められる

など、融資条件が悪くなります。もちろん、融資を受けられない可能性も出てくるでしょう。
 つまり、債務者区分とは、融資先の安全性を測り、融資の可否や融資条件を決めるための指標ともいえます。
債務者区分の結果に応じて、銀行は貸倒引当金を積み立てておくルールがあります。すなわち、

  • 債務者区分が良い会社は貸し倒れリスクが低いため、少額の引当金を積んでおく
  • 債務者区分が良くない会社は貸し倒れリスクが高いため、多額の引当金を積んでおく

というルールです。

具体的には、債務者区分によって貸倒引当金は以下のように変動します。

債務者区分 引当率
正常先 0.2~0.3%
要注意先 1~15%
要管理先
破綻懸念先 50~70%
実質破綻先 100%
破綻先 100%

 このように、債務者区分によって積み立てるべき貸倒引当金がかなり異なるのです。

貸倒引当金の負担

これが、銀行の利益に大きな影響を与えます。なぜならば、融資先の債務者区分によって積んでおく貸倒引当金は、あくまでも貸倒引当金は確実にプールしておくルールであり、事業(貸付金の元金に充てるなど)や資金繰りには一切活用できないからです。
例えば、1,000万円を金利2%、1年間の条件で融資する場合、

  • 引当率0.3%の正常先に融資する場合、貸倒引当金は3万円(返済までの1年間にわたり、貸倒引当金として3万円の資金が拘束される)
  • 引当率50%の破綻懸念先に融資する場合、貸倒引当金は500万円(返済までの1年間にわたり、貸倒引当金として500万円の資金が拘束される)

というように、非常に大きな差が出てきます。20万円を稼ぐために必要な引当金がこれほど違うのです。経営が悪化している会社に、銀行が融資を渋る理由がよくわかるでしょう。
自社の事業に当てはめると、深刻さが一層わかりやすいです。

  • 20万円の利益を得るために、3万円の現金をプールしておく
  • 20万円の利益を得るために、500万円の現金をプールしておく

のどちらかを選べといわれて、後者を選ぶ経営者はいません。
 銀行としては、債務者区分が良い(貸倒引当金が少なくて済む)会社に多く融資し、資金を効率よく回しながら、より多くの利益を確保したいと考えるのが当然です。

保証付融資ならば貸倒引当金が不要に

 銀行にとって怖いのが、融資の時点で債務者区分が良い会社にプロパー融資を出し、後に経営が悪化することです。この場合、銀行は経営悪化の程度に応じて債務者区分を引き下げ、新たに貸倒引当金を積み増す必要があります。
 ここがポイントです。
そもそも、貸倒引当金は銀行の貸し倒れ損失に備えるために積んでおく資金です。貸し倒れ損失の大部分をカバーできる保証付融資であれば、債務者区分を見直す必要がないのです。
つまり、保証付融資であれば、融資先の経営状況がどれほど悪化しても、貸倒引当金の積み増しも不要です。正常先と判断して保証付融資を出していれば、0.2~0.3%の貸倒引当金を確保しておけばよく、銀行の利益を圧迫する要因にはなりません。
銀行の利益保全のために、保証付融資は非常に都合の良い仕組みなのです。

銀行員個人の事情

 このほか、見落とされがちなものに「銀行員個人の事情」があります。
プロパー融資か保証付融資か、またその他の融資条件について、実際に提案してくるのは銀行員です。したがって、銀行員個人の事情も大きく影響してきます。
 一般的に、銀行員の成績はポイント制で評価されます。実務の成果に応じて(新規融資先の開拓や融資獲得によって)付与されるポイントが、ボーナスや昇進などを左右するのです。
 銀行によって細かい仕組みは異なりますが、例えば「1,000万円のプロパー融資で1,000点」といった仕組みになっています。
 当然ながら、銀行にとって利益の大きい成果に対しては、付与されるポイントも大きくなります。保証付融資は、貸し倒れリスクの大部分を避けることができ、利益の保全にも効果的であるため、プロパー融資よりも高く評価され、多くのポイントが付与されるのが普通です。
 元銀行員の話などによると、保証付融資によって得られるポイントは、プロパー融資の1.5倍程度になるようです。
 同じ金額の融資案件でも、もらえるポイントがこれだけ違うのですから、銀行員が保証付融資を進めてくるのも不思議ではありません。

保証料のおかしなところ

ここまで読んできて、保証付融資はおかしい制度だ、と感じた人もいるはずです。
 保証付融資を受ける際、会社は信用保証協会に対して保証料を支払います。これにより資金調達コストが高まるわけですが、「ともかく銀行融資が受けられるのだから・・・」と思い、保証料に疑問を抱かない経営者も多いです。
 しかし、保証付融資を強く勧めてくるのは銀行であり、その理由も

  • 銀行の貸し倒れリスクを避けるため
  • 銀行の利益保全のため
  • 銀行員個人の成績のため

といったもので、どれも銀行側の事情ばかりです。
 信用保証協会は公的機関であり、「中小企業の資金調達を円滑化する」という社会的使命を帯びているとされます。しかし、銀行の内部事情から考えていくと、保証制度はむしろ銀行のためにあるように思えます。
 このように考えると、会社が保証料を支払うのはおかしいことです。
 しかし、これはどうしようもないことで、経営者はこの事実を受け入れるほかありません。金利に保証料が上乗せされ、高めの調達コストを支払うことで銀行融資を受けるのが、保証付融資というものなのです。

まとめ

銀行の内部事情を知ると、銀行が保証付融資を好む理由がよくわかります。また、保証制度は銀行が多くのメリットを得られる制度でありながら、保証料は会社が支払うという「不合理な真実」も見えたはずです。
 中小企業にとってプロパー融資のハードルが高いため、保証料を支払って保証付融資を受けることも、ある程度は受け入れるべきです。この点に不満を抱くよりも、プロパー融資を増やしていくきっかけにしてください。
 もちろん、プロパー融資を受けるためには財務が良好であることが欠かせません。プロパー融資を目指すならば、資金繰り専門のコンサルタントに相談することをおすすめします。

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