資金調達

銀行と関係を深める手段は融資と返済だけではない。日常取引も活用を

「銀行と関係を深める」とは?

銀行融資を受けやすい状況を作っていくためには、銀行との関係を深めていくことが大切です。では、「銀行との関係を深める」とは、どのようなことを指すのでしょうか。
銀行と会社の関係を考えるとき、資金調達を軸に考える人が少なからずいます。会社にとって銀行とは融資を受けられる相手であり、資金調達のカギとなる取引相手ですから、このように考えてしまうのも無理はありません。
しかし、銀行を資金調達先と捉えて付き合おうとすれば、関係がなかなか深まらない可能性があります。なぜならば、単に資金調達先と考える場合、

・融資を受けられるか、受けられないか
・プロパー融資を出してくれるか、信用保証協会の保証を求めるか
・無担保で融資してくれるか、保全を厳しく求めるか
・融資額は希望通り出してくれるか、出してくれないか
・金利は高いか、低いか

というように、会社に有利な取引ができるかどうかにこだわりすぎることがあるからです。
そもそも、銀行がなぜ融資してくれるのかといえば、融資することで金利収入が得られるからです。つまり、銀行もビジネスとして資金を供給しているのです。
銀行の立場や収益性を全く考えずに自社の資金繰りばかりを考えている会社は、銀行にとってはそれほどメリットのない付き合いにくい会社であり、関係も深まりにくくなります。
逆に、双方がwin winの関係になることを考える会社は、銀行にとってもよい取引ができる会社、付き合いやすい会社といえます。関係を深めていくことも比較的容易です。

考え方のポイント

このことを意識しておけば銀行との関係が深まりやすく、資金調達にもプラスに働くことがあります。銀行が、融資以外の取引メリットを高く評価している場合には、良い条件で融資してもらえることが多く、経営が悪化した際にも支援を受けやすくなるのです。
したがって、銀行と会社の関係を考える際には、

「融資を受け、きちんと返済すれば銀行からの信用は得られ、関係を深めることができる(無理なく確実に返済できるよう、良い条件で融資してほしい)」

と考えるのでは不十分です。借りたものを返すのはごく当たり前のことです。返済実績によって信用が高まり、資金調達にプラスになるには長い時間を要します。
確かに、銀行にとって収益の柱は利息収入ですが、それ以外にも様々な取引によって収益を得ています。
特に、超低金利時代の昨今では、金利収入に過度に依存すると収益を大きく下押しする原因になりかねないため、多くの銀行が収益源の多様化を図っています。
ここに焦点を当てるのが、銀行と関係を深めるポイントです。すなわち、

「融資だけではなく、日常取引も含めて積極的に取引していこう。そうすれば、金利収入以外にも手数料などが銀行の収入になり、関係を深めることができる(色々な取引をしておけば、銀行も金利引き下げを検討しやすいだろう)」

と考えるのです。この考え方によって銀行と付き合うならば関係は深まりやすく、資金調達にも好影響が期待できます。
確実に返済するだけではなく、後者のように融資以外の取引も利用して銀行に収益機会を与え、銀行に「この会社とは関係を深めておきたい」と思わせることが重要です。

すぐに使える日常取引3種

さて、では日常取引とはどのような取引を意味するのでしょうか。
大まかにいえば、日常取引とは融資以外の取引のことです。預金、手形の決済、為替取引、公共料金の支払いなど、様々な取引があります。
これの日常取引が銀行との関係、延いては資金調達にどのように影響してくるのか、またどのように活用すればよいのか、3つに分けて見ていきましょう。

①預金を増やす

どの会社でもすぐに実践できるのが預金を増やすことです。預金を増やすことは、銀行に大きなメリットをもたらします。

利ざやになる

何といっても、預金は利ざやの獲得に欠かせないものです。銀行は低い金利でお金を預けてもらい、それを高い金利で貸し出すことで利ざやを稼いでいます。つまり、預金は融資の原資になるのです。
銀行は、会社から預かったお金の利率と融資したお金の利率の差によって採算をみます。取引採算の計算方法は2種類ありますが、簡易的な「実効金利」で考えてみましょう。
実効金利の計算方法は、

実効金利=(融資額×融資利率-預金額×預金利率)÷(融資額-預金額)

です。
例えば、融資額3,000万円・融資利率2%、預金額1,000万円・預金利率0.01%の条件を上記の計算式に当てはめると、実効金利は2.995%となります。融資額は3,000万円ですが1,000万円の預金があるため、純粋な融資額は2,000万円となり実質的な金利も高くなるのです。
このため、銀行は預金を増やすことを歓迎します。銀行の支店と銀行員は預金獲得のノルマが課せられていることも多く、日常取引の中でも特に銀行が好む取引といえます。
銀行との関係を深めて資金調達につなげていくには、実効金利に配慮して預金額を調整するのがポイントです。
上記の例に500万円の預金を増やした場合には融資額3,000万円・融資利率2%、預金額1,500万円・預金利率0.01%となり、実効金利は3.990%まで高まります。
また、1,000万円の追加融資を受けて融資額4,000万円・融資利率2%、預金額1,000万円・預金利率0.01%となった場合には、実効金利は2.663%に低下します。これでは、銀行の採算が悪化してしまうため、可能であれば預金を増やすのが好ましいです。預金額を300万円増やせば実効金利は2.958%となり、ごく軽微な低下に抑えることができます。

保全になる

実効金利の計算式を見ると、銀行が融資額から預金額を差し引いた純融資額を重視していることが分かります。
もし、会社が多額の預金を引き出せば実効金利は大幅に低下し、銀行の採算は悪化してしまいます。当然、銀行は預金が減ることを嫌うため、日常取引では「預金を増やす」と同時に「預金を一定以上に保つ」ことも大切です。
このことは、銀行の対応にもよく表れます。
例えば、銀行から「預金残高が〇〇万円以下にならないようにしてください」といわれた経験がある経営者は多いことでしょう。普通預金よりも定期預金を勧められた経験もあるかと思います。
これは、銀行が会社の預金額を減らしたくないことの表れです。
預金は保全にもなります。一定以上の預金額を保っていれば、銀行は「この会社は現金が潤沢で資金繰りも安全だ」と安心できます。預金が急激に減少した場合には厳しく与信管理でき、場合によっては預金口座をロックすることで保全を図ることも可能です。
このように、銀行に安心感を与える意味でも効果的なのです。

実効金利と保全の仕組みを知れば、預金額が多い会社ほど融資を受けやすくなる道理も理解できると思います。

②手数料の発生する取引を増やす

手数料の発生する取引を増やすことは、預金額を増やすよりもダイレクトに収益が発生します。手数料収入の拡大はどの銀行でも重視しているため、取引規模によっては日常取引の中でも特に高い効果が見込めます。
手数料を伴う取引には、振込手数料や手形取立手数料、為替手数料などがあります。銀行と関係を深めるポイントは、これらの取引を複数行に分散させるのではなく、ある程度まとまった件数を特定の銀行に集中させることです。
例えば、1件あたりの手数料が300円、毎月200件の取引をしている会社が、付き合いのある4行に50件ずつ分散した場合、各行に年間18万円の手数料収入をもたらします。
もし、この取引を1行に集中させたならば、その銀行では毎年72万円の手数料収入が発生します。年間72万円といえば、3,600万円・利率2%で融資した場合の年間利息収入と同じなのですから、銀行には大きなインパクトを与えることができます。
このように、取引件数が少ない会社でも、1行に集中させることでまとまった手数料収入をもたらし、資金調達にも好影響が見込めます。

資金調達に活用しやすい

手数料を伴う取引は、新規事業資金の調達でも活用しやすいです。
新規事業の資金調達は難航することが多いのですが、銀行もこれをチャンスと考えています。新規事業展開に伴って多くの取引が発生するためです。
分かりやすいのが外国為替取引です。輸出入を行う事業では外国為替取引が頻繁に行われるため、銀行は多額の手数料収入が得られます。
この場合、融資を申し入れる際には為替取引を全て集約することを伝えることによって、融資条件が有利になる可能性があります。

口座振替を増やす

会社では、公共料金、保険料、会計ソフトやクラウドサービスの利用料など、様々な料金を口座振替で支払っていることと思います。これも、銀行との関係を深めるのに役立ちます。
銀行は、引き落としを依頼している企業から手数料を受け取っています。振込手数料や為替手数料は自社が支払うため意識しやすいのですが、口座振替の手数料は引き落とし依頼企業が支払うため見落としがちです。
銀行は、振替口座に指定してもらうことで振替手数料が得られます。口座振替を特定の銀行に集約していくことも、銀行との関係強化に役立ちます。

③従業員も巻き込む

最後に、従業員も巻き込んで取引を増やすことを考えてみましょう。
分かりやすいのが給与振込口座です。給与振込口座を特定の銀行に指定すれば、その銀行は従業員の口座の預金獲得が期待できます。
ほとんどの人は、給与振込口座をメインの口座として使います。このため、ネットショッピングや公共料金の支払いなど、日常の様々な支払いに使われる可能性も高いです。従業員が多い会社であれば、給与振込口座への指定によって多額の振替手数料が見込めます。
さらに、メインの口座として利用している銀行は身近に感じるものであり、従業員が住宅ローンや自動車ローンを組む際にも候補になりやすいです。
住宅ローンは住宅が担保になるためリスクが低く、1件あたりの融資額も大きく、銀行にとっては手堅い利息収入をもたらす優良案件であることが多いです。
銀行は総合的な取引採算を重視するため、会社との取引だけではなく、会社の従業員の取引も含めてソロバンをはじきます。従業員を巻き込むことで銀行に多くのメリットを与えるならば、関係を深めていくことは容易となり、資金調達にもプラスになっていくことでしょう。

まとめ

本稿では、日常取引の重要性と具体的な活用例について解説しました。銀行と関係を深めていく際には、日常取引を積極的に活用していくことが大切です。
まずは、自社が無理なく利用できるものから活用していきましょう。日常取引の活用を少しずつ意識していくだけでも、銀行と付き合っていく姿勢が変わり、資金調達にプラスになることと思います。

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