日本政策金融公庫は、民間金融機関に比べて融資を受けやすいといわれています。果たして、それは本当なのでしょうか。その真偽を知るには、審査基準から考えるのがベストです。それによって、審査落ちの理由や対策も見えてきます。本稿では、日本政策金融公庫の審査について徹底解説します。
日本政策金融公庫とは?
日本政策金融公庫は、日本政府が100%出資して運営する公的金融機関です。
日本政策金融公庫の役割や目的は、法律で明確に定められています。株式会社日本政策金融公庫法の第1章には、以下のように記載されています。
日本政策金融公庫は、一般の金融機関が行う金融を補完することを旨としつつ、国民一般、中小企業者及び農林水産業者の資金調達を支援するための金融の機能を担うとともに、内外の金融秩序の混乱又は大規模な災害、テロリズム若しくは感染症等による被害に対処するために必要な金融を行うほか、当該必要な金融が銀行その他の金融機関により迅速かつ円滑に行われることを可能とし、もって国民生活の向上に寄与することを目的とする
この目的から、日本政策金融公庫の役割がよく分かります。それは、民間金融機関では対応できない融資を補完することが、日本政策金融公庫の最大の役割となっています。
このため、日本政策金融公庫を利用すれば、次のような会社でも融資が可能となります。
- 銀行融資を受けられるだけの業歴や返済実績がない創業期の会社
- 業績や財務の悪化によって銀行融資を受けられない会社
日本政策金融公庫のメリット
では、日本政策金融公庫を利用する具体的なメリットをみていきましょう。
融資を受けやすい
日本政策金融公庫の最大のメリットは、銀行融資に比べてハードルが低いことです。ですが、後ほど解説しますが、日本政策金融公庫だからといって審査が甘いわけではありません。ただ、日本政策金融公庫は民間金融機関とは異なる基準で審査するため、銀行融資に落ちた会社や創業期の会社でも融資を受けられる可能性が高くなります。
また、経済情勢が大きく影響することから、大規模な経済不況などの際にも積極的に融資する傾向が顕著です。
信用につながる
日本政策金融公庫から融資を受けることで、自社の信用が高まることも期待できます。
特に、創業期の会社やリスケジュール完了直後の会社など、民間金融機関との取引が難しい会社には大きなメリットとなります。
このような会社は信用が乏しいため、民間金融機関から融資を受けることが困難です。しかし、日本政策金融公庫なら融資を受けられる可能性があります。
日本政策金融公庫から融資を受け、返済していけば返済実績となります。この返済実績が、返済能力を証明することにもつながり、民間金融機関から融資を受ける際の好材料となります。
過去の業績を重視しない
日本政策金融公庫は、過去の業績をさほど重視しないのが特徴です。創業前の段階では、当然ながら過去の業績が存在しません。それでも創業融資を行えるのは、日本政策金融公庫が過去の業績にとらわれない証拠といえます。
業歴のある会社も同様です。過去の業績が悪かったとしても、日本政策金融公庫なら融資可能なケースもあります。もちろん、過去の業績を改善するための具体的な経営計画が欠かせませんが、逆に言えば将来を手掛かりに融資を引き出せるともいえます。
無担保・無保証で融資を受けられる
日本政策金融公庫には、たくさんの融資制度があります。このうち、いくつかの融資制度は無担保・無保証で借りることが可能です。
ただし、大部分の融資は有担保・有保証人ですから、無担保・無保証が基本とは考えるのは間違いです。
- 新創業融資
- マル経融資(小規模事業者経営改善資金)
- 挑戦支援資本強化特例制度
- 新型コロナウイルス感染症特別貸付
このような融資が、無担保・無保証となっています。
日本政策金融公庫のデメリット
ただし、日本政策金融公庫にも色々なデメリットが存在しています。
銀行融資に落ちた会社でも利用できるメリットに比べると、どれも些細なデメリットといえるでしょう。しかし、できるだけ避けるに越したことはありません。
金利に柔軟性がない
日本政策金融公庫の金利は、各融資制度で設定が異なります。大きく分けて基準利率と特別利率の2つのタイプが適用され、特別利率はさらに複数の設定に分かれます。
このように書くと、金利設定がいかにも柔軟であるイメージを持つことでしょう。そうではなく、例えば「一般貸付」の適用金利は基準金利一択です。無担保融資を希望する場合の基準金利は、2.06~2.55%の範囲内で決まります。
銀行融資ならば、業績推移や財務内容、融資以外の取引や融資シェアなど、総合的観点から自由に金利を設定します。「必ずこの範囲内で」といった決まりがないため、会社によっては優遇を受けられることもあります。このような違いから、日本政策金融公庫の適用金利は、民間金融機関より高くなることもあります。
提出書類が多い
民間金融機関でも、融資を申し込んだ際には色々な書類を求められます。しかし、日本政策金融公庫は特に提出書類が多いです。主な書類は以下の通りです。
- 登記簿謄本
- 過去3期分の決算書
- 試算表
- 経営者の身分証明書
- 納税証明書
- 会社と経営者個人の通帳
- テナントや事務所の賃貸契約書
- 許認可が必要な事業の場合には許可書
- 所有不動産の登記簿謄本
- 経営計画書
- 総勘定元帳
これまで銀行融資しか利用経験がない場合、これらの書類の準備に手間取るはずです。不慣れな場合には、コンサルタントなどの支援が必要となります。
融資実行までに時間がかかる
日本政策金融公庫は、状況によって融資実行までに時間がかかることもあります。常に銀行融資より時間がかかるということではなく、銀行融資よりスピーディに資金調達できるケースもあります。
しかし、日本政策金融公庫は支店が少なく、1つの支店、あるいは1人のスタッフが受け持つ会社が非常に多いです。そのため、平常時でも親身な対応を受けにくい傾向があります。
特に、コロナ禍のように融資希望者が急激に増加する局面では、日本政策金融公庫の対応できるキャパシティを超え、申し込みから融資実行まで非常に長い時間を要することがあります。
多額の融資は厳しい
日本政策金融公庫は国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業など複数の事業で成り立っています。このうち、中小企業事業では数億円の融資枠を設けているため、多額の借入れができるように思われがちです。
しかし、年商5億円くらいまでの会社は、基本的に国民生活事業での対応となり、融資上限額も7,200万円が基本です。
また、限度額いっぱいの借入れはハードルが高く、支店で決裁できるのは2,000万円が目安といわれています。それ以上を希望する場合には本部決裁となり、審査がかなり厳しくなります。
経営者個人の信用情報を見られる
民間金融機関でも、経営者の個人信用情報を照会することがありますが、必ずチェックされるわけではありません。むしろ、会社の情報にキズがなければ問題ないと考えることが多いです。
しかし、日本政策金融公庫では必ず個人信用情報をチェックします。経営者が消費者金融などから借りていると、いくら個人的な借入れとはいえ審査に悪影響となります。
また、個人信用情報を見られていることを知らず、日本政策金融公庫に対してノンバンクからの借入れを隠そうとする人も多いです。それが原因で、融資が受けられなくなるケースが非常に多いので、ご注意ください
日本政策金融公庫の審査が甘いって本当?
一般的なイメージとして、「日本政策金融公庫の審査は甘い」というものがあります。
確かに、一面において日本政策金融公庫の審査は甘いといえます。これは、創業期の会社や業績が悪化している会社などでも審査に通るからです。つまり、「銀行融資に通らない会社でも、日本政策金融公庫なら通る」という意味で「甘い」といわれています。
しかし、日本政策金融公庫でも審査に落ちることはごく普通にあります。「審査が甘い」といっても「大抵の会社が審査に通る」「申し込めば融資を受けられる」などと考えるのは間違いです。
日本政策金融公庫の甘いイメージは、あくまでも「銀行融資とは審査基準が違うこと」によるものです。異なる基準で確かに審査しており、その審査基準からみて問題があれば融資を受けることはできません。
そもそも、日本政策金融公庫の貸出金の財源は、政府の財政投融資です。政府の財投債(国債)などが財源になっています。つまり、日本政策金融公庫の財源は国民からの借金なのです。
わざわざ国民から借金して財源を確保するのですから、その使い方は慎重です。日本政策金融公庫から融資を受けることで多くの会社が経営を存続でき、その結果として雇用の維持や拡大、経済の成長といった目的に適うよう、効率的・効果的な運用が重要です。
この目的に合わなければ、銀行でも借りられず、日本政策金融公庫からも借りられず、といったことも十分に考えられます。審査を甘く考えず、日本政策金融公庫の目的や理念、財源なども踏まえて審査に臨むことが大切です。
日本政策金融公庫の審査基準と審査期間
日本政策金融公庫の利用にあたって、気になるのが審査基準と審査期間です。
日本政策金融公庫の審査基準
日本政策金融公庫の審査基準から考えていきましょう。
これまで解説した通り、日本政策金融公庫は民間金融機関とは異なる基準で審査しています。とはいえ、民間金融機関と同じように業績や財務を軽視するわけではありません。
経済環境や経営者の資質、会社の将来性などを考慮するため、民間金融機関に比べて業績や財務の比重が小さくなるということです。それでは、主な審査基準をみていきましょう。
経済環境
まず、経済環境が大きく影響します。特に、昨今のコロナ禍のような状況では、日本政策金融公庫は積極的に融資する傾向があります。
経済環境が急速に悪化すると、多くの会社が資金繰り難に陥ります。そのような場合に、融資業務を全て民間金融機関に任せることは不可能です。積極融資した銀行で貸し倒れが続出し、経営破綻などに陥れば国家経済に重大な悪影響をもたらします。
かといって、銀行が慎重に融資すれば資金ショートに陥る会社が続出し、国家経済が破綻しかねません。したがって、日本政策金融公庫は「民間金融機関の補完」として、積極的に融資をおこなっています。
業績・財務
民間金融機関と同じように、日本政策金融公庫も業績・財務を審査します。決算書の内容は特に重要です。これにより財務内容、業績、売上規模などを把握し、融資可能額が決まります。財務内容をみるとき、日本政策金融公庫は総勘定元帳で仕訳データまで精査します。数値のチェックなどでは、銀行以上に厳しいといえるでしょう。
決算書の内容が悪ければ、日本政策金融公庫の定める融資上限額いっぱいの借入れは不可能です。銀行融資を断られて日本政策金融公庫に依頼する以上、決算内容は悪いと考えるべきでしょう。融資限度額を基準に資金調達計画を立てると、計画通りにいかない可能性が高いです。
経営者の資質
日本政策金融公庫に融資を申し込むと、公庫の担当者と面談しなければなりません。このとき、経理担当者や税理士・コンサルタントなどの同席は許されず、代表者だけで面談します。
面談の際には、経営の現状や資金使途、経営計画などについて色々聞かれます。これは、
- 経営者が積極的に経営に取り組んでいるか(部下や専門家に丸投げしていないか)
- 中長期を見据えて経営しているか
- 資金使途に矛盾がないか
- 経営者の人間性はどうか
など、いわば「経営者としての資質」をチェックすることが目的です。
ここで好印象を与えることができれば、決算内容に問題があっても融資を受けられる可能性が期待できます。
もっとも、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、現在は対面ではなく電話面談が多くなっています。
経営計画
日本政策金融公庫では経営計画書の提出を求め、将来性を審査します。これが、民間金融機関と大きく異なるところです。
経営計画書の様式は、日本政策金融公庫の公式HPからダウンロード可能です。
融資制度によって様式が異なる場合もありますが、基本的な形式では、今期~3期目までの計画と最終目標を細かく立てる必要があります。長期の業績推移だけではなく、借入金の期末残高推移や営業・人事・財務など経営全般の方針も記載しなければなりません。
確実を期するためにも、コンサルタントの支援を受けるのがおすすめです。
日本政策金融公庫の審査期間と審査の流れ
日本政策金融公庫の審査期間(融資実行までの期間)は、1~1ヶ月半が目安です。ただし、経済不況によって申し込みが殺到したり、繁忙期のため申し込み件数が一時的に増加したりする場合には、通常より時間がかかると考えてください。
初めて利用する場合は、
- 融資の申し込み、書類提出、面接(1週間)
- 審査(2~3週間)
- 融資決定から融資実行まで(1週間)
といったイメージです。
ただし、追加融資の際には確認事項が少ないため、経営が順調であれば2週間程度で融資実行に至るケースもあります
合わせて、審査の流れも確認しておきましょう。
1.融資を申し込む
最初に、日本政策金融公庫に融資を申し込みます。申し込みは電話でも可能ですが、電話の後支店の窓口を訪問する必要があります。ただし、現在はコロナの影響があるため、融資制度によってはオンラインでの申し込みも可能です。
いきなり電話や訪問しても相談できますが、ワンクッションあったほうがよいでしょう。例えば、商工会議所や税理士からの紹介があれば、審査全体がスムーズに運びやすいです。
申し込みの際、流れの説明や提出書類など、必要事項の説明を受けます。申し込み後1週間ほどで面談日が設定されるため、それまでに書類をしっかり準備しておきましょう。
2.面談を受ける
日本政策金融公庫の支店を訪問し、提出資料をもとに面談を受けます(コロナ禍の現在は、電話などで融資を相談し、必要書類を郵送した後、提出書類をもとに電話面談を行うのが一般的です)。提出書類のなかで特にチェックされるのは、
- 社会保険や税金の滞納がないか
- 民間金融機関の借入れと返済の状況はどうか(特に延滞がないか)
- 売上の入金額が決算書・試算表と一致するか
- 将来的な経営計画に実現性があるか
といった点です。また、代表者の個人信用情報もチェックされます。
書類の数値や計画、個人の信用をチェックするだけではなく、チェックと質疑応答を通して代表者の人間性・資質も審査対象となっています。
3.審査
面談の時点で問題があれば、形だけの審査を実施して融資謝絶となるでしょう。日本政策金融公庫は支店ごとに抱える融資案件が多いため、面談で問題があった会社は早々に切り捨てることが多いです。
面談に問題がなければ、面談の内容をもとに入念な書類審査を行い、融資の可否や限度額などを判断していきます。
融資を申し込んだ会社が民間金融機関でリスケジュールしている場合、他の銀行に同意を求めます。リスケ中も日本政策金融公庫の融資は可能ですが、リスケ決定後の融資実行であるため、民間金融機関へのリスケと日本政策金融公庫への返済が同時進行となります。
不利益を被るとして民間金融機関が同意しなかった場合、日本政策金融公庫は融資できません。このようなことも含め、審査を進めていきます。
4.融資実行
審査の結果、問題がなければ融資が決定し、契約を交わし、融資実行となります。
コロナ禍の現在、契約書類のやり取りも郵送で行うケースが増えています。その場合、書類返送後、1週間程度で入金となる流れが一般的です。
日本政策金融公庫で審査落ちする5つの理由
日本政策金融公庫では、どのような理由によって審査落ちするのでしょうか。代表的なものを5つ挙げます。
1.個人信用情報に問題がある
既に解説している通り、日本政策金融公庫では必ず代表者の個人信用情報をチェックします。この点は、民間金融機関より確実なので注意が必要です。
個人信用情報で問題とみなされる情報には、
- ノンバンクからの借入れがある
- クレジットカードや住宅ローンなどを、過去2年以内に滞納したことがある
- 過去5年以内に債務整理をしている
- 過去5年以内にクレジットカードの強制解約を受けている
などがあります。特に、債務整理や強制解約の情報があれば、審査に通る可能性はほぼゼロとなるため、個人信用情報がクリーンになるまで日本政策金融公庫は利用できません。
2.公共料金や税金などの未払い
公共料金や税金、社会保険料などの支払いに問題がある場合も、ほぼ100%審査に落ちます。
民間金融機関でも、「税金さえ納められない会社が、まともに返済できるはずがない」と考えて融資を断りますが、日本政策金融公庫はそれ以上に厳しく評価します。
政府の財源である税金を納めていない会社に、政府系金融機関の日本政策金融公庫が融資を出せるはずがないのです。
税金や社会保険料が未納状態の会社は、必ず未納を解消してから申し込むようにしましょう。
3.自己資金が少ない
民間金融機関でも、自己資金は審査に大きく影響します。自己資金が潤沢であれば、それを流動保全と見なして融資は実行しやすくなります。
日本政策金融公庫は、民間金融機関以上に自己資金を重視します。融資制度によっては、自己資金額によって融資上限額が決まります。例えば、創業融資は「自己資金が融資総額の10分の1以上あること」が絶対条件です。
仮に2,000万円の融資を希望する場合、自己資金が最低でも200万円必要ということです。自己資金額が明確に定められていない融資制度も多いですが、自己資金が少ない会社ほど審査に落ちやすくなります。
4.経営計画がおかしい
面談の際には、経営計画についても色々聞かれます。経営計画に求められるのは実現性であり、矛盾があれば審査に落ちる可能性が高まります。
融資を受けたい一心で、できるだけ明るい計画を立てる経営者も多いです。しかし、将来的に売上増加を計画していても、どのように売上を伸ばしていくのか、具体的なプランがなければ意味がありません。「売上が増加していく理想」と「売上増加が厳しい現実」の間で矛盾が生じます。
このほか、資金繰りの基本をよく理解していないと、売上が増加しているにもかかわらず必要経費が横這いで推移している、といった矛盾も起こりやすいです。
矛盾のない計画書を作るには、コンサルタントなどの専門家に協力を依頼しましょう。
5.面談での失敗
面談での失敗も、審査に落ちる大きな理由です。面談では資金使途や事業内容、経営計画などをヒアリングし、代表者の人間性や、経営への積極性などをチェックします。
ここでちぐはぐな回答をすれば、経営をよく理解していないと判断されます。資金繰りの理解が浅い場合、資金繰りの計画性を疑われ、資金使途や返済能力まで疑われる可能性が高いです。
面談でも、コンサルタントが役立ちます。コンサルタントから事前に想定される質問を教えてもらい、回答を準備しておくことで面談に対応できます。
日本政策金融公庫の審査に落ちた場合の対策
もし、日本政策金融公庫の審査に落ちた場合には、以下のように対策してください。
審査落ちした理由の解明・改善
絶対に欠かせないのが、審査落ちの理由を突き止めることです。これが分からなければ対策はできず、何度申し込んでも審査に落ちる事態となります。資金を調達できない期間が長期化し、経営が悪化していくことも考えられます。
審査落ちの原因を究明せず、前回の審査時よりも経営が悪化しているならば、審査に通る道理がありません。まずは本稿の内容と照らし合わせて、自社の問題を洗い出してみましょう。
ただし、経営者の見立てだけでは問題を見落とす危険があります。コンサルタントに相談し、問題点を指摘してもらうのがベストです。
半年後に再申し込み
前回の審査落ちの原因を踏まえて、日本政策金融公庫に再度申し込むならば、必ず審査落ちから半年以上後に申し込む必要があります。
これは、半年以上の期間を空けていなければ、日本政策金融公庫は再審査を受け付けないためです。融資を出せる水準まで経営を改善するには、一定期間を要します。審査落ちから6ヶ月も経たないうちに何度申し込んだところで、「駄目なものは駄目」と断られるのです。
もちろん、6ヶ月が経過したからといって、その期間中の取り組みが不十分であったり、的外れであったりすれば、融資できる水準には至りません。当然、審査に落ちてしまいます。
自己資本比率を上げる
したがって、再度融資を申し込むまでの間、少なくとも6ヶ月間は経営改善に取り組む必要があります。この取り組み次第で、次回の審査に通る可能性が大きくなります。効果的なのは、自己資本比率を上げることです。
自己資本とは、返済義務のない資本のことです。これに対し、借入金などの返済義務がある資本は他人資本といいます。自己資本比率は、総資本に占める自己資本の割合です。これが高いほど経営の安全性が高まるため、審査に有利となります。
自己資本比率を高めるには、
- 借入金の返済を進め、総資本に占める他人資本の比率を下げ、相対的に自己資本の比率を上げる
- 経営者の個人資産を会社所有とし、自己資本を厚くする
といった方法があります。
他人資本の圧縮は、6ヶ月ではあまり効果が得られないでしょうから、後者の方法で自己資本を厚くするのが良いでしょう。経営者個人の資産を会社名義にするほか、経営者から会社に貸し付けるのも効果的です。
認定支援機関を利用する
認定支援機関とは、国が認定した支援機関のことです。経営のアドバイスや経営計画作成の支援などを行います。つまり、認定支援機関を利用することは、国が認めた機関から経営支援を受けることにほかなりません。
認定支援機関も日本政策金融公庫も、政府の意向を受けた機関である以上、方向性は似通っています。認定支援機関は経営支援、日本政策金融公庫は資金繰り支援という形で、事業者を支援しているのです。
したがって、認定支援機関を利用している会社には、日本政策金融公庫も積極的に融資を検討できるメリットがあります。
民間金融機関の保証付融資を利用する
日本政策金融公庫の審査に落ちた会社で、半年も待っていられないという場合には、信用保証協会の保証枠をチェックしてみてください。すでにチェック済み(保証枠が残っていない)という会社が多いでしょうが、案外見落としもあるものです。
また、経済情勢に大きな問題がある場合には、通常の保証枠とは別枠で保証付融資を受けられることが多いです。コロナ禍の現在、セーフティネット保証などが実施されており、別枠で保証を受けられます。
自治体の制度融資に申し込む
信用保証協会の保証枠に余裕があることが分かったら、自治体の制度融資も検討してみましょう。
通常の保証付融資は、信用保証協会が民間金融機関の融資を後押しする制度です。これに対し、制度融資は自治体と信用保証協会が協調して民間金融機関に働きかけます。このため、融資を受けられる可能性が高まり、さらに保証料や金利負担の補助も期待できます。
ただし、制度融資の内容は自治体ごとにかなりバラつきがあり、場合によってはほとんど役に立たないケースもみられます。まずは調べてみるのがよいでしょう。
日本政策金融公庫の融資は個人事業主でも可能?
日本政策金融公庫の融資対象は、法人だけではありません。個人事業主の融資も取り扱っています。個人事業主は法人に比べて、事業の内容や規模が小さいのが普通です。法人・個人事業主に関係なく、事業の内容や規模が小さい事業主は業績が不安定であり、財務基盤も脆弱です。
また、個人事業主は事業と家計が密接な関係にあり、家計の問題が事業に影響しやすいものです。事業主個人の信用情報に問題がある場合、法人代表者の個人信用情報よりも大きな悪材料となります。
これらの理由から、個人事業主は法人に比べて審査に通りにくい傾向があります。とはいえ、法人も個人事業主も審査基準は同じです。個人事業主というだけで厳しく審査することはありません。
逆に、経営計画がしっかりしている個人事業主は、審査に通りやすいです。個人事業主の場合、事業主ひとり、あるいはごく身内だけで経営していることが多く、たくさんの従業員や関係者を抱える法人のようにしがらみがありません。経営計画書には、事業主個人の考えが反映されやすく、事業の実現性を評価されることも多いです。
したがって、業績や財務に大きな問題を抱えておらず、個人信用情報もクリーンであれば、あとは経営計画書に力を入れることで審査に通る可能性が高いといえます。
新型コロナウイルス感染症特別貸付について
ここまでにも何度か触れましたが、コロナ禍の現在、日本政策金融公庫では「新型コロナウイルス感染症特別貸付(以下、コロナ融資)」という制度を実施しています。
2021年10月8日現在、政府はコロナ融資を2021年末まで継続することを発表しています。今後の感染状況や経済情勢によって、延長されるかもしれません。
コロナ融資の特徴は、通常の融資に比べて審査に通りやすいことです。コロナの影響による経営難が明らかであれば、かなり審査に通りやすいと評判です。
新型コロナウイルス感染症特別貸付の審査期間
2020年、コロナ融資は融資実行までに非常に長い時間を要するといわれました。これは、
- 申し込み件数が非常に多く、日本政策金融公庫のキャパシティをはるかに上回ってしまったこと
- 当時はワクチンが開発されておらず、コロナの研究も拙劣であったため、感染防止対策の仕組みが構築されておらず、スムーズな対応が難しかったこと
などが理由です。
現在では、このような問題はほぼ解消されています。郵送やインターネットでの申し込み、郵送での書類提出、電話面談などの流れが構築されたため、感染防止対策も万全であり、円滑な手続きが可能となりました。
ただし、感染状況や申し込み状況が地域によって大きく異なるため、「これくらいで融資実行」という目安を立てることができません。強いて目安をいえば、概ね数週間~1ヶ月程度と考えてください。具体的には、
- コロナ融資を申し込み、必要書類を提出する
- 1週間程度で電話連絡を受け、電話面談を行う
- 1週間~10日程度で審査結果が出る。審査に通れば契約書類が送付される
- 契約書類を返送し、1週間程度で入金
といったイメージです。
新型コロナウイルス感染症特別貸付で追加融資は可能?
すでにコロナ融資を受けている会社の中には、その後も経営環境が芳しくなく、追加融資が必要になる会社も多いです。
コロナ融資では、追加融資にも対応しています。コロナ融資のQ&Aには、以下のように記載されています。
Q:3月に新型コロナウイルス感染症特別貸付を融資してもらったばかりですが、最近、更に資金繰りが悪化しました。再度、融資の相談はできますか?
A:直近でご利用いただいた方であっても、新型コロナウイルス感染症の影響により、資金繰りに影響が出た場合は、ご相談を承っております。お気兼ねなくご相談ください。
出典:出典:日本政策金融公庫「新型コロナウイルス感染症特別貸付等に関するQ&A」
しかし、制度としては追加融資が可能であっても、やはりケースバイケースでの判断になることは否めません。初回の融資から追加融資に至るまでの推移をチェックされ、その結果、審査に落ちてしまうこともあります。
多くの会社は、追加融資を織り込んで初回融資を受けるわけではありません。つまり追加融資を必要としている時点で、初回融資の際の見通しや経営計画がうまくいかなくなっているわけです。その原因がコロナであれば追加融資を受けられますが、コロナ以外に問題を抱えている会社は審査に落ちる可能性があります。
新型コロナウイルス感染症特別貸付で断られた場合
審査の緩いコロナ融資とはいえ、
- 経営者の個人信用情報にキズがある
- コロナ以前の経営に大きな問題がある(返済能力がない)
- 創業後6ヶ月未満である
といった場合には審査に落ちる可能性が高いです。このような悪材料を抱えている会社は、当然ながら民間金融機関の融資も受けられません。信用保証協会の保証付融資も危ういでしょう。
このため、コロナ融資の審査に落ちた会社は、融資による資金調達は諦めるほかありません。ノンバンクのビジネスローンでさえ、個人信用情報の問題や返済能力の欠如などは非常に嫌うため、借入れは困難です。
したがって、銀行融資などの外部資金調達ではなく、
- 売掛金を売却する「ファクタリング」
- 受取手形を売却する「手形割引」
- リースバックを含む資産の売却
などの、内部資金調達を活用することとなります。
ただし、これらの資金調達方法は、使い方を間違えると調達コストが膨らみ、資金繰りが悪化する危険もありますから、自社に最適な方法を選ぶことが重要となってきます。
そのためにも、資金調達に強いコンサルタントに相談するなど、自社だけで闇雲に取り組まないよう注意してください。
まとめ
本稿では、日本政策金融公庫の融資について詳しく解説しました。本稿の内容を押さえておけば、日本政策金融公庫の審査に通るための書類作成、審査落ちの対策などが可能になるでしょう。
とはいえ、具体的な決算対策や審査対策は難しいものです。特に、日本政策金融公庫の利用経験がない経営者であれば、経営計画書の作成や面談での失敗が多くなると予想されます。
スムーズに融資を受けるためにも、コンサルタントなどに依頼し、経営計画書作成や面談対策の支援を受けることをおすすめします。
資金調達のプロがお客様の状況をヒアリングした上で適切なアドバイスを致します。
- ・初めて資金調達を行いたい
- ・銀行借入を成功させたい
- ・国の資金調達制度を使いたい
- ・助成金、補助金の申請をしたい
- ・早急に資金が必要
- ・資金繰りの改善をしたい