「資金繰り」と「キャッシュフロー」は、どちらも会社の財務に関する用語です。意味合いが似ているため、どこが違うのか、どのように区別すべきか、区別する必要はあるのか、などの疑問を抱いている人も多いことでしょう。
このふたつの用語には明確な区別があり、区別して考えることも大切です。本稿では、資金繰りとキャッシュフローの違い、区別のポイントなどを解説します。
資金繰りとキャッシュフローの違い
企業財務に関する解説書や、当サイトのコラムなどでは、「資金繰り」と「キャッシュフロー」の両方の表現が混在しています。このため、混乱した経験がある人もいるはずです。
もちろん、全く同じ意味合いとして、気まぐれに使い分けているわけではありません。明確な基準で区別し、意図があって使い分けています。
具体的には、どのような基準によって区別し、使い分けているのでしょうか。
資金繰りとは?
まず、資金繰りから考えていきましょう。
経営の観点から考える時、キャッシュフローよりも資金繰りという表現を使うことが多いです。なぜならば、資金繰りとはお金のやりくりのことであり、会社の存続に深くかかわることだからです。
皆さんもご存じの通り、資金繰りが続かなくなることは倒産を意味します。そもそも倒産とは、お金のやりくりがうまくいかず、支払いができなくなり、信用を失った結果、
- 取引先との関係が壊れ、仕入れや販売が困難になる
- 銀行から取引停止処分を受け、資金調達が困難になる
といった事態に陥り、経営が存続できなくなることです。
資金繰りの重要性は、黒字・赤字を通して考えると一層はっきりします。
黒字倒産という言葉がある通り、業績が黒字でも会社は倒産する可能性があります。黒字ですから、ビジネスは上手くいっているのです。しかし、売上の回収が難航する、計画的にやりくりできず手元資金が枯渇するなどにより、資金繰りが続かなくなれば倒産します。
逆に、赤字でも倒産しない会社はたくさんあります。倒産するかどうかは、資金繰りが続くかどうかによって決まるのですから、赤字でも資金繰りが続く限り会社は倒産しません。
このように、資金繰りはお金のやりくりを表す用語です。したがって、
- お金のやりくりがうまくいかない、支払いがキツい⇒資金繰りが悪い
- お金のやりくりがラクにできる⇒資金繰りが良い
- お金のやりくりがラクになるように努力・工夫する⇒資金繰りを改善する
- お金のやりくりが今よりキツくならないように現状維持に努める⇒資金繰りを維持する
など、様々な表現に使われます。経営を学ぶうえで必ず理解しておくべきことです。
キャッシュフローとは?
キャッシュフローに対しても、資金繰りと同じように「お金のやりくり」のイメージを抱いている人が少なくありません。このイメージが、あながち間違いでないのが厄介です。
キャッシュフローの正確な意味は「お金の流れ」です。お金が入ってきたり、出ていったりする流れを意味するため、やりくりのイメージに何ら違和感がありません。しかし、厳密には以下のような区別があります。
資金繰り(お金のやりくり)・・・お金が入ってきたり、出ていったりする事実を踏まえて、倒産しないようにやりくりすること
キャッシュフロー(お金の流れ)・・・お金が入ってきたり、出ていったりする流れそのもの(それを踏まえてやりくりを考え、コントロールするのは資金繰りの役割であってキャッシュフローの範疇には含まれない)
事前・事後の違い
上記の区別からもわかる通り、資金繰りとキャッシュフローには、時間軸に大きな違いがあります。すなわち、
- 資金繰りは事前的である
- キャッシュフローは事後的である
という違いです。
資金繰りは事前活動
資金繰りは、お金の流れを踏まえてやりくりします。
つまり、会社ごとにある程度決まったお金の流れがある中で、今後、お金の入る流れはこうなる。お金の出る流れはこうなる。
⇒〇月〇日に入ってくるお金を、×月×日の支払いにあてよう
⇒△月△日までに入ってくるお金では、□月□日の支払いに足りない。不足資金を銀行から調達しよう
といった計画を立てるのです。このように、資金繰りは事前的な活動です。
キャッシュフローは事後活動
一方キャッシュフローはお金の流れそのものです。お金が入ってきた、あるいは出ていったという動きが実際に起こらなければ、お金の流れは形成されません。この意味において、キャッシュフローは事後的といえます。
キャッシュフローが事後活動であるからこそ、お金の流れが起こったことを受けて、
「キャッシュインフローが少ない、増やすにはどうするか」
「キャッシュアウトフローが多い、減らすにはどうするか」
といったキャッシュフロー分析も可能です。
区別する意義
以上のように、資金繰りとキャッシュフローの区別は微妙なところにあります。多くの経営者がこの区別を曖昧に考えていますが、逆にいえば曖昧な区別でもあまり問題にならないのも事実です。
しかし、区別する必要が全くないわけではありません。むしろ、しっかりと区別することによって、経営に役立つことも多いです。
近年、会社を評価する際に資金繰りよりもキャッシュフローを重視する動きがあります。特に、銀行ではキャッシュフローを重視する傾向が顕著です。
資金繰りによる評価の限界
従来、銀行はキャッシュフローよりも資金繰りを重視してきました。資金繰りが安定していれば倒産する可能性は低いため、貸し倒れリスクの低さを評価し、積極的に融資すべきと考えるのが常識的でした。
実際には、資金繰りの安定性だけで会社を評価することは不可能です。
例えば、業容の小さい会社では資金需要が小さく、資金繰りを続けることも比較的容易といえます。ところが、それだけで経営がうまくいっているとは言い切れません。連続赤字を抜け出せないまま、経営者個人の資産で資金繰りを支えている可能性もあるのです。このような会社は、決して優良企業とはいえないでしょう。
また、銀行の採算性を評価するうえでも、資金繰りによる評価では限界があります。小さな資金繰りを安定的に続けている会社は、お金の流れ自体が小さいです。キャッシュフローが小さく、事業活動も活発とはいえません。倒産の危険、貸し倒れリスクの危険がないとしても、融資や手数料取引の規模は小さく、銀行にとってあまりおいしい取引は期待できません。
資金繰りだけを重視して会社を評価すると、このような問題が起こるのです。
キャッシュフローによる評価の特徴
では、キャッシュフローによる評価はどうでしょうか。
資金繰りの安定性にかかわらず、キャッシュフローが大きい会社は評価に値します。なぜならば、キャッシュフローが大きいことは、お金の入ってくる動きや出ていく動きが大きいことであり、事業活動が活発であることを意味するからです。
もちろん、事業活動が活発というだけでは、銀行は安心して融資できません。黒字倒産の危険もあり、特に過剰な売上拡大路線を執っている会社は危険とみなすことが多いです。
しかし基本的には、事業活動が活発であればあるほど、資金繰りが容易になり、倒産しにくくなる傾向があります。キャッシュフローが大きく、入ってくるお金が潤沢であれば、それを裏付けとして資金を調達できるからです。
例えば、近い将来に支払予定の売掛金や受取手形をたくさん保有していれば、ファクタリングや手形割引などによる柔軟な資金調達が可能です。また、これらの入金と紐づけることにより、積極的に支援する銀行も多いはずです。
多くの銀行が支援しているならば、資金調達余力がたっぷりあるといえます。すぐに資金繰りがショートする危険性は極めて低く、銀行は安全と考えて融資しやすいのです。
さらに、事業活動が活発な会社は資金需要が大きいため、銀行にとって融資額を伸ばすチャンスにもなります。今後の事業展開によっては、為替取引などをはじめとする様々な手数料収入も期待できます。
他行が積極支援の姿勢であれば、自行から借りてもらうために好条件での融資を提案してくることも多いです。
このような理由から、銀行は資金繰りよりもキャッシュフローによって評価することが増えています。経営者自身が資金繰りとキャッシュフローをしっかり区別し、この流れに適応することが重要です。
まとめ
資金繰りとキャッシュフローの区別は曖昧ですが、決して難しいものではありません。近年の評価基準の変化に対応するためにも、しっかり区別しておくべきです。
経営改善といえば資金繰り改善をイメージする人が多いことでしょう。それによって倒産の危機が遠のくのですから、資金繰り改善の重要性はいうまでもありません。しかし、キャッシュフロー改善も同じように重要です。両方を意識して、経営改善に取り組んでいきましょう。
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