開業資金融資

起業資金はいくら必要?計算すべき4つの資金と考え方

創業期は資金調達が難しいものです。このため、創業資金が不十分なまま起業に踏み切ってしまう人も多いのですが、これは非常に危険です。実際、起業に失敗する会社の多くは創業資金不足を原因に倒産します。

創業資金をしっかり準備するには、必要な資金を目的や性質別に考え、確実に調達していくことが重要です。

起業資金を計算するには?

起業に成功するかどうかの最大のカギは、十分な創業資金を確保できるかどうかにあります。

よく、起業の動機となったアイデアや商品を成功のカギと考える人がいますが、それは成功の一要素でしかありません。
いくら優れたアイデアがあっても、そのアイデアの価値が認められ、お金を生み出すまでには時間がかかります。

それまで資金繰りを維持できるだけの資金がなければ起業は必ず失敗するのです。

有り体に言えば、創業資金はアイデア以上に重要です。アイデアが売上をもたらすかどうか、起業に成功するかどうかは創業段階ではわかりません。しかし、創業資金がなければ失敗することは、創業前から明らかな事実です。

創業資金が潤沢であれば、アイデアに手を加えたり、さらなるアイデアを出したりしながら、事業を軌道に乗せることもできるのです。

まずは1年目のシミュレーションを

したがって、必要な創業資金を事前に計算しておくことが欠かせません。
このとき、「うまくいけば創業資金はこれくらいで足りる」という楽観的な予測は禁物です。起業は、最初からうまくいくものではありません。予想外の事態に見舞われながら、ある程度時間をかけて徐々に軌道に乗せていくものです。楽観的な予測で創業資金を準備すると、資金繰りが続かなくなる可能性が高いです。

創業資金の計算は悲観的な予測に基づき、まずは1年目のシミュレーションを立てるのがおすすめです。具体的なシミュレーションは、必要な創業資金を計算するだけではなく、事業計画を考える上でも役立ちます。

自己資金をいくら準備できるのか、足りない金額はいくらなのか、足りない金額は調達可能か、といったことに考えを広げていくと、これまでぼんやりと考えていたことがはっきりします。創業の準備に具体性が備わり、創業計画全体に良い影響が期待できるのです。

本稿では、創業資金は4つに分けて考えます。詳しくは後述しますが、「創業資金」という大きな括りで計算するのではなく、創業計画書の作成や起業後の展開なども見据えて、

  • 開業準備資金
  • 運転資金
  • 赤字補填資金
  • 生活資金

に分けて考えるのがベストです。これらについて、詳しくみていきましょう。

開業準備資金を細分化する

開業準備資金からみていきましょう。開業準備資金とは、開業の準備に必要な資金であり、開業後の運転資金などは含みません。

ポイントは、開業に必要な初期投資の目的・性質に応じて、3つに分けて考えることです。

設備資金

まず、設備資金を考えます。開業準備資金のうち、特に設備資金に限って考えることにより、創業計画書の記載がラクになります。創業計画書には、必要資金や調達方法を記載しますが、その中に設備資金の欄があります。これを記載するのに役立つのです。

開業準備資金のうち設備資金に該当するのは、

  • 取得金額が10万円以上の資産
  • 長期間(2年以上)にわたって活用し、売上に貢献する資産

を購入する資金です。
飲食店を開業するならば、厨房設備や空調設備、レジスター、事務作業のためのパソコン、テーブルやイスなどが設備資金に当たります。

他にも、運送業ならばトラック、製造業ならば製造設備やフォークリフトなどの購入費が当てはまります。

価値が減少しない資金

購入後、価値が減少しない資産の購入費用も別に計算します。
わかりやすいのが保証金です。開業の際は信用が乏しいため、仕入先に保証金を支払ったり、入居する賃貸オフィスに保証金を支払ったりすることがあります。

これらは、開業に欠かせない支払いであり、開業後の収益に貢献します。また、契約が終了すれば返還されるため、価値が減少しません。

このほか、営業権などもここに含まれます。業種によっては、開業のために資格や権利を取得する必要があります。開業の前提条件であり、収益をあげるには欠かせない出費です。営業権なども、取得から時間を経ることで価値がなくなるものではありません。

この性質の資金を別途計算する理由は、これらの資金は創業計画書に記載されない費用だからです。創業計画書に記載しないものの、実際には必ず発生する費用であるため、しっかりと認識しておく意味でも分けて考えることが大切です。

在庫や消耗品

最後に、在庫や消耗品の購入費です。これらの資産も、開業時には一定数を確保しておく必要があります。設備資金と異なるのは、長期間にわたって使い続けるのではなく、絶えず補充していくことです。

飲食店ならば食材、製造業ならば原材料、そして全ての業種に共通する事務用品などの消耗品がこれにあたります。

業種によっては品数を揃える必要があるため、開業時の在庫の確保に多額の資金を要します。飲食店なども、メニューに応じて多種多様な食材を一定量確保するため、初期投資が大きくなります。

開業準備資金の計算では、以上の3つの資金に分けて考えることが重要です。

運転資金も考慮しておく

創業資金に対して創業時に必要な資金というイメージを抱いている人は、「創業資金≒開業準備資金」と考える傾向があります。しかし、創業資金は開業時だけではなく、開業から事業が軌道に乗るまでの期間に要する費用であり、創業期全体で必要な資金です。

したがって、開業運転資金だけを確保しただけでは、創業資金は足りません。中でも、運転資金を事前に確保しておくことが非常に重要です。

運転資金とは?

運転資金とは、日常の営業活動に必要な資金のことです。理想でいえば、営業に必要な資金は利益から捻出するのが好ましいのですが、現実的には困難です。というのも、売上の入金と経費の支払いには必ずズレが生じるからです。

例えば、製品を製造し、販売することで利益が得られます。製造に使う原材料は製造以前に確保しておく必要があり、全て製品に変わるまでには時間がかかります。在庫として自社に滞留する期間が必ず生じるのです。

また、在庫が製品に姿を変え、顧客に販売しても、すぐに売上を回収できるわけではありません。多くの業種では掛取引が行われており、売上入金は1~2ヶ月後になるのが一般的です。

このように考えると、営業活動に必要な資金を売上で支払う難しさがわかるでしょう。在庫を仕入れ、製品に変わるまでに時間を要し、製品に変わっても売れるまでに時間を要し、売れても入金までに時間を要するのです。

これに対し、仕入れはまとまった数量を一度に仕入れます。掛取引で仕入れても、在庫が手元資金に変わるよりも早い段階で買掛金の支払いが訪れます。

これが、収入と支出のズレであり、運転資金とは「収入以前に生じる支払いをまかなうための資金」を意味します。

※運転資金の具体的な計算方法は、以下の記事で詳しく解説しています。
(→運転資金の計算方法はこちらでチェック)

創業期の運転資金は余裕をもって

創業期に限らず、経営を続けている限り運転資金は必要です。運転資金を確保しなければ資金繰りがショートします。
ただし、創業期における運転資金の確保は、特にシビアに考えておく必要があるでしょう。なぜならば、創業期は業績・財務ともに不安定な期間が続くからです。

創業期を脱して経営が安定すれば、運転資金を確保しやすくなります。販売先や仕入先が大まかに決まっており、売上も安定し、売掛金の回収サイトと買掛金の支払サイトも基本的に変わらなくなります。

収入と支出のギャップが一定水準に落ち着くため、「これくらいのタイミングで、これくらいの運転資金を確保しておく」ということが大体分かるのです。これが分かれば資金調達も容易です。

しかし、創業期は販売先や仕入先が安定しません。売上も少ないはずです。取引先によって契約条件は異なるため、取引先が変われば回収サイト・支払サイトが変動し、収入と支出のギャップも変化します。このため、必要な運転資金の金額が変わりやすく、確保も難しくなるのです。

これに対処するには、創業資金を調達する段階で、余裕をもって運転資金を確保しておくことが重要です。

赤字補填資金も確保する

余裕をもって運転資金を準備しておくと同時に、赤字補填資金もあらかじめ確保しておくべきです。赤字補填資金とは、事業が上手くいかずに赤字になったとき、赤字分を埋め合わせる資金です。

創業後、1年目から事業が軌道に乗り、好調に展開し、初年度の決算を黒字で迎える・・・といったことはかなり困難です。起業するからには成功を目指しているはずで、初年度から軌道に乗せる、黒字にするという希望を持つ人は多いのですが、現実的には難しいことを認識しておくべきです。

特に、一般消費者をターゲットにする事業であれば、固定客・リピーターの獲得には時間がかかります。初年度は赤字になるのが当たり前といっても過言ではありません。

赤字補填資金の調達は難しい

創業期の会社には信用がありません。銀行との取引もほとんどなく、赤字補填資金の融資を申し込んでもほぼ100%断られます。

それでも、賃料やリース料などの固定費は毎月必ず発生します。創業後に赤字になったとき、いくらまでの赤字ならば耐えられるのかを考え、創業資金の一部として赤字補填資金を確保しておくことが重要です。

非常に厳しい現実として、創業後3年目まで生き残れる会社は全体の50%に過ぎません。半分の会社が3年以内に倒産するわけですが、その理由のほとんどは赤字補填資金を確保せずに起業し、赤字になり、資金繰りが破綻することにあります。

悲観的予測を

運転資金と同じように、赤字補填資金も悲観的な予測に基づいて確保しておくべきです。
起業家の多くは、アイデアに自信を持っています。起業してアイデアを商品化すれば売上が得られ、赤字になることなく資金繰りが回っていくと信じています。

しかし、売上は起業家本人の自信やアイデアによって決まるものではありません。自信に溢れていても、アイデアが優れていても、それだけで大きな売上が得られるのではありません。売上を決めるのは消費者なのです。
売上の決定権を握っていない起業家本人が、アイデアと自信だけで売上を予測するのは危険です。

  • 「どうなるか分からない」
  • 「うまくいかない可能性もある」
  • 「普通は赤字になる」

⇒赤字に備えて資金を確保しておこう

このように考え、創業資金の計算に赤字補填資金を入れておくことが欠かせません。

生活資金は1年分

最後に、生活資金です。生活資金は、創業資金の中でも軽視されやすい資金です。

サラリーマンをしていた人が起業する場合、これまで毎月当たり前に受け取っていた給与がゼロになります。生活費が入ってこなくなるのは重大なことなのですが、「生活費が入ってこなくなる」という経験をしたことがない人ほど危機感を抱きにくく、軽視する傾向があります。

収入ゼロを想定する

サラリーマンとして働いて給与を貰うことは、会社に時間と労力を売ってお金を貰っているようなものです。起業後も、多くの時間と労力を費やすわけですが、費やした時間と労力に見合うお金が得られるとは限りません。起業後は、費やした時間と労力ではなく、あくまでも結果によってお金を得るのです。

この変化は、実際に起業してみなければ実感が湧きにくいものです。時間と労力を投じてしっかりやれば結果はついてくるだろう、生活費も稼げるだろうと考えてしまうのですが、これはかなり危ない考え方といえます。

創業資金に赤字補填資金を織り込むのは、創業期は赤字になる可能性が高いからです。赤字になれば、売上から自分の生活費を支払うことも困難です。売上が順調にあがることを想定して、それを生活費のあてにしていると、生活費に困る可能性が高いです。

冷静に取り組むために

独身であっても、生活費は必要です。ましてや家族がいるならば、生活費がゼロになったときの焦りやストレスは想像をはるかに上回ります。

創業期は業績も財務も安定せず、労働力も資金も不足し、あらゆる点において困難を抱えています。その状況をうまく処理し、事業を軌道に乗せていくためには、冷静さと思慮が欠かせません。

しかし、生活費に困って焦りが生じると、冷静な判断ができなくなります。戦略性もなくなります。

ビジネスの世界は弱肉強食であり、海千山千の事業者がひしめいています。冷静さを失い、ワラにもすがる思いで取り組んでいると、足元をすくわれてしまうでしょう。

自社に不利な条件で契約してしまう、採算性の悪い相手と取引してしまう、経営危機にある会社と取引して多額の貸倒れを被るなどの危険があります。

それを避けるためには、創業資金に生活費を織り込んでおくことです。例えば、サラリーマン時代の月収が30万円であった人は、その12ヶ月分の360万円を創業資金に入れておき、毎月30万円の役員報酬を支払えるようにしておくのです。

これにより、創業後1年間は生活費の不安がなく、「トータルでプラスマイナスゼロを目指そう」といった余裕のある気持ちで取り組むことができ、事業全体に良い影響が期待できます。

まとめ

本稿では、創業期に必要な資金の考え方を解説しました。実際に必要な資金額は、想定している起業の内容や業種によって異なります。日本政策金融公庫のデータでは、創業資金の最頻値は600~800万円とされていますが、内訳は人によって異なるでしょう。

創業資金を計算する際には、開業準備資金だけではなく、運転資金や赤字補填資金、起業後の生活費の確保を心がけましょう。また、創業後の資金繰りは困難を伴うため、あらかじめ相談できるコンサルタントを探しておくのもおすすめです。
資金調達、資金繰りが難しい創業期だからこそ、慎重に取り組んでいきましょう。

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