倒産=資金繰りのショート
「倒産」とは、何を意味するものでしょうか。経営を続けられなくなり会社をたたむこと、といったイメージを持っている人も多いと思います。しかし、経営者であれば倒産の意味をより厳密に知っておくべきでしょう。すなわち倒産とは、
“財産を使い尽くすこと。特に、企業が不渡手形などを出して銀行取引の停止処分を受け、事業を継続できなくなること”
を意味します(広辞苑第5版より)。「資金繰りのショート=倒産」と捉えると、倒産を資金繰りとの関係から考えることができます。
現金不足が最大の原因
財産を使い果たせば、手形の決済ができなくなり、銀行から取引停止処分を受けます。
もちろん、取引停止処分が倒産そのものを意味するのではなく、何らかの方法で資金を調達して資金繰りを回せるならば、事業の継続は可能です。
しかし、企業にとって資金調達の軸である銀行融資が受けられなくなり、また手形の不渡りや買掛債務の不履行などによって取引先から信頼を失ってしまえば、事業の継続は現実的に不可能といってよいでしょう。
このように考えると、倒産(=資金繰りショート)の最大の原因は現金不足であるともいえます。必要な資金をしっかりと調達し、資金繰りを正常な状態に保っていく上では、「現金があれば資金繰りは回り、倒産することもない」という基本をしっかり認識しておくことが重要です。
倒産する会社の共通点
以上のことは、倒産する会社の共通点をみても明らかです。倒産する会社では、現金がギリギリの状態で資金繰りを回しているケースが非常に多いのです。
なぜ現金がギリギリの状態に甘んじているか、細かい事情は会社ごとに様々でしょう。しかし、現金が不足している状態にそれほど危機感を抱いておらず、資金調達にも消極的な場合が少なくありません。
新規の融資を受けられる状態になく、資金調達の方法が限られる会社では、ファクタリングや手形割引などを活用しながら現金を供給していく必要があります。
しかし、融資を受けられる状態であるにもかかわらず、危機感の欠如から現金不足に陥っているならば、すぐにでも融資を受けることを考えていくべきです。
借金は悪ではない
実際に、倒産する会社の中には、必要以上に借り入れを避けている会社も多いものです。借り入れを避ける主な理由には、
・返済負担を避けるため、できるだけ融資は受けたくない
・先代から無借金経営にこだわってきた
・売掛金や手形の支払いでなんとか資金繰りが回っているから融資の必要を感じない
などがあります。
しかし、このような考え方によって借り入れを避けるのは、少なくとも企業経営においては誤りです。
個人レベルであれば、借金はできるだけ避けるべきという考え方も成り立つのですが、企業経営では通用しない考え方です。これは、
・企業とは利益を追求するものである(必要に応じて借り入れを行って業容の拡大を図り、利益を伸ばしていくべきである)
・現金が不足しなければ倒産しない(倒産を避けるために、融資を受けて現金を確保しておくことが重要である)
など、会社や資金繰りの本質から考えれば明らかです。
したがって、借り入れを嫌って現金が慢性的に不足しており、資金繰りがうまく回っていない会社では、まず借り入れに対する考え方を改めるべきです。
実質借入金をベースに考える
借り入れに対する考え方を改めるには、実質的な借入金ベースで考えるのがポイントです。
このことは、具体的な数字で考えると良く分かります。
例えば、無借金経営にこだわって現金が慢性的に不足しているA社と、積極的に借り入れて現金が充実しているB社があったとします。両社とも会社の規模は変わらず、月商は1,500万円であるとします。
現金 | 借入金 | |
A社 | 100万円 | 1,500万円 |
B社 | 2,100万円 | 3,500万円 |
A社は現金が100万円しかなく、資金繰りはいつもギリギリの状態です。B社に比べて借入金は2,000万円少なく、確かに返済負担も軽いでしょうが、常に倒産と隣り合わせです。取引先が債務不履行を起こしたり、予定していなかった出費を迫られたりすれば、資金繰りはたちまちショートしてしまいます。
一方、B社はA社より2,000万円借り入れが多く、返済負担も重くなると考えられます。しかし、現金は月商の1.4倍です。手形や買掛金の決済に困ることはなく、不測の事態が起こっても資金繰りが行き詰ることはありません。
両社の資金繰りを比較して、どちらが理想的でしょうか。いうまでもなくB社です。
気になるのは借入金の違いですが、ここで両社の実質借入金を比較してみると、以下のようになります。
現金 | 借入金 | 実質借入金 | |
A社 | 100万円 | 1,500万円 | 1,400万円 |
B社 | 2,100万円 | 3,500万円 | 1,400万円 |
この表の通り、両社の借入金には2,000万円の差がありますが、実質借入金には全く差がないのです。実質借入金に差がなければ、借入金が財務に与える影響もほとんど取るに足りません。
融資する銀行も、資金繰りの安定度を厳しく見るため、実質借入金は同じでもA社を危険とみなし、B社を安全とみなす可能性高いです。
したがって、借り入れによって現金を充実させておくことは、必要な時に銀行からさらなる融資を受ける際にもプラスになるといえます。
借りられるときに借りておく
実質借入金ベースで考えると、借り入れを必要以上に嫌うことが無益であり、借り入れによって現金を供給し資金繰りを安定させたほうがよいことが分かるでしょう。
この考え方をさらに発展させ、「借りられるときに借りておいたほうがよい」と考えることも、資金繰りの安定に欠かせません。
借り入れを嫌っていないとしても、「必要な時には借りる。しかし、必要ない時には借りない」と考える経営者が少なくありません。しかし、資金繰りの安定には「借りられるときに借りておく」が正しい考え方です。
というのも、銀行はいつでも融資してくれるわけではないからです。これまでプロパー融資を受けられていた銀行でも、会社の業績や財務が悪化した際にはプロパー融資を受けられなくなり、担保をしっかり求められたり、信用保証協会の保証を求められたりするのが普通です。
もちろん、担保がない、信用保証協会の枠も使い切ってしまったなどの理由によって、資金調達そのものが困難になり、資金繰りがショートすることも考えらえます。
借り入れが容易なタイミングでも、困難なタイミングでも、借り入れが持つ効果は変わりません。3,000万円の借り入れであれば、3,000万円の現金を調達しただけの効果があり、資金繰りの安定に役立ちます。
むしろ、融資条件を比較すれば、借りられるときに借りておいたほうがメリットは大きいでしょう。スムーズに借りられる局面では、会社の経営は順調であり、融資条件も会社にとって有利になることが多いからです。また、経営が順調であれば返済も楽にできるため、積極的に借り入れて難なく返済し、返済実績を高め、銀行と取引を深めていくこともできます。
さらに、借りやすい時にしっかり借りて現金を充実させていれば、必要な資金をしっかりと投入することで事業が円滑に回っていき、経営悪化も未然に防げます。
以上の理由から、経営が順調な時に借りる資金は、経営が悪化してから借りる資金よりも価値が高いといえます。
まとめ
本稿では、資金繰りにおける現金の重要性と、倒産する会社に共通する資金繰りの特徴を解説しました。
倒産する会社は、現金不足に対する危機感が薄いことが多いです。借り入れに消極的になってしまうのも、現金不足の危険性を正しく認識していないためです。
現金さえあれば資金繰りが回ることを理解すれば、借り入れへの姿勢も変わってくるはずです。資金繰り改善の基本的な考え方ですから、しっかり理解しておきましょう。
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