「資金繰り」がスムーズに行えるかどうかは、スタートアップが事業を成功できるか躓くかの大きな分岐点となります。特に資金調達の第一候補ともいえる「融資」が利用できるか否かは重要なポイントに違いありません。
この記事では融資が利用しにくいといわれているスタートアップが、融資による資金調達を成功させるために選ぶべき選択肢や審査のポイントなどを解説します。
スタートアップとは?
日本ではスタートアップとベンチャー企業という言葉が同じ様な意味で使用されていることがありますが、実際は似ていても同じものではありません。
「ベンチャー企業」という言葉は日本で作られた和製英語であり、「設立直後の企業・中小規模の企業・これまでにないビジネスモデルへチャレンジする企業」などの意味合いが含まれています。
対してスタートアップは新たなビジネスモデルを生み出すという点ではベンチャー企業と近いものの、爆発的な成長を短期間で遂げることを目的としているという点が大きな特徴となります。
スタートアップが融資を利用しにくいと言われる理由
「スタートアップは融資を受けにくい」といわれるのは残念ながら間違いとはいえません。それにはもちろん理由があり、理由を知ることで対処することが可能となり、最適な選択肢を選びやすくもなります。
安易に融資による資金調達を断念するのではなく、まずは融資を受けにくいといわれるのはなぜなのかを理解することが大切です。
経営実績が乏しい
金融機関が企業へ融資を行う際、「経営実績」は重要視されるポイントの1つとなります。過去の実績が十分にあれば今後の成長にも期待ができ、返済が滞りなく実行される期待も高くなります。
しかしスタートアップは経営実績が十分ではないことが多く、金融機関からの信用が得にくいのが実状です。
担保などが用意しにくい
担保や保証人が用意できれば、審査に通過できる確率を高めることができます。しかし規模の小さいスタートアップの場合、担保にできる不動産などを持っている企業は少ないです。
スタートアップは「銀行のプロパー融資」が利用しにくい
起業後に実績を積むことで、スタートアップが金融機関からのプロパー融資を受けられる可能性を高めることは可能です。しかし実績や担保の面から考えて、スタートアップがプロパー融資を利用するハードルは低いとは決していえません。
特に審査が厳しく行われる銀行となれば、そのハードルは一段と高くなってしまうでしょう。
つまり「銀行でのプロパー融資」はスタートアップにとって厳しい道であり、これが「スタートアップは融資が受けにくい」といわれる理由の1つともなっているのです。
スタートアップが利用しやすい融資
融資を受けにくい理由が「実績」や「担保」にあるということが分かれば、創業前や直後の企業でも利用可能とな実績を重視しない融資制度や、担保が不要な借入先を選択すれば問題が解決できる確率が高まるということになります。
ここからはそんな条件を満たすスタートアップでも利用しやすい融資の選択肢をご紹介します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、国が100%出資している政策金融機関です。民間の金融機関の利用が難しい中小企業や創業前・直後の企業への融資も積極的であり、設定される金利も低めとなっています。
また担保や保証人が不要で融資を受けることも可能などメリットは多く、スタートアップがまず利用を検討すべき選択肢です。
日本政策金融公庫にはいくつもの融資制度がありますが、中には以下に紹介するようなスタートアップ向きの融資も存在しておりますので、まずは利用を検討してみてはいかがでしょうか?
新創業融資制度
これから創業を目指す企業を対象としており、創業資金として最大3,000万円の融資を受けることができます。原則的に担保も保証人も不要であり、創業時に必要な資金の1割を自己資金として準備できれば申込みを行うことが可能です。
日本政策金融公庫を利用する際には融資が実行されるまでに1ヶ月から2ヶ月程度の期間が必要になることがデメリットとして挙がりますが、新創業融資制度は最短2週間程度で融資が受けられる期待があり、このスピードも大きなメリットとなります。
新規開業資金
その名の通り新規開業を目指す企業を対象とした融資制度ですが、開業してから7年程度までの企業も利用対象に含まれています。資金使途などによって融資限度額は変わるものの、最大7,200万円という大きな額の融資が受けられる可能性があります。
また運転資金でも7年、設備投資ともなれば20年という長期の返済期間が設定可能であるのも大きな特徴です。
女性、若者/シニア起業家支援資金
開業時や開業してから7年程度という条件は新規開業資金と同じですが、この融資制度は経営者が女性であれば年齢に問わず利用可能であり、男性の場合でも35歳未満または55歳以上が融資対象となります。
限度額や返済期間も新規開業資金と同様の条件となりますので、性別や年齢条件を満たしているかどうかで判断しましょう。
各自治体による制度融資
各市町村・都道府県では、利息の補助などが受けられる制度融資が用意されていることがあります。自治体は申込み窓口としての役割であり、実際には金融機関から借入れを行います。
この制度では負担の小さい融資が期待されるものの、申込みを行ってから実際に融資が実行されるまでに数ヶ月の期間が必要になることが多く、急ぎの資金調達に向いているとはいえません。
また各市町村・都道府県によって制度の内容に違いがあるため、融資を受けるための条件も前もって確認する必要があります。
信用保証協会による保証を受けての融資
金融機関からの融資を受ける際に担保や保証人が用意できない企業も、信用保証協会を保証人とすることで融資が受けられる可能性が高まります。ただし保証を受けるには保証料が必要となります。
ビジネスローン
事業者向けの融資商品の1つであるビジネスローンは、即日融資も期待できるなど上手く利用すればスタートアップの資金調達にも役立てることができます。
しかし10%を超える金利が設定されることが多いなど、銀行などの融資と比較して金利が高い点に注意が必要です。また限度額が高くても数百万円程度であり、資金使途によっては必要な額の資金調達が行えない可能性もあります。ビジネスローンは少額・短期返済など、利用方法を考慮することが大切です。
ただし審査で決算書が必要になることが基本のため、創業資金の調達先としては不向きです。
スタートアップが融資の際の審査で見られる重要ポイント
融資審査を通過する確率を高めるには、審査で重要視されるポイントを理解し、できる限りの準備を行うことが大切です。申込先によって何を重視するかは異なりますが、以下にご紹介するポイントは意識しておいて損はありません。
事業計画書(企業としての将来性)
融資の審査において「事業計画書」は審査結果を大きく左右する可能性があります。経営に関する方針や計画を説明する資料となる事業計画書は、現実的な未来が見えているのかという判断基準にもなり、データなどを用いて分かりやすく説明できていることが大切です。
利益が多く出ているように見せ、将来性が高いように印象付けようとしても、上手く行く可能性はほとんどありません。計画が破綻していては悪影響にすらなりかねませんので、現実を見た計画的な書類を作成しましょう。
利用するのがビジネスローンであっても、簡単な事業計画書の提出が求められることはあります。
自己資金
日本政策金融公庫の新創業融資制度では、創業のために必要な費用(融資希望額ではない)の1割の自己資金を確保していることが要件に含まれています。
また銀行や信用金庫からの融資を受ける場合でも、自己資金がある程度確保できていれば安定した経営や返済能力の高さを示すことができます。スタートアップは潤沢な自己資金を確保することは難しいかも知れませんが、影響があることは理解しておきましょう。
融資を受けた資金の使途
融資によって調達した資金の使いみちを明確にして妥当性のある額であることを示すことも、審査において大切なポイントです。
「借りられるだけ」や「資金使途に対して大き過ぎる額」を希望してしまった場合は、経営者として信用を得ることは難しくなるかも知れません。必ずしも資金使途に対して説明を求められるわけではありませんが、答えられるように準備しておくことをおすすめします。
返済計画
自己資金が融資額に対して十分に確保されていれば融資する側として安心感が高くなるのは事実ですが、借入れ後の返済計画に関しても資料を用意しておくと安心です。自社の返済能力をアピールすることができれば、審査に通過できる可能性は高くなるはずです。
大切なのは現実的な計画であることです。無理をして短期間で完済するような計画を立てても金融機関からの信用は得られないでしょう。
経歴・信用情報
創業資金の融資を希望する場合は、経営者の方のこれまでの経歴を見られることになります。経歴は将来性を判断する1つの材料とお考えください。
また経営者の方の信用情報も融資の審査に影響を与える可能性は小さくはなく、過去に支払いの遅延などによって金融事故を起こしている場合などは、審査に悪影響を及ぼす可能性は否定できません。
経営者の人柄
融資の審査において、「経営者の人柄」もポイントになることがあります。あくまで人間が審査を行う以上は、横柄な態度を取る人物に対して良くない印象を抱いたとしても不思議ではありません。
「この人であれば融資を行っても大丈夫だろう」と思われるかどうかが、審査結果に影響するかも知れないのです。必要以上にへりくだるのは逆効果になりかねませんので、社会人としての常識を意識して対応しましょう。
スタートアップが利用可能な融資以外の選択肢
スタートアップも融資以外の方法で資金調達を行うことは可能です。資金調達の選択肢を複数持つことは、思ったほどの額の融資が受けられない場合の補填や、融資が実行されるまでのつなぎ資金の確保にも役立ちます。
この項目ではスタートアップも比較的利用しやすい、4つの資金調達方法をご紹介します。
補助金・助成金
原則返済不要である補助金・助成金は、活用できれば資金調達の大きな助けになります。募集を行う機関によって補助金と助成金に分けられますが、助成金は通年通して募集が行われる傾向があるのに対して、補助金は公募期間が1ヶ月程度であることが多いという違いも存在しています。
また助成金は要件を満たしていれば受給対象となることが可能ですが、補助金の場合は審査が行われるのが基本です。どちらも自社が申し込める制度を見つける手間が必要であり、支給までに時間がかかりやすいという注意点も存在しています。
出資
ベンチャーキャピタルと呼ばれる投資会社や、エンジェル投資家などから資金援助を得る「出資」も資金調達方法の選択肢の1つです。出資を受けた資金の返済は不要ではあるものの、経営に干渉される可能性を含みます。
多くの出資を受けたいと考えてしまうかも知れませんが、経営者様の思い描く経営が行えなくなってしまう危険を考慮することも必要です。
クラウドファンディング
主にインターネットを通じて自社のアイデアなどを公表し、そのアイデアに興味を抱いた不特定多数の人々から資金提供を受けるのがクラウドファンディングです。
多くの方に賛同を得られる魅力的な事業であれば、億単位の大きな資金調達が成功する可能性があります。スタートアップ企業の創業資金調達にも活用できますが、賛同を得られず資金が集まらないという危険も考えられます。
支援者に対しては出来上がった商品の提供など何らかのリターンを行うのが通常であり、魅力を感じてもらえるリターンが用意できるかどうかも資金調達成功に大きく影響することになります。
ファクタリング
支払期日前の売掛債権を、手数料を支払い売却し現金へと変えるのがファクタリングです。債権の決済日まで待たずに現金化できるのがファクタリングの大きなメリットであり、融資ではないので負債を増やさずに資金調達が行えるという特徴も持っています。
ただし売掛債権を保有していることが原則的に条件となりますので、起業前では利用するのが難しく、これから創業資金を求めるスタートアップには不向きかも知れません。
※ファクタリングについて基礎から知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
『ファクタリングの仕組みとは?メリット・デメリットや利用の流れを解説』
スタートアップが融資を利用するメリット・デメリット
資金調達の選択肢は上記したように融資以外にもいくつも存在しています。しかしスタートアップの多くは資金調達に融資を利用しているのが事実であり、メリットとデメリットを想定した上で利用することが大切です。
【メリット】実績に乏しくても利用できる可能性がある
融資による資金調達では実績が必要になることが少なくありません。しかし日本政策金融公庫などを選ぶことで、実績が不足していても規模が小さくとも利用可能となります。
また担保が不要な借入先もスタートアップの資金調達に向いているといえます。さらに株式と違い経営に干渉される危険もなく、大きな額の融資を受けられる期待があることもメリットとなるはずです。
【デメリット】利息が経営を圧迫する危険
融資に頼り過ぎた資金調達は負債額を大きくしてしまう可能性があり、債務超過に陥ってしまう危険もゼロではありません。また返済能力を正しく判断することができずに多額の借入れを行うと、利息の支払いに追われ経営が悪化する要因ともなりかねません。
負債額が大きくなると貸借対照表の肥大化に繋がり融資を受けにくくなる危険も考えられますので、スタートアップが融資に頼り過ぎるのはおすすめできません。
選ぶべき資金調達方法はスタートアップの成長段階によっても変化する
一口にスタートアップといっても、選ぶべき資金調達の選択肢は企業としての成長段階によっても変化します。自社の成長に併せて利用すべき資金調達方法を選ぶことができれば、スムーズな資金繰りが実現できるはずです。
起業前・収益が低い段階
起業前や収益がまだ安定していない段階では、銀行などからの融資を受けるのは容易ではありません。クラウドファンディングなどを利用する選択肢もありますが、まずは日本政策金融公庫の創業融資を利用してはいかがでしょうか?
自己資金が少なくても利用可能で金利も低く設定される可能性が高いことから、この成長段階のスタートアップにおすすめです。
事業が黒字転換した段階
この段階でも日本政策金融公庫は頼りになりますが、収益が上がってきたのであれば銀行や信用金庫での信用保証協会保証付融資が利用できるかもしれません。
融資実績を積むことでさらに融資が受けやすくなり、企業としての成長の加速も期待できます。またエンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの出資も受けやすくなる段階です。
経営が安定している段階
安定した運営が続いているのであれば、銀行からのプロパー融資も視野に入ってきます。この段階になれば資金繰りのための資金調達ではなく、事業拡大や上場を見据えての資金調達となっていきます。
まとめ
スタートアップが順調に成長を続けるためには資金調達が鍵となり、その第一候補はやはり「融資」です。しかし準備を行わず銀行融資などを希望したとしても資金調達を成功させるのは難しいでしょう。
今回ご紹介したスタートアップ向けの融資の中から、自社の成長段階に併せて利用するものを経営者様が判断することで、資金調達の悩みは改善されるはずです。