資金調達の軸となる方法は融資ですが、融資以外にも色々な方法があります。融資だけに頼った資金繰りは不安定であり、他の資金調達と組み合わせることが欠かせません。
中でも近年急速に普及しているファクタリングとの組み合わせが効果的です。そこで重要となるのが、ファクタリングと融資の違いをよく理解し、適切に使い分けることです。本稿では、ファクタリングと融資の違い、使い分けを徹底解説します。
ファクタリングとは
ファクタリングは、支払い期日前の売掛金をファクタリング会社に譲渡・売却する資金調達方法です。掛取引をしている会社ならば必ず保有している売掛金によって資金調達でき、他の資金調達方法にはないメリットが多いため、近年急速に普及しています。
ファクタリングの方式には、2社間ファクタリングと3社間ファクタリングがあります。2社間ファクタリングは、自社とファクタリング会社の2社間で取引するのに対し、3社間ファクタリングは自社・売掛先・ファクタリング会社の3社間で取引するものです。
2社間・3社間のどちらを利用するかによってメリット・デメリットが異なります。本稿ではファクタリングと融資を比較していきますが、ファクタリングについては2社間・3社間のいずれにも共通する特徴やメリット・デメリットによって比較していきます。
ファクタリングのメリット
ファクタリングには多くのメリットがあります。中でも特に優れているメリットは以下の4つです。
1.資金調達スピードが早い
何といっても、ファクタリングは資金調達スピードに優れています。2社間ファクタリングならば最短即日、3社間ファクタリングでも数日中に調達可能です。
ファクタリングは、自社の保有資産である売掛金を売却するもの。つまり、自社の内部から資金を調達する「内部資金調達」に相当します。金融機関などから資金を借り入れる「外部資金調達」とは根本的に異なる方法です。
ファクタリング会社としては、対象となる売掛金に価値があれば買取可能です。銀行のように厳しく審査する必要がありません。このため、簡易的な審査によってスピーディな対応ができるのです。
色々な資金調達方法がある中でも、ファクタリング(特に2社間ファクタリング)は最もスピーディな資金調達方法といえます。
2.経営状況に関係なく使える
自社の経営状況が考慮されないことも大きなメリットです。
外部資金調達では、自社の経営状況が重要となります。融資にせよ、出資にせよ、業績や財務などに大きな問題がないことが前提です。特に、連続赤字、借入金の延滞、繰越損失、債務超過などの悪材料があれば、たちまち資金調達が困難になるでしょう。
これに対し、ファクタリングは自社の経営状況に関係なく利用ができます。ファクタリング会社が重視するのは、買い取った売掛金がしっかり支払われるかどうかです。つまり、売掛先の経営がしっかりしており、債務が履行されれば問題ないというわけです。
したがって、自社の業績・財務に問題があっても、ファクタリングならば資金調達ができ、税金や社会保険料を滞納している会社でも利用可能です。
3.リスクを回避できる
ファクタリングの契約はノンリコース(償還請求権がない)です。このため、売掛先の倒産などによって売却した売掛金が回収不能になっても、自社が買い戻す必要はありません。
売掛金には「保有するリスク」が伴います。自社が保有している限り回収不能のリスクがつきまとうのです。
このリスクをファクタリング会社に移転できることも、ファクタリングの大きなメリットです。もちろん、回収業務も必要なくなり業務効率改善も期待できます。
4.資金繰り改善につながる
最後に、ファクタリングによって資金繰りの改善効果も見逃せません。
売掛金とは、支払い期日までの間、売掛先の支払いを自社が立て替えていることにほかなりません。このため、売掛金が増加(立て替え資金が増加)すれば資金繰りが悪化し、売掛金が減少(立て替え資金が減少)すれば資金繰りが改善するのが資金繰りの原則です。
ファクタリングで売掛金を売却すれば、自社の保有する売掛金が減少します。資金調達コストとのバランスが重要ですが、うまく活用すれば資金繰りの大幅な改善につながります。
ファクタリングのデメリット
しかし、ファクタリングにも以下のようなデメリットがあります。
1.調達コスト(手数料)が高い
ファクタリングの資金調達コストは、他の資金調達方法に比べて割高です。
ファクタリングに伴うコストの大部分は「ファクタリング手数料」です。ファクタリング手数料の相場は、
- 2社間ファクタリング:10~20%
- 3社間ファクタリング:10%未満
であり、2社間ファクタリングは特に手数料が高いことがわかります。ファクタリングを利用する際には、これだけのコストをかけるメリットがあるかどうか、慎重に考えることが大切です。
おすすめ記事
『ファクタリングの手数料の相場について解説』
2.資金繰り悪化のリスクがある
ファクタリングの条件によっては、資金繰り悪化のリスクがあります。
例えば、手数料が高いファクタリング会社を利用し続けていると、資金繰り悪化の可能性があります。売掛金を満額回収した場合に期待できる利益が、ファクタリング手数料によって目減りしてしまうからです。場合によっては赤字になることもあります。
また、ファクタリング業界には悪質業者も存在します。優良ファクタリング会社を利用している限り問題はないのですが、誤って利用すると悪条件を課せられ、資金繰りの悪化は避けられません。
ファクタリングは、資金繰り改善に役立つ一方で、資金繰り悪化のリスクもある諸刃の剣といえます。
3.売掛先によって利用できない場合がある
融資と同様に、ファクタリングも利用できない場合があります。自社に問題がなくとも、売掛先に問題がある場合には利用ができないのです。ファクタリングができない主なケースは、
- 売掛先の経営状態が悪く、ファクタリング会社の審査に落ちてしまう
- 売掛先がファクタリング契約に応じず、3社間ファクタリングが成り立たない
などがあります。
上記の通り、ファクタリングはノンリコースの契約です。売掛先が支払い不能に陥れば、ファクタリング会社が損失を被ります。それを避けるために、ファクタリング会社は額面より大幅に安く買い取るか、初めからファクタリングを拒否する形になります。
また、3社間ファクタリング限定ですが、売掛先がファクタリング契約に応じないケースもあり得ます。3社間ファクタリングは、売掛先の影響が特に大きいといえるでしょう。
※ファクタリングについて基礎から知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
『ファクタリングの仕組みとは?メリット・デメリットや利用の流れを解説』
融資とは
融資は外部資金調達のひとつであり、金融機関などから資金を借り入れる方法です。
自社の経営次第ですが、大きな問題がなければ安定的に資金を調達でき、多額の資金需要もカバーできます。また、資金調達に伴うコスト負担も少ないため、融資による資金調達を軸に据えることで健全な資金繰りが可能です。
融資の場合、資金調達先は様々で、
- メガバンク、地方銀行、信用金庫・信用組合などの民間金融機関
- 日本政策金融公庫などの公的金融機関
- ノンバンクのビジネスローン
などがあります。このうち、ノンバンクのビジネスローンは資金繰りの軸にはならないため、本稿では一般的な金融機関による融資を取り上げます。
融資のメリット
融資による資金調達には、以下のようなメリットがあります。
1.多額の資金を調達できる
まず、多額の資金を調達できることです。
融資で調達できる資金は、会社の業容や経営状況によって異なります。このため、一概に「これくらい調達できる」というものではありません。
調達可能額の目安は色々ありますが、分かりやすいのが債務償還年数です。
債務償還年数は、現在の借入総額が自社のキャッシュフローの何年分かを表す指標です。「有利子負債÷(利益+減価償却費)」で計算します。計算の結果、10年以内であれば借入余力があると判断できます。
例えば、借入総額が3,000万円、年間キャッシュフローが500万円の会社であれば、債務償還年数は6年です。借入余力は残り4年分、つまり2,000万円あると考えられます。
あくまでも簡易的な目安ですが、融資ならば会社ごとに数千万円、数億円といった多額の資金調達が可能なのです。
2.調達コストが安い
調達コストの安さもメリットです。
融資では、支払金利や保証料が調達コストになります。
金融機関の金利は低く、民間金融機関でも公的金融機関でも、あるいは信用保証協会の保証付融資でも、年利3%を超えることはほとんどありません。地方自治体の制度融資を利用すれば、金利や保証料の補助を受けられるため、実質的な負担は年利1%以下になることもあります。
調達コストが安ければ資金繰りの負担は軽く、資金繰りの改善も容易となります。
3.銀行に実績を作れる
さらに、銀行への実績作りも見逃せないメリットです。
銀行は信用を重視します。多くの場合、信用とは返済力を意味しており、そのために業績や財務、資産状況などが審査に大きく影響します。
これに加えて、これまでの返済実績も重要です。短期的に業績や財務が悪化しても、返済実績があれば銀行は信用します。過去の実績が多いほど資金調達が容易になり、融資条件も良くなります。
実績を積むには、借入れと返済を繰り返すほかありません。つまり、融資は現在の資金調達だけではなく、将来的な資金調達にも役立つのです。
融資のデメリット
融資のデメリットのうち、特に大きなデメリットは以下の2点です。
1.審査が厳しい
融資は、様々な資金調達方法の中でも特にハードルが高い方法です。金融機関は貸し倒れリスクを避けるために、審査を厳しく行います。
審査の軸となるのは決算書であり、決算内容が悪い会社は借入れが難しくなります。業績・財務の悪化が一時的なものであれば融資を受けられるでしょうが、担保や保証を求められる可能性が高いです。また、連続赤字や債務超過などの大きな悪材料があれば、融資は困難となります。
中小企業は、基本的に業績・財務が不安定です。このため、融資による安定的な資金調達が難しい会社が少なくありません。特にプロパー融資はハードルが高く、不動産担保や信用保証協会の保証を求められる可能性が高くなります。
経営が良好でなければ、資金調達に苦労するのが融資の最大のデメリットです。
資金調達に時間がかかる
資金調達に時間がかかることもデメリットといえます。
業績・財務が良好であり、銀行からの信頼も厚い会社であれば、2週間程度で調達できることもあります。しかし、
- これまで融資を受けたことがない銀行から融資を受ける
- 不動産担保を差し入れて銀行融資を受ける
- 信用保証協会の保証をつけて銀行融資を受ける
といった場合には1ヶ月程度、あるいはそれ以上の期間を要します。
初めて融資を受ける銀行では、これまでの取引実績がないだけに慎重に審査する必要があります。不動産担保融資の際には、不動産の担保価値の査定が必要です。
信用保証協会の保証付融資は、自社・銀行・信用保証協会の3者が関わるためやり取りに時間がかかり、銀行に加えて信用保証協会の審査も受ける必要があります。
このように、融資は資金調達に時間がかかるものと考えてください。
ファクタリングと融資の違い
ファクタリングと融資について、それぞれ特徴・メリット・デメリットをみてきました。これにより、双方の違いもみえてきたことでしょう。既述の内容も含め、ファクタリングと融資の違いをまとめると、以下の通りです。
対応可能金額
【ファクタリング】
ファクタリングは自社の保有する売掛金を売却します。したがって、調達可能額は自社の保有する売掛金総額までとなります。
ただし、ファクタリング会社ごとに上限金額(数千万円~数億円)を設定しているのが普通です。このため、上限金額以上をファクタリングする場合には、複数社の併用または複数回に分割する必要があります。
【融資】
融資可能金額は、自社の業績・財務から判断されます。数千万円~数億円の調達も可能であり、資金需要に見合う金額を調達できます。
資金調達までの期間
【ファクタリング】
ファクタリングの調達スピードは、ファクタリング方式によって異なります。
2社間ファクタリングを手掛ける中小ファクタリング会社の多くは、最短即日対応が基本です。
3社間ファクタリングは、売掛先も含めて取引するため、資金調達までの期間は売掛先の対応によって大きく変わってきます。早ければ数日で調達できます。
【融資】
融資実行までのスピードは、融資形態によって異なります。早ければ2週間程度、基本的には1ヶ月程度が目安です。
資金調達にかかる費用
【ファクタリング】
ファクタリングにかかる費用は、ファクタリング手数料が大部分を占めています。ファクタリング手数料の相場は、
- 2社間ファクタリング:10~20%
- 3社間ファクタリング:10%未満
です。手数料の設定はファクタリング会社ごとに異なり、優良ファクタリング会社の3社間ファクタリングならば、5%以下の手数料で利用できることもあります。
ただし、ファクタリング会社によっては手数料以外に諸経費がかかるケースもあるため、注意が必要です。
【融資】
融資の調達コストは、金利や保証料です。
金利設定は金融機関によって異なりますが、年利3%以下と考えてください。基本的には、1~2%台です。
信用保証協会の保証付融資の場合、保証料がかかります。保証料は保証先によって異なりますが、中央値は1.55%とされています。
審査
【ファクタリング】
ファクタリングの審査は易しいです。自社の経営状況はあまり考慮されず、売掛先の経営状態を審査します。売掛先の経営状況によっては審査に通らない可能性も出てきますが、手数料を高く設定することで買い取ってくれるファクタリング会社もあります。
【融資】
融資の審査は厳しく、資金調達方法の中でもハードルが高いです。ただし、
- 担保や保証によって保全が充足する
- 経済悪化局面に公的支援を利用する
などの場合には比較的易しいといえます。
取引先への通知
【ファクタリング】
2社間ファクタリングは、自社とファクタリング会社だけで取引するため、売掛先への通知はありません。
3社間ファクタリングは、売掛先も含めて取引します。自社がファクタリング会社に売掛金を譲渡した時点で、売掛金の譲渡が通知されます。
【融資】
融資を受けても、取引先に通知されることはありません。
返済・支払
【ファクタリング】
ファクタリングは資産売却の一種です。したがって返済義務はありません。ただし2社間ファクタリングの場合、ファクタリング契約時に売掛金回収業務代行委託契約を結び、支払い期日に売掛先から回収した代金をファクタリング会社に支払う必要があります。
3社間ファクタリングは、返済義務・支払い義務のいずれもありません。
【融資】
借り入れた資金は、返済計画に沿って返済しなければなりません。短期融資ならば期日に一括返済、長期融資ならば毎月の分割返済が基本です。このとき、元金に合わせて利息を支払います。
信用保証協会の保証付融資では、融資実行時に保証料を一括で支払います。
追加融資、調達
【ファクタリング】
自社が売掛金を保有している限り、何度でも繰り返し調達可能です。
【融資】
自社の調達余力に応じて追加融資が可能です。調達余力は信用保証協会の保証枠や担保余力、他行からの借入余力などで判断されます。
ファクタリングと融資はどうやって使い分ければ良い?
ここまでの内容から、ファクタリングと融資に大きな違いがあることが分かったと思います。この違いを踏まえて、適切に使い分けることが大切です。
使い分けのポイントは以下の3つです。
1.資金需要で使い分ける
分かりやすいのが、資金需要で使い分けることです。
資金需要には、短期的・少額の資金需要もあれば、中長期的・多額の資金需要もあるでしょう。例えば、目先の買掛金を支払う場合には少額の調達で間に合います。しかし、設備投資や新規事業展開など、長期目線で多額の資金を要する場合もあります。
短期的・少額の資金需要にはファクタリングを、中長期的・多額の資金需要には融資を利用するのがポイントです。
資金需要が少額であれば、わざわざ融資を受けるまでもありません。銀行と交渉し、手間と時間をかけて少額を調達するのは効率が悪いため、ファクタリングでカバーするのがスムーズです。
資金需要が多額の場合、ファクタリングはおすすめできません。なぜならば、ファクタリングは融資に比べて調達コストが高いからです。多額の売掛金を保有しているとしても、ファクタリングによって資金需要をカバーすれば調達コストが高くなり、資金繰りを圧迫します。それよりも、調達コストの安い融資を利用すべきです。
また、ファクタリングの調達コストであるファクタリング手数料は、ファクタリングの際に一括で支払います。これに対し、融資の調達コストである支払利息は、毎回の返済に合わせて分割で支払います。
資金繰りで最も重要なのは手元資金です。調達コストを一括で支払って手元資金を大きく目減りさせるファクタリングよりも、分割で支払って手元資金を多く残せる融資のほうが、資金繰りへの負担は小さいといえます。
2.緊急性に応じて使い分ける
緊急性も使い分けのポイントです。
上記の比較の通り、ファクタリングは資金調達スピードに優れています。2社間ファクタリングならば最短即日、3社間ファクタリングも数日で調達できる可能性があります。
これに対し、融資は時間がかかることが多く、基本的には1ヶ月程度の期間を見積もっておく必要があります。そのため、緊急の資金需要には対応できません。
何らかの理由によって緊急の資金需要が発生した場合には、躊躇せずにファクタリングを利用してください。資金繰りショートを避けることが最優先です。調達コストが高い2社間ファクタリングでも、資金繰りショートを避けられるならばコストをかける価値があります。
緊急性が低く、資金調達に時間をかけられるならば融資の活用も可能です。
3.トータルメリットで使い分ける
少し難しい考え方ですが、トータルメリットでの使い分けが最も重要です。
ファクタリングと融資には多くの違いがあります。会社の状況や資金需要の内容、その他様々な要素によって使い分けるべきです。
例えば、調達コストが高い2社間ファクタリングでも、ファクタリング手数料が比較的安く、リスクマネジメントやオフバランス化、資金繰り改善などのメリットが大きいと判断すれば、融資より優先して活用することも考えられます。
売掛先との関係次第では、3社間ファクタリングを銀行融資と大差ない手数料率で利用し、資金繰り改善に役立てることも可能です。
また、銀行に対して実績を作ったり、複数行取引を広げたりすることによって、融資による資金調達を安定させることができます。長期的な資金繰りを見据えると、融資のトータルメリットはかなり大きいといえます。
上記の通り、少額の資金調達にはファクタリングが向いていますが、新規の取引銀行を増やすなどの目的があり、なおかつ緊急性が低い場合には、時間をかけて少額融資を引き出し、返済実績を作っていくことも重要です。
まとめ
本稿では、ファクタリングと融資の違いや使い分けを徹底解説しました。
ファクタリングは内部資金調達であり、融資は外部資金調達です。根本的に異なる資金調達方法であるからこそ、ファクタリングが使いにくいところで融資が役立つ、融資が使いにくいところでファクタリングが役立つといった、凸と凹のような関係にあります。
したがって、自社の状況に合わせて適切に使い分けることが大切です。特に重要なポイントがトータルメリットによる使い分けですが、自社では判断が難しい場合も多々あります。
そのような場合には、コンサルタントなどの専門家に相談しながら活用することをおすすめします。