中小企業が銀行から融資を受ける際、信用保証協会は心強い存在です。信用保証協会の保証があれば、銀行融資のハードルを大きく下げることができます。
しかし、信用保証協会を利用する怖さは意外と知られていません。信用保証協会の保証を利用した後、代位弁済を受けることになれば、経営者のその後の人生が大きく狂う危険性もあるのです。
本稿では、信用保証協会が怖い本当の理由をお伝えします。
信用保証協会の保証の実態
信用保証協会の保証付融資は、信用の乏しい中小企業でも銀行融資を受けられるきっかけとなるため、資金調達に重宝されます。業績や財務が悪くプロパー融資を受けられない、これまで与信取引がないため新規融資を受けるのが難しいといった場合でも、保証付融資ならば融資を受けられる可能性があるのです。また、信用保証協会は公的機関です。その目的も「中小企業の資金繰り支援」を謳っています。このため、以下のような錯覚を抱いてしまう経営者もいます。
信用保証協会の保証があれば銀行融資を受けやすい⇒信用保証協会は公的機関であり、国が支援する中小企業への融資を銀行は断れない(国の力添えがあれば融資を引き出せる)
イメージと現実の違い
しかし、信用保証協会に対するこのようなイメージは、適切とは言い難いものがあります。
確かに、「信用保証協会の保証があることによって、中小企業は銀行融資を受けやすくなる」ということは間違いないのですが、信用保証協会の保証は中小企業の支援というよりも、銀行の支援といったほうが適切なのです。
信用保証協会の保証では、融資先の中小企業が返済不能に陥った場合、信用保証協会が残債の8割を代位弁済します。また、緊急措置としての保証制度では、100%を代位弁済するものもあります。
つまり、信用保証協会の保証があることで、銀行は貸し倒れリスクの大部分(あるいは全部)を回避できるのです。また、保証料を支払うのは融資を受ける会社です。
つまり、保証を提供する信用保証協会と、保証料を支払う中小企業の間にあって、銀行はなにもせずにリスクを回避し、金利はしっかり受け取れるのです。
もし、リスク回避のために銀行が保証料を支払うならば、中小企業支援の要素もある程度大きいといえるでしょう。しかし、現状の保証制度には銀行支援といっても差し支えない、不公平な現実があるのです。
なぜ保証付融資を勧められるのか
銀行側のメリットは、銀行の融資姿勢を見てもわかります。中小企業の多くは、銀行融資のほとんどを保証付融資で受けています。これは、銀行がプロパー融資を出し渋り、「保証付融資なら融資できます」といった態度で接しているからです。
「銀行がそういうのだから仕方ない」と考える経営者も多いです。しかし「銀行に有利な条件を引き出すために、保証付融資ばかりを勧めてくる」と考えると、見方が変わってくるでしょう。
代位弁済の怖さ
もちろん、保証付融資は中小企業にとってもメリットがあります。まとまった資金を調達し、資金繰りを回せるメリットです。これが、保証付融資の唯一のメリットともいえます。
しかし、このメリットをそれほど大きく捉えず、「万が一の時、代位弁済してもらえることが最大のメリット」と考えている経営者も多いです。
確かに、代位弁済がされるからこそ銀行は安心して融資ができ、会社は資金調達ができる…と考えるならばメリットにも思えますが、既に解説した通り、これは銀行側のメリットであって会社側のメリットではありません。
むしろ、代位弁済されることはデメリットといっても過言ではないでしょう。なぜならば、代位弁済がなされることによって、経営者は再起不能になる可能性が高いからです。
代位弁済の実際
信用保証協会の保証を受けて資金を調達し、倒産して返済できなくなると信用保証協会が銀行に対して代位弁済します。このとき、保証付融資の債権が銀行から信用保証協会サービサーに移ります。信用保証協会サービサーとは、信用保証協会の債権回収部門のようなものです。
プロパー融資であれば、不良債権は民間サービサー(債権回収会社)に売却されます。
例えば、回収不能になった3,000万円の債権を民間サービサーに50万円で売却し、銀行は貸し倒れ損失を少しでも穴埋めしようとします。
不良債権を買い取った民間サービサーは、連帯保証人である経営者に対し、「本来の債務額は3,000万円ですが、100万円の返済でチャラにします」といった交渉をかけます。3,000万円の返済は無理でも、100万円くらいならば何とかなることは多いです。経営者が100万円を返済すると、民間サービサーは50万円の利益が得られます。
債権が民間サービサーに移ると、大抵はこのように処理されます。債務者側も、債務が大幅に圧縮されるため、ありがたい制度といえるでしょう。
しかし、信用保証協会サービサーは民間サービサーと大きく異なります。信用保証協会サービサーは債務を一切圧縮せず、全額回収を図るからです。どれほど時間がかかってもよいという姿勢です。延滞金(一般的には年率14%)もしっかり請求してきます。
返済をシミュレーションしてみる
代位弁済後、経営者は信用保証協会サービサーとの話し合いによって返済計画を立てます。
倒産までの間に個人資産の多くを会社に投じていることが多いため、倒産後、経営者は経済的に余裕がないのが普通です。このため、完済を目指すならば長期計画になるでしょう。
年率14%の遅延損害金が発生する中、3,000万円を全額返済するにはどうすれば良いでしょうか。試算すると、悲惨な実態がよく分かります。
銀行への返済とは異なり、信用保証協会への債務はまず元金の返済を進め、元金完済後、それまでに累積された遅延損害金を支払う流れです。
仮に、毎月5万円、年間60万円を支払い続けた場合には、元金は50年目に0円となります。50年目時点での遅延損害金の累積は1億290万円です。ここから遅延損害金を全て支払うには、さらに171.5年を要します。
このように、信用保証協会に代位弁済してもらうと、倒産後の人生を全て返済に費やすことにもなりかねないのです。代位弁済額が大きくなるほど、一生かけても完済できない可能性が高まります。
実際には、代位弁済額が大きい場合、遅延損害金まで全て支払うのは無理があるため、遅延損害金は免除してくれるケースが多いです。とはいえ、人生の大部分を返済に潰されてしまうことには変わりありません。
信用保証協会サービサーは債務を一切圧縮せず、このような形で回収を図ります。これが代位弁済の実態なのです。
自己破産以外なくなる
当然ながら、上記のような返済を求められると、経営者は一生苦労することになります。この苦労から逃れるためには、自己破産するほかありません。倒産と自己破産をセットで考えることが多い理由もここにあります。
さすがの信用保証協会サービサーも、自己破産されれば回収できなくなります。
ならば自己破産すればいいかというと、そうとも言い切れません。倒産後、再び会社経営をすることなく、普通に働いて生きていくならばいいのですが、再起を図るとなると、自己破産の過去が大きな問題になるのです。
過去に自己破産したことがある経営者に対して、銀行は融資したいと思いません。このため、再起の後、銀行融資による資金調達が困難となります。
保証付融資を受けることも不可能です。信用保証協会は、過去に自己破産した経営者には二度と保証を出さないからです。
全国銀行個人信用情報センターのデータは10年間残ります。このため、個人信用情報機関から自己破産のデータが消えた後であれば、以前の会社で付き合いのなかった銀行に限って、融資を受けられる可能性があります。
しかし、これはあくまでも「理論的には可能」というだけで、現実的にはかなり困難です。
なぜならば、全く付き合いのない会社に対する新規融資を、プロパー融資で出してくれる銀行はないからです。普通は、信用不足を信用保証協会の保証でカバーします。つまり、「以前の会社で取引のなかった銀行からの新規融資」には信用保証協会の保証が必要となるわけですが、信用保証協会は保証してくれません。
以上のように考えると、自己破産によって再起不能に陥る理由がわかります。
最悪の場合を想定して
ここまで読んで、信用保証協会の怖さが分かったと思います。
しかし、中小企業にとって保証付融資は欠かせない制度であることも事実です。したがって、信用保証協会との上手な付き合い方を知っておくことが大切です。
少額なら自己破産しない
まず、万が一代位弁済に至った場合を考えてみましょう。
再起したければ自己破産を避ける方向で考えてください。債務額が大きく、どう考えても完済できないのであれば自己破産するほかありません。しかし債務が少額であり完済の可能性があれば、安易な自己破産は避けるべきです。
債務が少額であるにもかかわらず、倒産と自己破産をセットで考えている、あるいは自己破産によって再起不能になることを知らないといった理由から、安易に自己破産に踏み切る人が少なくありません。
例えば、返済がある程度進んだ状態で倒産し、保証付融資500万円の代位弁済を受けたとします。延滞金の免除を交渉して元金だけを返済するならば、毎年100万円の返済を5年で完済できます。
完済できれば、信用保証協会はまた付き合ってくれます。再び会社を経営したとき、過去の自己破産を理由に保証を断られることはありません。保証付融資で資金を調達し、また経営に取り組めるのです。
完済の可能性があるならば、会社は破産させても個人は破産せず、連帯保証人として返済することを考えてください。
プロパー融資を重視する
倒産しても、完済できる程度の代位弁済に止めるためには、保証付融資による借入れを減らすことが重要です。とはいえ、資金需要は常に発生するのですから、保証付融資による借入れを減らすためには、
- プロパー融資での借入れを増やす
- 融資以外の方法で資金を調達する
- 資金繰りを改善して必要運転資金を低く抑える
といった工夫が必要です。
このうち、最も重要なのがプロパー融資です。プロパー融資を受けられるならば、保証付融資を利用する必要はなくなります。
難しいのは、銀行から高く評価されなければプロパー融資を引き出せないことです。それでも、プロパー融資を増やすことを常に考えておきましょう。資金調達のたびにプロパー融資の開拓を意識するならば、長期的にプロパー融資による調達額は増えていくはずです。
まとめ
本稿では、保証付融資を利用した場合のリスクについて解説しました。代位弁済後の流れを知ると、保証付融資の怖さが分かると思います。保証付融資を減らすには、プロパー融資を増やしていくのが一番です。しかし、プロパー融資のハードルは高く、経営改善や資金繰り改善が欠かせません。
また、保証付融資を全くのゼロにすることは困難ですから、保証付融資とうまく付き合っていくことも重要です。
プロパー融資を受けるための経営・資金繰りの改善、保証付融資の活用などを進めていく際には、コンサルタントの活用も視野に入れつつ、着実に取り組むことをおすすめします。