資金繰り改善の方法として、よくいわれるのが「回収サイトを短く、支払サイトを長く」というものです。しかし、取引先との交渉がうまくいかず、一向に改善しないとお悩みの方も多いのではないでしょうか。
そのような会社では、社内で生じている問題を解決したほうが確実かもしれません。
本稿では、資金繰り改善に部門間の連携・バランスが重要な理由と、具体的な改善方法について解説します。
各部門の活動が資金繰りに与える影響
一口に「事業」といっても、活動内容を細分化するとお金の動きは様々であり、資金繰りへの影響も一定ではありません。具体的には、以下のように考えることができます。
購買部門の購買活動
製品の製造に必要となる原材料や、販売する商品を仕入れる購買活動には、仕入代金の支払いが伴う。
資金繰りの上では、お金が出ていく動きが生じる。
製造部門の生産活動
製品を製造する生産活動には、製造費用の支払いが伴う。
資金繰りの上では、お金が出ていく動きが生じる。
営業部門の営業活動
製造した製品や、仕入れた商品を販売する営業活動では、売上代金の回収が伴う。
資金繰りの上では、お金が入ってくる動きが生じる。
経理部門の資金繰り
各部門の活動によって生じる支払いや回収を受け、資金繰りをコントロールしていく。
資金繰り改善に欠かせない視点
資金繰り改善のためには、事業全体を俯瞰するのではなく、それぞれの部門・活動に切り離して考えることが大切です。なぜならば、個々の部門・活動で生じている無駄や無理が資金繰りを圧迫するためです。
実際に、資金繰りが悪化している会社では、各部門の連携が取れず、バランスがおかしくなっている傾向があります。
営業部門・製造部門・購買部門などは、それぞれ営業目標や製造目標を抱えています。それらが、達成できなかったとしても深刻な問題は起こりません。
しかし、経理部門で目標が達成できない、つまり資金繰りが回らないということになれば、会社はたちまち倒産の危機にさらされます。
各部門が連携することを考えず、自分の部門での目標達成だけを考えていると、会社の資金繰り改善は困難です。
資金繰り改善に取り組む経営者は、各部門の活動をそれぞれ適切に指導・監督し、部門間での連携を促していくことが欠かせません。
製造業を例に考える
部門間の連携の重要性について、製造業を例に具体的に見ていきましょう。
製造業の事業サイクルは、
- 製造のために原材料を仕入れる(購買部門)
- 製品を製造する(製造部門)
- 製品を販売し、納入する(営業部門)
という流れになっています。それぞれの活動を詳細に分析していくと、資金繰りへの影響や改善のポイントが見えてきます。
購買部門の影響
サイクルの端緒となる購買活動は、購買部門が担います。原材料や商品などを仕入れるのが購買部門の役割ですが、
- 仕入先との契約によって支払サイトを決める
- 納品されたものが発注通りであるか検品する
- 仕入後、在庫管理を行う
といった様々な活動が含まれます。
会計ルールは発生主義に基づくため、購買部門が発注・検品して仕入が完了したら、仕入の計上と同時に仕入先への買掛金も計上されます。実際の資金繰りでお金が動くのは後日ですが、決済日にどれだけの支出が生じるかを経理部門に知らせておく必要があります。
連携を考えるポイント
もし、購買部門と経理部門で連携が取れていなければ、
- 手元資金を考慮せず、過剰な仕入を行ってしまう
- 資金繰りの悪影響を考慮せず、支払サイトが短い契約を結んでしまう
- 経理部門との情報伝達がうまくいかず、資金調達に支障をきたす
といった障害が起こります。
連携がうまくいけば、このような問題が起こりにくくなります。ただし、支払サイトの長期化は取引先の負担となり調整が難しいため、購買部門は仕入のコントロールと在庫管理がより重要といえるでしょう。
「過剰な在庫を抱えている」ということは、「活用できたはずの現金を在庫に置き換え、販売によってお金に変えることもできず、ただ資産を滞留させている」ということにほかなりません。
購買部門が仕入・在庫管理の適正化に努めると、無駄な仕入が減り、出ていくお金が少なくなり、経理部門も資金繰りがラクになります。
製造部門の影響
購買部門や営業部門は、自社だけではなく他社が直接関係する部門であるため、資金繰りへの影響も複雑です。
これに対し、製造部門の活動は「購買部門→製造部門→営業部門」という流れ、つまり自社の中だけで完結します。したがって、製造部門が資金繰りに与える影響も分かりやすいです。
とはいえ、製造部門は製造業のコアともいえる部門です。製品を製造しなければ、売上は上がりません。それだけに、資金繰りへの影響は大きいといえます。
連携を考えるポイント
製造部門では、生産活動に伴う製造経費の支払いによって資金繰りに影響を与えます。このとき、経理部門との連携以上に重要なのが、購買部門・営業部門との連携です。
製造部門・営業部門・購買部門の連携がうまくいかなければ、
営業部門の販売ペースと製造部門の生産ペースが合わず、需要に対応できず収益機会を損なう、または過剰に生産するといった問題が起こる
→製造部門が過剰に生産した場合、購買部門の仕入も過剰とならざるを得ない
⇒仕入れ費用の支払いが大きくなり、経理部門の資金繰りを圧迫する
といった問題を引き起こします。この問題を解消するためにも、部門間での連携が欠かせません。
もちろん、製造自体の改善を考えることも大切です。例えば、
- 業務改善によって原材料の使用量が減る→購買部門の仕入が減る→経理部門の資金繰りがラクになる
- 業務改善によって生産効率がアップする→製造に伴う労務コストが削減される→経理部門の資金繰りがラクになる
- 不良品の発生率が減る→購買部門の仕入が削減される→経理部門の資金繰りがラクになる
- 原価率の高い製品の製造を止めて原価率の低い製品の製造に注力する→利益率が高まり現金が増える→経理部門の資金繰りがラクになる
といった流れで資金繰り改善が可能です。
営業部門の影響
営業部門では、製品を販売します。購買部門と同様に発生主義に基づき、製品の納入と同時に売上を計上します。売掛先からの入金は後日となるため、この時点では資金繰りに影響はありません。
支払い期日が近づくと、請求書を作成して売掛先に送付します。期日通りに入金があれば、そこではじめて資金繰りにプラスの影響をもたらします。当然、何らかの理由によって売掛金の回収が遅れると、経理部門はその期間中のやりくりを迫られ、資金繰りに苦労することになります。
売掛先の入金が遅れる「何らかの理由」は複数考えられますが、営業部門と経理部門の連携が取れていなかったことによって起こることが多いです。例えば、
- 営業部門が売上目標達成のために独走し、回収サイトの長い取引条件での契約が増えた。平均的な回収サイトが延びて、売上の入金が遅くなった
- 営業部門が新規取引先の開拓を急ぎすぎたため、信用調査が不十分なままに契約することが増えた。与信限度額の設定も甘く、与信管理も不適切となり、貸し倒れリスクが高まった。その結果、売掛先の経営悪化による支払いの遅延、回収不能が増えた
といったケースが代表的です。
もし、営業部門が経理部門としっかり連携していれば、このような問題は大幅に減ります。経理部門の資金繰りを考慮して営業を進めるならば、営業マンは、
- 資金繰りがラクになるよう、回収サイトの短縮を念頭に販売していこう
- 支払い遅延や回収不能リスクが起こらないように、信用調査をしっかり行った上で販売先を開拓していこう
といった意識を持つことができ、売掛金の回収は自然と早くなっていきます。
もちろん、取引先との関係があるため、回収サイトの短縮には限界があります。それでも、信用調査・与信管理の徹底によって支払い遅延や回収不能を防止すれば、資金繰りには大いにプラスになります。
また、信用調査・与信管理を通して、信用力の高い売掛先を増やすことは、資金調達にも役立ちます。支払期日前の売掛金をファクタリングによって早期資金化する場合、売掛先の信用が高ければ、ファクタリング手数料を抑えて資金調達できるのです。
経理部門を中心に連携を図る
製造業を例に、部門間の連携と資金繰りへの影響を見てきました。購買・製造・販売の各部門が、それぞれ資金繰りと強い結びつきにあることが分かったと思います。
実際、資金繰りが良い会社の内側を見てみると、経営者が資金繰りにしっかりとした見識を持っています。さらに、各部門で働く従業員ひとりひとりが、部門の活動・自分自身の活動が資金繰りに影響を与えていることを自覚しながら働いています。
もちろん、資金繰り改善の出発点は経営者であり、経営者が号令をかけなければ資金繰りは改善できません。しかし、経営者ひとりの取り組みでは、資金繰り改善は不可能です。
とはいえ、まとめ役は必要です。会社が小規模であれば、経営者がまとめ役になることもできますが、会社が大きくなるにつれて各部門の活動が大きくなるため、経営者がまとめるには限界が出てきます。
まとめ役を担うべきは、ずばり経理部門です。経理部門は、各部門からデータを収集・管理することで、各部門の活動がバラバラにならないようにまとめていくことができます。具体的には、
- 購買部門は、仕入日報や買掛金支払報告など、支出に関するデータを経理部門に流す
- 製造部門は、製造日報や在庫報告、出荷記録など、売上に関するデータを経理部門に流す
- 営業部門は、売上日報や売掛金回収報告など、収入に関するデータを経理部門に流す
といった流れを作ります。これにより、経理部門は生のデータを即時に反映しながら、資金繰り表を作成し、資金繰りをコントロールしていきます。
経理部門がまとめ役になれば、問題の早期発見・解決も比較的容易です。資金繰りが悪化した場合、各部門のどこかで異常な活動が行われ、全体の不調和を招いている可能性が高いです。このとき、経理部門が中心となり、各部門に協力を要請できる流れができているため、問題解決もスムーズなのです。
ポイントは「可視化」
各部門の連携を強めていくポイントは「可視化」にあります。各部門の協力によって、資金繰りにどれくらいプラスの影響があったのか、つまり貢献度を可視化するのです。
可視化の取り組みは、各部門が個別にやっているだけ、ということが多いです。営業部門で、営業マンひとりひとりの営業成績をグラフ化し、可視化するといった取り組みです。
これを、経理部門が中心となり、全部門を対象として可視化するのです。
例えば、
- 購買部門に対しては、買掛金の支払サイト延長、原材料の回転期間短縮
- 製造部門に対しては、歩留率向上
- 営業部門に対しては、売掛金の回収サイト短縮、回収率向上
など、資金繰り改善につながる目標を設定し、達成率を可視化します。目標達成に応じてインセンティブを設定し、モチベーションアップを図るのもおすすめです。
まとめ
資金繰り改善方法として、よく言われるのが「回収サイトの短縮・支払サイトの延長」です。回収サイトと支払サイトのバランスが極端に悪い会社では、大きな効果が期待できます。
しかし、これらの取り組みは取引先との交渉が必要であり、なかなかうまくいかない、結果が出るまでに時間がかかるといった問題があります。
確実なのは、自社内部で放置されている資金繰り悪化要因を取り除いていくことです。資金繰りコンサルタントに依頼することで問題点を洗い出し、アドバイスを受けながら、徐々に改善していくのが良いでしょう。
ぜひ、専門家の協力も受けつつ、自社に最も効果的な方法で資金繰り改善を進めてください。