経営者ならば、誰しも「黒字倒産」という言葉を知っていると思います。しかし、なぜ黒字倒産に至るのか、その仕組みを詳細に理解している人は少ないのではないでしょうか。
自覚が乏しいままに経営が悪化していき、やがて取り返しがつかなくなる・・・という事態を防ぐには、黒字倒産の仕組みや資金繰りとの関係をしっかり理解しておくことが役立ちます。
黒字倒産の正体
営業がうまくいき、商品やサービスが順調に売れていれば、利益は計上されます。目に見えて儲かっている状態です。
しかし、そのような会社でも倒産することがあります。利益が出ている、つまり黒字の状態で倒産することから、これを「黒字倒産」といいます。黒字倒産の理解しがたさは、「儲かっている=倒産しない」というイメージが強いことにあります。
理解のポイントは、会社が現金取引ではなく掛取引をしていることを意識することです。
日本では、ほとんどの業種で掛取引を行っています。つまり、信用取引(信用を担保に支払いの先延ばしを認める取引)によって成り立っている「信用経済」です。
黒字倒産を引き起こす遠因はここにあります。
掛取引では、支払いを先延ばしにするため、売上によって「いくら儲かったか」を測るほかありません。「実際に入ってきたお金」を考慮せず、「将来入ってくる予定のお金」で考えるため、「将来入ってくる予定のお金」が何らかの理由によって入ってこなくなると、たちまち資金繰りが狂います。
これが、「儲かっているのに倒産する」黒字倒産の正体です。
利益計算と資金繰り計算の違い
信用経済の大きな欠陥は、「利益の計算」と「資金繰りの計算」が全く別のところで、別の基準で行われることです。
財務諸表のうち、利益の計算は損益計算書で、資金繰りの計算は貸借対照表で行われます。これによってどのような違いが出るか、図で見るとよく分かります。
【利益の計算】
原価 | 売上 |
経費 | |
純利益 |
利益は、発生主義というルールによって計算します。実際のお金の出入りを基準とするのではなく、売上、原価、経費の三要素によって利益を計算するのです。すなわち、
売上-原価-経費=純利益
と計算します。
この計算によって把握できる事実は、
- 黒字か赤字か
- 黒字額または赤字額はいくらか
ということです。しかし、お金の出入りは無視しており、計算式に当てはめた数字のうち、出ていくお金として確定しているのは原価と経費だけです。
売上は、金額は確定しているものの、入ってくるお金としては確定していません。売上が不確定要素であるため、純利益も不確定です。
つまり、利益計算によって把握できる利益には、裏付けがないともいえます。
【資金繰りの計算】
収入 | 支出 |
不足 |
一方、資金繰りの計算は、お金の出入りだけで考えます。収入は、入ってくるお金の全てが対象となるため、回収した売上や借り入れたお金、貸したお金が返済されたものなどが含まれます。
支出は、出ていくお金の全てを対象とします。仕入れ代金の支払い、借入金の返済、リース代金の支払いなどが含まれます。
入ってくるお金よりも出ていくお金が大きい場合、上の表のように不足が生じます。不足分の埋め合わせができなければ資金繰りはショートします。
資金不足は色々な場合に起こります。例えば、
- 売上の回収が遅く、売上代金を支払いに回せない
- 仕入れのスピードと販売のスピードが合わず、在庫の大半が売上に変わる前に多額の支払いを迫られる
- 多額の融資を受けて設備投資をしたが、設備投資が売上につながるまでに予想以上の時間がかかり、返済資金を捻出できない
といったケースがよく見られます。
このような理由によって、利益計算では黒字になっていても、資金繰り計算で不足が発生した場合、黒字倒産が起こります。
黒字倒産と粉飾決算
黒字倒産に至る会社の顕著な特徴として、粉飾決算に陥ることが挙げられます。
粉飾決算とは、上記に説明した信用経済の特殊性を悪用し、経営の実態とは異なる決算を行うことです。「借方と貸方が常に一致する」という簿記の原理に基づいて、貸借対照表と損益計算書にまたがって数字を操作し、純利益を大きくすることにより、決算内容の改善を図ります。
粉飾といえば、非常に理解しにくい、難しいものに感じるかもしれませんが、実際にはこれだけのことです。それほど難解なものではなく、手口も単純です。
代表的な粉飾の手口には、
- 売上と売掛金を同額ずつ増やし、当期純利益を増やす
- 棚卸資産を増やし、同額だけ原価を減らし、当期純利益を増やす
といったものがあります。
粉飾すると無理が生じる
上記のように、粉飾は売上・売掛金・棚卸資産・原価などの数字を操作することで行われます。
つまり、営業、コスト削減、業務改善などの様々な経営努力を通じて利益を高めるのではなく、架空の伝票を発行することによって利益を操作しているのです。
粉飾を行う理由は色々ありますが、多くの中小企業では銀行からの融資を引き出すために行われます。上場企業であれば、株価や配当を維持するために粉飾します。
しかし、粉飾によって計上された利益はすべて架空のもの、絵に描いた餅です。実際に現金として手に入り、資金繰りに活用することはできません。
銀行融資を引き出すために粉飾し、うまく融資を受けられたとしても、それは「架空の利益を根拠に借り入れている」ことに他なりません。
銀行は、架空の利益が返済原資になると見なして融資しています。実際には、その利益を返済に回すことはできず、返済のための不足資金を調達する必要に迫られます。これがさらなる粉飾を招き、返済できない借入れを増やし、返済に行き詰り・・・という泥沼に陥っていきます。
黒字のはずが債務超過に
このような会社は、見かけの上では黒字になっていても、資産の中には架空の売掛金、回収不能な不良債権、不良在庫、水増しの棚卸資産などがたくさん潜んでいます。
粉飾した貸借対照表と、正常な貸借対照表を比較すると、このことがよくわかります。
【粉飾した貸借対照表】 | 【正常な貸借対照表】 | ||
借方 | 貸方 | 借方 | 貸方 |
流動資産 | 負債 | 流動資産 | 負債 |
固定資産 | |||
固定資産 | |||
債務超過 | |||
純資産 | |||
左の表は粉飾した貸借対照表です。流動資産には不良債権や架空の在庫、不良在庫などが含まれており、固定資産にも含み損を抱えた不動産などが含まれています。
ここから、粉飾された資産を取り除き、実態に即した資産内容に修正したのが、右の表です。
不良債権や不良在庫を除き、固定資産も時価相応に再評価したうえで正しい貸借対照表を作ると、実際の流動資産と固定資産が負債総額を上回る、つまり債務超過の状態になることが分かります。
ひどいケースになると、帳簿には計上されていない借入金が隠れていることもあります。その場合には、貸方の負債総額が増え、債務超過額がさらに大きくなります。
粉飾した貸借対照表と、正常な貸借対照表を比較すると、粉飾の状態にはかなり無理があることが分かるでしょう。倒産は時間の問題です。
黒字倒産する会社は、粉飾決算をしているケースが多いというのは、このような意味です。
粉飾から立て直す難しさ
会社によっては、それほど深刻に考えることなく粉飾を行っているケースもあります。例えば、
- 回収不能に陥っている売掛金を「回収が遅れているだけ」と考えて計上し続ける
- 長期間にわたって売れ残り、すでに陳腐化や劣化によって価値が大幅に低下している不良在庫を「いつか売れる」と考えて、仕入れ当初から価値が変わらないものとして計上し続ける
といったケースがよく見られます。これらの場合、架空の売上や資産を故意に計上するよりも罪が軽いように見えますが、計算の根拠となる価値が実際にないのですから、架空の価値を計上しているという点では粉飾といえます。
また、このような状況が続くと、徐々に感覚が麻痺してきます。粉飾に危機感を持たなくなり、経営改善に真剣に取り組む意欲も失われ、経営は悪化の一途をたどります。そして、上記の例のように、実質的に債務超過状態となります。
債務超過とは、自社の資産を全て売却しても、負債の清算が追い付かない状態を表します。こうなってしまえば、リスケジュールによって債務の据え置きを依頼したり、資産売却やリースバックによる大規模なオフバランスを進めたり、ともかく大改革を断行しなければ、経営を正常に戻すことはできません。
自覚の有無に関係なく、粉飾している場合には経営の立て直し、資金繰りの改善は非常に困難です。
このような自覚がある、思い当たる節がある、あるいは会社を継いでから資産の洗い直しをしていないなどの場合には、まずは資産内容を精査し、経営実態を正確に反映した貸借対照表を作成しましょう。そのうえで、「実態とは程遠い内容であった」ということが分かれば、そこを出発点として経営を立て直していくのです。
それに伴い、リスケジュールの交渉、リスケ期間中の資金繰りの維持、ファクタリングの活用などが必要となるため、ノウハウや知識の面で専門家の支援が欠かせません。経営改善に強みのあるコンサルタントの協力を依頼し、最短距離での正常化を目指すことも視野にいれましょう。
まとめ
黒字倒産は「売掛金の回収が遅れて倒産する」といった解釈をされることが多いものです。確かに、それも黒字倒産の大きな原因の一つです。
しかし、売掛金の回収が遅れたときには、ファクタリングによってツナギ資金を得ることもでき、売掛金の回収不能だけですぐに倒産するのではありません。それ以外に、仕入れの失敗や設備投資の失敗、さらには粉飾など、悪手を積み重ねたうえで黒字倒産に至るケースがほとんどなのです。
資金繰り改善、経営改革などを目指す経営者は、粉飾その他の理由により、想像以上の困難を抱えているケースが少なくありません。
まずは、自社の問題を残らず洗い出すために、コンサルタントなどの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。