「資金繰りが難しい」と感じている経営者は多いものです。では、資金繰りの何が難しいのでしょうか。これが分からなければ、資金繰りの根本的な考え方、求められる姿勢などもわからず、資金繰り改善にも手が付けられなくなります。
何事も、基本をしっかり学んだうえで取り組むことが欠かせません。本稿では、資金繰りの考え方、取り組みのポイント、今後の資金調達などに欠かせない「資金繰りの本質」を解説します。
会社とはお金が不足するもの
そもそも会社は、常にお金を必要とするものです。
会社を起こす際には、事業活動に使う設備を揃えるために多くの資金が必要となります。事業がスタートした後も、製造のための原材料、販売する商品、日常業務に必要となる消耗品などを常に仕入れなければならず、「今、資金は全く必要ない」というタイミングは考えられません。
必要となった資金は、創業後まもない時期は資本金から支払いますが、営業を開始し、商品やサービスの販売によって売上が得られるようになれば、売上代金でカバーしていくのが基本です。
しかし、ここで大きな問題が生じます。それは、ほとんどの商売は現金取引ではなく掛取引であるため、売上が入金されるのは後日(多くは1~2ヶ月後)になることです。取引先の経営が悪化して入金が遅れる、最悪の場合には全く回収できないといったトラブルも起こり得ます。
その結果、仕入れなどの支払いが売上の回収に先行することとなれば、売上代金によって支払うことはできなくなります。手元資金でカバーするか、不足するお金を何らかの方法によって工面するほかありません。
また、支払い以外にも支出は様々です。競合他社に後れを取らないためには、販促のために宣伝広告を打ったり、設備を更新したりする必要があります。これらの取り組みは、効果が得られるまでに時間がかかります。売上アップは先になるため、コストの支払いが回収に先行するのです。これも、お金が不足する原因となります。
このように考えると、「会社とはお金が不足するものである」ということが分かるでしょう。
これが、経営の生々しい実態であり、多くの経営者が苦しむところでもあります。その苦しみを和らげるために重要となるのが、資金繰りです。
資金繰りの本質とは?
資金繰りの役割を大まかに挙げると、
- 現在のお金の流れを知ること
- 将来のお金の流れを予測し、不足する時期と不足額をできるだけ早いタイミングで把握すること
- 不足する時期までに、不足額をどのように工面するか、方針を立てること
の三つです。
しかし、これが分かっただけでは、資金繰りがラクになるわけではありません。大切なのは、資金繰りの役割をしっかりと機能させ、支払いに困らないやり繰りを確立することです。
よく「資金繰りが健全である」といいますが、これは「会社の経営者が資金繰りをしっかりと把握し、コントロールできている」ということです。つまり「健全な資金繰り」「上手な資金繰り」とは、
手持ちのお金を把握
近い将来に入ってくるお金を把握
近い将来に出ていくお金を把握
支払い後も十分なお金が残るようにする
この一連の流れを常に継続していることを意味します。
資金繰りのキーポイント
上記の流れのうち、特に重要となるのは「将来の入金の把握」です。入金をしっかり把握していれば、それによって支払いをカバーできるか、支払えるならば支払い後にどれくらいのお金が残るかが分かります。資金繰りの全体像を掴むことができ、コントロールしやすくなるでしょう。
ところが、言うは易く行うは難しで、「入金の把握」が最も厄介なものでもあります。なぜならば、
- 将来の売上がどのように変動するか、予測できないことがある(新型コロナウイルス感染症による経済の混乱のように、突発的な売上の急減が起こることもある)
- 売掛先の経営が悪化し、期日通りに入金されない、売掛金が不良債権化するなどトラブルが起こることがある
といった理由により、入金の見通しが狂うことが少なくないからです。
資金繰りが異常を来すとどうなる?
入金の予定が狂い、資金不足が発生するとどうなるのでしょうか。資金不足のイメージを掴むために、正常な資金繰りと異常な資金繰りの違いを表で見てみましょう。
正常な資金繰り | 異常な資金繰り | ||
使えるお金 | 出ていくお金 | 使えるお金 | 出ていくお金 |
繰り越されたお金 | 支払いに使うお金 | 繰り越されたお金 | 支払いに使うお金 |
回収した売上 | 回収した売上 | ||
余るお金 | 不足するお金 |
理想的・正常な資金繰りは、繰り越されたお金と回収した売上によって支払いをカバーし、できるだけお金を余らせて繰り越していき、手元資金を厚くしていくことです。
実際には、多くの中小企業でこのような資金繰りができず、異常な資金繰り、すなわち「繰り越したお金+回収した売上だけ<支払うお金」になっています。このままでは資金繰りがショートするため、銀行融資やファクタリングなどの方法によって資金を調達し、不足額をカバーする必要があります。
資金繰りが悪化してからでは遅い
不足資金をカバーするために、最優先すべき方法は銀行融資です。銀行融資であれば金利が安く、まとまった資金を借りられる可能性が高く、長期融資であれば計画的に分割返済することもできます。
しかし、銀行融資はいつでも、必ず頼りになる方法ではありません。よく「銀行は雨の時に傘を貸さない」などと言われますが、事実そのようなケースは少なくないのです。
銀行は金融の円滑に欠かせない存在であり、公的な使命を帯びています。このため、中小企業が融資を受けることも可能であり、経済が極端に悪化する局面では、国の後押しによって融資を緩和することも多いです。
しかし、公的な使命を帯びていることには善悪の両面があります。いくら金融の担い手とはいえ、破綻リスクの高い会社に簡単に融資していると、不良債権が激増し、金融の混乱を来します。
また、銀行も営利企業である以上、信用できる相手に貸し付け、返済してもらい、金利を稼ぐことも必要です。
このため、資金繰りが悪化した会社が融資を相談しても、貸し倒れリスクが高いと判断されれば簡単に断られてしまいます。すぐに断られない場合にも、多くの資料を要求され、1ヶ月以上も審査を待った挙句、融資を断られることが珍しくありません。
資金調達を銀行だけに依存するのは危険です。資金繰りが悪化しても融資を受けられるのは、悪化の兆しを早期にキャッチし、ごく初期の段階で融資を申し入れる場合だけです。しかし、たとえば「ここで融資が出なければ破綻する」といった状態になってから相談しても、「貸せ」という方に無理があるのです。
したがって、「資金繰りが悪化してからでは遅い」と考えておくことも、資金繰りには重要なことです。
健全な資金繰りによって、銀行が「貸したい」と思える状況を常に保っておき、また銀行融資以外の資金調達方法も必要に応じて活用していく姿勢が欠かせません。
緊張感を持って資金繰りを
資金繰りコントロールには入金の把握が最も重要であると同時に、入金の把握が最も難しく、さらには資金繰りの軸とすべき銀行融資は、いつでも頼れるものではありません。
これにより「資金繰りが難しい」という前提が成り立ちます。この事実をしっかり受け止めることが重要です。
この事実をしっかり受け止めている経営者は、緊張感をもって資金繰りに対応しています。例えば、
- 一年のうち売上が最も低い月を基準として、その場合にも資金繰りがショートしないようにコントロールしていく
- 売掛先の与信管理を徹底し、売掛金の不良債権化リスクをできるだけ抑える
- 早い段階での資金調達を心がける
- 日常的に銀行との関係深化を図り、来るべき銀行融資に備える
- 様々な資金調達を組み合わせ、ファクタリングの活用によって回収の早期化や貸し倒れリスクの回避を図る
- 専門家のコンサルティングを活用し、資金繰り悪化の予防と改善に常に取り組む
といった対応ができるのです。
まとめ
現在「資金繰りが苦しい」「資金繰りをラクにしたいが難しい」と悩んでいるならば、まず緊張感をもって資金繰りに臨むことを第一歩としてはどうでしょうか。
正しい姿勢を持つかどうかによって、長期的な資金繰りはずいぶんと変わります。取り組みの方向性が正しくなるため、最初のうちは微々たる効果しか感じられずとも、資金繰り改善は着実に進んでいきます。
資金繰り改善をスピードアップしたければ、コンサルタントの支援を受けるのも良いでしょう。
何から手をつけて良いか分からない人は、まずは専門家への無料相談から始めることをおすすめします。