資金調達サポート

現金主義vs売上主義②売上主義にはたくさんの危険が潜んでいる!

売上主義はなぜ危険なのか

経営者の主義は様々ですが、二種類に大別すると現金主義・売上主義に分けることができます。
この主義の違いは、資金繰りに大きく影響します。現金主義の経営者に比べて、売上主義の経営者は資金繰りに苦労することが多いのです。資金繰りがショートして倒産した会社の経営者や、いま現在において資金繰りに苦労している経営者は、大多数が売上主義に傾いていると言って差し支えないでしょう。

売上=利益ではない

なぜ売上主義では資金繰りに苦労するのでしょうか。それは、

「売上が上がればたくさん儲かる。儲かるのだから倒産するはずがない。今は資金繰りが厳しいが、徐々に良くなっていくだろう」

という思考に陥っているからです。
売上主義では、売上と利益を混同しやすいことに大きな問題があります。実際には、売上と利益は別物です。売上が得られたからといって、必ずしも利益を得られるとは限りません。

もちろん、売上主義の経営者も「売上≠利益」であることを知っています。それでも、売上は会社を評価する際の指標とされることが多いため、当初は「売上だけではだめだ」と分かっていても、売上を伸ばして高評価を受けるうちに「売上を伸ばせば万事うまくいく」という錯覚に陥り、売上至上主義にどっぷりとはまっていくのです。

社員まで売上主義になった結果・・・

特に、中小企業経経営者と売上主義は、かなり危険な組み合わせです。これが悲惨な結果を招くことも多いです。というのも、中小企業では経営者の影響が非常に強く、経営者の主義が社員に共有されやすいからです。
売上主義の経営者が無理な売り上げ目標を設定したとき、その方針に異を唱える社員は全くいないか、いてもわずかでしょう。多くの社員は、社長の掲げた目標を目指して働きます。
最初のうちは、社員も常識的に考えることができるため、利益を確保しつつ売上目標の達成を目指します。しかし、そもそも設定に無理があるのです。売上を伸ばすために、徐々に採算性を度外視した営業に奔るようになり、極端な薄利多売が恒常化します。

たくさん売るためには、たくさん仕入れる必要があります。たくさん仕入れるには、たくさんの利益を確保し、手元資金が潤沢でなければなりません。しかし、採算性を無視したために十分な利益が出ておらず、売掛金の回収もずさんになり、手元資金が慢性的に不足するようになります。
このように、売上が伸びる一方で、資金繰りが常に厳しい状態に陥っていきます。売上主義にはこのような危険があるのです。

売上主義に潜む4つの危険性

具体的に、売上主義はどのような理由によって資金繰りを悪化させるのでしょうか。主な理由を見ていきます。

与信管理がずさんになる

無理な売り上げ目標を掲げ、上も下も売上アップに奔る時には、与信管理がずさんになることを避けられません。

まず、売上のために契約条件を譲歩した結果、回収サイト(売上の入金期日までの期間)が長期化するケースが多いです。回収サイトが支払いサイト(代金の支払い期日までの期間)よりも長くなると、売上が入金されるよりも早いタイミングで支払うこととなります。
金融機関から融資を受けるなどして手元資金を確保しておけば、しばらくは問題ないでしょう。しかし、「回収サイト>支払いサイト」の状態は変わっておらず、問題を先送りしたにすぎません。

また、売上アップのために新規取引先を急速に増やせば、各取引先の財務状況の把握が不十分となります。財務が悪化している会社と取引してしまい、「支払いを1ヶ月待ってほしい」「分割払いにしてほしい」などと要求されることも多くなります。
入金が支払いよりも遅いことに加え、入ってくるべきお金が入ってこなくなれば、経常収支がマイナスになる可能性が高いです。
経常収支のマイナス分は資金調達によってカバーすることとなります。しかし、借入れによって埋め合わせるのは非常に危険なやり方です。借入れと返済を繰り返しながら借入金を減らしていけるのは、経常収支がプラスの時だけです。経常収支がマイナスの状態で借入れを繰り返せば、借金はどんどん膨らんでいきます。
資金繰りを改善しなければ債務超過になるのは時間の問題ですが、売上主義ではなかなか資金繰り重視の視点に切り替えることができません。

どんぶり勘定になる

与信管理がずさんであることにも通じますが、売上主義の経営者はどんぶり勘定で考えることが多いです。
売上主義では、売り上げることを重視するあまり、売ることがゴールであると錯覚しがちです。本来であれば、売上を回収して利益が得られることをゴールとすべきですが、それを忘れてしまうのです。

どんぶり勘定の大きな問題は、取引先に付け入る隙を与えてしまうことです。
例えば、売上主義によって与信管理がずさんになり、取引先から「支払いを待ってほしい」と言われたとき、どんぶり勘定ゆえに資金繰りへの影響を正しく把握できず、安易に受け入れてしまいます。
この取引先は、資金繰りが苦しいからこそ支払いの延期を頼んできたのです。複数の取引先に対して支払いの延期を頼んでいると考えるのが自然です。
与信管理をしっかり行っている会社は、このような要求をされたときに厳しく対応します。一部だけでも入金させたり、場合によっては法的措置を取ることをほのめかしたり、「売掛金と買掛金」「売掛金と在庫」などの形で相殺を図ったり、様々な手段をとります。
厳しく対応する取引先と、厳しく対応しない取引先があれば、当然ながら前者の支払いが優勢され、後者の支払いは後回しになります。

また、どんぶり勘定で甘い対応をしたことにより、その取引先はどんどんルーズになっていきます。最初の遅延では1週間遅れて支払ったものを、次の遅延では2週間遅れ、その次は1ヶ月遅れ・・・というようになっていくのです。
さらに、数ヶ月分の支払いが溜まった後に一部だけ支払いを受けた場合、与信管理がずさんであるために、その支払いがいつの売掛金に該当するかが分からなくなり、会計処理がうまくいきません。処理できないものは、未回収のまま放置することにもなりかねません。
売掛金の支払い義務は5年で消失します。回収できずに放置した売掛金が時効を迎えてしまえば、売上アップのために払った努力とコストが、全て水の泡になります。

固定費が重い

支出の内訳を見てみると、その会社の経営者が現金主義であるか、売上主義であるかが分かります。売上主義の経営者は、

「売上が上がれば儲かり、資金繰りは回る。経費負担が重くなっているが、これは売上のための必要経費であるから問題ない」

と考え、無駄な経費まで「必要経費」と正当化し、経費の見直しを先送りし続けます。
売上主義の影響が特に色濃く表れるのが固定費です。いくつか挙げてみましょう。思い当たるものがあるかもしれません。

役員報酬

まず、役員報酬に注意すべきです。
売上主義によって業績が急速に伸びていくと、それに合わせて役員報酬をアップすることと思います。会社が儲かっているのですから、相応の報酬を受け取ることには何の問題もありません。
しかし、業績が落ちたときが問題です。業績アップに合わせて報酬をアップしたように、業績悪化に合わせて報酬をカットできる経営者はなかなかいないのです。
多くの場合、報酬を下げることで生活に響くことを嫌うのではありません。資金繰りを意識せず、売上だけをみて成果を挙げてきた体験があるために、役員報酬を下げなくてもどうにかなる、と思い込んでいるのです。

接待交際費

売上主義では、「新規顧客の獲得」「既存客との取引拡大」といった名目で、接待交際費が過剰になることがよくあります。
例えば、儲かっていることをアピールして売上につなげようと考え、高級レストランで食事をしたり、高額な年会費を支払ってビジネスクラブに入会したりします。儲かっているうちは問題ないのですが、売上の伸びが鈍化して資金繰りが悪化してからが問題です。早急にカットすべきですが、それによって経営悪化を悟られて売上に響くことを恐れ、交際費をなかなかカットできないのです。
このような交際が売上に繋がることもあるでしょうが、費用対効果は疑わしいものです。交際費をカットして手元資金を増やし、資金繰りを少しでもラクにしたほうがはるかに良いでしょう。
資金繰りが苦しくなって支払いに問題を犯せば、それまでにどれほど多くの交際費をつぎ込んでいても、一瞬で信用を失います。

宣伝広告費

このほか、宣伝広告費も見直すべき固定費のひとつです。
分かりやすいのがホームページ維持費です。ホームページは売上アップに効果的なツールですが、運用次第で効果に雲泥の差が生じます。
中小企業の中には、売上を伸ばすためにホームページを作ったものの活用できておらず、売上にほとんど貢献していないケースが少なくありません。
売上に貢献しないホームページを使い続けているくらいですから、自社でホームページを管理することは不可能です。運営管理を専門業者に任せて、高額の維持費を支払っていることも多いです。
この場合にも、「ホームページを閉鎖すれば信用を失う」といった恐怖感や、「ホームページから売上に繋がっていることもあるかもしれない(効果を検証していないため不明)」といった期待を抱き、なかなか削減に踏み出せません。

固定費は売上と関係ない費用です。固定費が大きくなったから売上も上がる、固定費が小さくなったから売上も下がる、といったことはありません。
売上主義によって売上最重視の姿勢であれば、売上に関係ない固定費の見直しも当然のように思えますが、なかなかそのように考えられないのが売上主義の危ないところです。

在庫管理がずさん

最後に、売上主義と在庫管理の危険な関係を知っておく必要があります。
繰り返し述べた通り、売上主義では売ることをとにかく重視するため、売るための在庫をたくさん仕入れてしまい、過剰在庫に陥りやすいです。

しかし、過剰在庫の危険はこれだけではありません。過剰在庫は、売上主義の経営者に「根拠のない楽観」ではなく「根拠のある楽観」を与えてしまうのです。
もちろん、過剰在庫によって儲かることはないため、厳密には「根拠(らしきもの)がある楽観」です。何が根拠らしく見えるのかといえば、過剰在庫であることによって、売上がなくても帳簿の上では利益が増えることです。
資金繰りが苦しく、売上も振るわない状態であっても、過剰在庫によって決算書を黒字に保つことができます。また、「倉庫の在庫を売ればお金は入ってくる」という感覚があるため、過剰在庫によって取り繕っている状況でも、いまひとつ危機感を持つことができません。

過剰在庫は避けるべきです。売れない商品を自社で保管していることに大したメリットはなく、むしろデメリットの方がはるかに大きいです。
1,000万円分の過剰在庫を仕入れることは、1,000万円の現金をわざわざ在庫に変え、支払いなどに活用できない状態で、ただ売れるのを待って保管していることと変わりません。資金繰り的に、大きなデメリットであることは明らかです。

しかし、売上主義の経営者はこのことになかなか気づくことができません。過剰在庫を大事に抱えている状態を、「きちんと在庫管理ができている」と思い込んでいる人も多いです。
これでは、いつまでも資金繰りはラクになりません。

まとめ

売上主義は、それほど問題ないように思えます。売上は会社にとって欠かせないものであるため、売上主義という言葉には肯定的な響きも感じられます。
しかし、本稿で解説したように、売上主義はたくさんの危険を抱えています。与信管理がずさんになる、どんぶり勘定になる、変動費が高い、過剰在庫を抱える、これらをまとめると、「赤字体質であり、資金繰りは非常に苦しく、今後もその状況に拍車がかかる可能性が高い」といえるでしょう。

そのような危険は避けるには、売上主義から現金主義にシフトすることが大切です。「売上主義→現金主義」という流れが観念的に感じられ、具体的な対策が分からない場合には、資金繰りのプロにコンサルティングを依頼するのも良いでしょう。コンサルタント料が負担に感じられるかもしれませんが、長期的には良い結果につながっていきます。