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「売上アップ→資金繰り改善」に目線を変えるだけで資金繰りはラクになる

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中小企業経営者のストレス

この記事を読んでいる人のうち、多くは経営者であると思います。特に、資金繰りに苦しんでいる経営者が多いはずです。
まず知ってほしいのは、資金繰りに苦しんでいる経営者はあなただけではないということです。多くの中小企業が資金繰りに苦しんでいます。

なぜ資金繰りが苦しいのでしょうか。
この問いに対して、多くの経営者が「売上が伸びない」「売上が落ちた」「売上が安定しない」などと答えます。
確かに、売上が低下すれば銀行から融資を受けることが難しくなり、資金繰りが苦しくなります。赤字に転落すればなおさらです。

しかし、これを「売上が伸びたら資金繰りがラクになる」と考えるのは間違いです。資金繰りが苦しい大きな原因は、

「資金繰り改善よりも売上アップにフォーカスしている」

ことが非常に多いのです。

売上アップ=資金繰り改善ではない

企業とは、モノやサービスを販売して利益を得ており、利益によって資金繰りを回していくのが理想です。利益の源泉は売上であるため、資金繰りにおいて売上は決して無視できない要素です。
しかし、売上アップだけを追求すると、色々な問題が生じます。売上が上がれば資金繰りも改善されるという思い込みは、資金繰りをさらに悪化させる危険性も孕んでいます。

売上の低下も、資金繰りの悪化をもたらします。しかし、資金繰り悪化の最大の原因は何かを考えてみると、売上の低下ではないことがほとんどです。
例えば、売上が低下する一方で利益率が高まるならば、売上低下が資金繰り悪化に直結する危険は避けられます。

そもそも、資金繰りが売上に左右されるのであれば、売上が好調な時には資金繰りもラクになるはずです。ましてや、黒字倒産(=儲かっているのに資金繰りが破綻する)などは起こるはずがありません。
実際には、売上が好調でも資金繰りが苦しく、「働いても働いても楽にならない」と感じている経営者は多いです。

黒字倒産の件数も多いです。東京商工リサーチの調査結果(2018年度)によると、倒産した企業のうち赤字倒産は52.2%、黒字倒産は47.7%となっています。
売上が落ちて倒産した会社と、売上があって(中には売上がアップして)倒産した会社の割合がほとんど一緒であることを見れば、「売上アップ≠資金繰り改善」であることがよくわかります。

資金繰りが苦しいと感じ、日々売上を追求している経営者は、視点を変えることが大切です。まずは、

資金繰り改善のために売上をアップする→資金繰り改善のために資金繰りを改善策に取り組む

というように、資金繰りそのものにフォーカスすることを意識してください。

資金繰りにフォーカスすると・・・

売上から資金繰りにフォーカスすると、資金繰りの考え方が一変します。

売上アップに集中する場合、最も重要なことは新規顧客の獲得です。経理よりも営業に注力する必要があり、営業活動によって生じる資金繰り負担を見落とすことも多くなります。
売上は一朝一夕に伸びるものではなく、実際に売上が上がるまでには時間がかかります。結果が出る以前の段階で、資金繰りへの負担は着実に重くなっていきます。
さらに、資金繰りの問題を後回しにしている以上、売上がアップしても資金繰りはラクになりません。売上とともに経費も大きくなるからです。

資金繰りにフォーカスすれば、営業よりも経理に注力することとなり、事業への取り組み方、とりわけ資金繰りへの取り組み方・考え方が一変します。
新規顧客の獲得よりも、既存の顧客との関係において、いかにすれば資金繰りが改善するかを考えて取り組むことができます。
資金繰り改善がメインテーマとなるのです。資金繰り上の問題を先送りにして売上アップに奔走するよりも、資金繰り改善に繋がる可能性は圧倒的に高いといえます。

資金繰り改善にフォーカスすると、どのような点がどのように改善されるか、以下で具体的に見ていきましょう。

売上原価を正確に把握できる

商売の基本は、原価を上回る価格で売って利益を得ることです。誰しも、会社を立ち上げる前にはこの点を入念に検討し、きちんと利益が出て、資金繰りが回っていくことを確認したうえで事業を始めます。

しかし、市場は変化するものです。事業開始時点と現在では異なるのが当然であり、当初の計算は通用しなくなっている可能性があります。
資金繰りにフォーカスすると、売上原価を再度正確に把握する機会がえられます。これによって、資金繰り改善が大きく前進します。

特に、原価・売値・販売数が変わっていないにも関わらず利益が下がり、資金繰りが苦しいと感じている場合には要注意です。
なぜこのようなことが起こるかといえば、間接的に生じる費用の上昇を見落としているためです。

例えば、原油価格が上昇したことで材料費が10円上がった場合、「材料費10円くらいなら対して影響はないだろう」と考えて売値を据え置いたり、わずかな値上げに止めたりする経営者は多いです。
しかし、製造に直接関係のない部分でも、原油価格上昇の影響を受けます。ガソリン代上昇に伴う輸送費の上昇、電気代上昇に伴う光熱費の上昇、コストの上昇を受けた仕入先の値上げなど、色々な影響を受けていると考えるべきです。
この例でも、売上原価の上昇は10円を大きく上回るはずです。この点を見落としていると、利益はどんどん目減りしていき、資金繰りも苦しくなっていきます。

資金繰りにフォーカスすれば、原価率が高い製品の製造を減らし、原価率が低い製品の製造に集中することができます。原価率が低い商品に資金や労働力を集中すれば、コストを大幅に削減し、資金繰りをラクにすることができます。

与信管理が適切になる

与信管理が資金繰り与える影響は重大です。
取引先の経営が悪化して売掛金の回収が遅れたり、倒産して不良債権化してしまったりした場合には、資金繰りが苦しくなります。
取引額の大きい取引先が倒産すれば、資金繰りショートの可能性が一気に高まります。

売上にフォーカスしていると、与信管理がおろそかになりがちです。

売上を伸ばすには、生産量や商品の種類を増やし、あるいは事業を多角化し、取引先を増やしていく必要があります。
ほとんどの業種では信用取引(掛け売り)が普通であり、売上が上がるにつれて売掛金が増加していきます。回収済みの売掛金(=現金)と未回収の売掛金は、どちらも流動資産に計上されるため、売掛金が増加すれば、会計上は黒字が拡大していきます。
確かに儲かっていることは事実なのですが、不良債権化のリスクも高まっています。しかし、経営者はリスクを正確に捉えることができず、儲かっていることだけに注目し、さらなる売上アップへと突き進んでいきます。

そのうち「支払いを1ヶ月待ってほしい」「分割で支払いたい」などと申し入れてくる取引先が出てきても、経営者は儲かっている意識が強く余裕があるため、このような申し入れを受け入れてしまいます。
本当であれば、この取引先は経営不振に陥っている可能性が高いため、取引を縮小したり、取引条件を変更したり、何らの対処をしておくべきです。

与信管理がずさんになった原因は、会計上は大幅な黒字になっていることから、経営者の判断が狂ったためです。
与信管理が狂うと、未回収の売掛金が増加していきます。入ってくる現金は減りますが、売上アップに突き進んだ結果、出ていくお金は増えているのですから、資金繰りが苦しくなって当然です。

資金繰りにフォーカスすれば与信管理が厳格になり、不良債権リスクが低くなります。
支払いが怪しい会社と新規取引をすることはなく、既存の取引先に対しても与信限度額や取引条件の工夫によってリスクの低減に努め、資金繰り悪化の要因を取り除くことができます。
さらに、できるだけ早く回収することを意識して取引すれば、それだけ資金繰りはラクになっていきます。

在庫管理が適切になる

売上重視から資金繰り重視に変わると、在庫管理も適切になり、資金繰り改善に繋がります。
具体的に変わる点には、

・過剰在庫の是正
・在庫回転期間の短縮

が挙げられます。

過剰在庫の是正

売上アップに集中すると、必要な在庫を多めに見積もって仕入れ、過剰な在庫を抱えてしまう傾向があります。
必要以上に仕入れているのですから、仕入先への支払いは大きくなります。多く仕入れたものがスムーズに売れ、現金になればいいのですが、売れない状態で在庫として保管されているだけです。これは、現金が在庫として拘束されていることにほかならず、資金繰りを悪化させる原因となります。

資金繰り改善にフォーカスすれば、過剰在庫の発生を防ぐことを重視しつつ仕入れの調整が可能です。過剰在庫を抱えているよりも、資金繰りはずっとラクになります。

在庫回転期間の短縮

上記でも触れたように、「在庫を抱えていること」は「現金が在庫の形で拘束されていること」と変わりません。しかし、帳簿の上では在庫も現金も流動資産であり、まとめて計上されるため、資金繰りへの負担を見落としがちです。

資金繰りの上では現金として保有している期間が長く、在庫として保有している期間が短いほうが好ましいです。つまり、在庫の回転期間を短縮する、言い換えれば「在庫をスピーディにお金に変える」ことが大切です。

在庫が過剰気味になってきた、在庫回転期間が長期化してきたなどの場合には、多少値引きしても在庫を一掃すべきかどうか、よく検討してみるべきでしょう。
売上重視の視点では、値引きを躊躇してしまうことが多いです。しかし、必要に応じて値引きし、在庫を一掃し、在庫回転期間の短縮に努めることによって、資金繰りにプラスになることが少なくありません。

売れ残った在庫は、時間と共に価値が低下していきます。当初1000円で売る予定であった在庫も、売れ残った今では500円の価値しかないかもしれません。そのような在庫は、潔く5割引にして一掃してしまうのです。
そうしなければ、売れ残った在庫に1000円の価値があるという認識をいつまでも持ち続け、会社の資産を正確に把握できなくなり、資金繰りもうまくいかなくなります。

資金繰りにフォーカスしていれば、必要に応じて在庫の一掃を図ることができます。在庫回転期間を短縮されれば、資金繰りはラクになります。

まとめ

売上アップに突き進んでいると、資金繰り悪化の原因を複数抱えることとなり、黒字倒産の危険も高まります。資金繰り改善にフォーカスすることによって、資金繰り悪化につながる原因を取り除いてくことができ、資金繰りが確実にラクになっていきます。

現在、資金繰りが苦しく手元資金が乏しい会社では、まず月商1ヶ月分の現金の確保を目指してください。資金繰り改善に注力すれば、月商1ヶ月分の確保は十分に可能です。

もちろん、資金繰り改善をスピーディに進めたい、平均して月商3ヶ月分の現金を確保できる財務体質を作りたいといった場合には、うまくいかないことも増えてくるでしょう。その際には、資金繰りのプロにコンサルティングを依頼することをおすすめします。