中小企業でも活用できる少人数私募債
最もよく利用される資金調達方法のひとつに、融資があります。融資では、銀行や政府系金融機関、ノンバンクなどから借り入れるのが一般的です。
しかし、借入れによって資金を調達する方法は、融資だけではありません。例えば、社債があります。自社で発行した社債を引き受けてもらうことによって、資金の調達が可能です。
銀行融資も社債発行も、どちらも資金を借り入れる点では同じです。返済にあたっては、元金に利息を上乗せする点でも共通しています。
大きな違いを挙げるならば、銀行融資は間接金融であり、社債は直接金融であることです。
銀行融資で借り入れる資金は、元々銀行が預金者や日本銀行から調達したものです。銀行が直接資金を出しているわけではなく、会社は預金者や日本銀行などの資金を、銀行を通して間接的に借り入れているのです。つまり、間接的に借り入れる「間接融資」にあたります。
社債は、自社が発行した債券を機関投資家や個人投資家などに引き受けてもらいます。機関投資家や個人投資家などから直接資金を調達するため、直接金融にあたります。
社債と聞くと、大企業だけが使えるイメージを持つ人が多いです。実際、ソフトバンクグループなどでは社債を頻繁に発行しています。
しかし、社債は中小企業でも利用可能です。特に、証券会社や銀行などの機関投資家を対象とせず、縁故者のみを引受人とする少人数私募債は、利用の条件がかなりシンプルであるため、中小企業でも活用しやすい資金調達方法です。
少人数私募債の条件
少人数私募債の条件を簡単に見ていきましょう。
・少人数私募債は縁故者を中心に社債を引き受けてもらう制度です。親族や友人、従業員、取引先などが社債権者(引受人)となります。
・勧誘できる社債権者は50人未満の制限があり、50人以上には勧誘してもいけません。このため、社債権者は最大でも49人になります。
・社債の発行総額は、「発行総額÷社債の額面金額<50」になるよう設定しなければなりません。例えば、社債の額面金額が10万円であれば、発行総額は500万円未満でなければならないということです。
・最終的な発行総額は、実際の応募額によって決定されます。例えば、額面を10万円として49人の縁故者を勧誘した場合、期待できる調達額は最大490万円です。しかし、このうち10人しか社債を引き受けなければ、最終的な発行総額は100万円にとどまります。
以上の条件を満たすことができれば、中小企業でも少人数私募債による資金調達が可能です。
銀行や信用保証協会の保証付私募債
会社によっては、十分な資金を調達できるだけの縁故者を集められないこともあります。そのような会社では、社債に銀行や信用保証協会の保証をつけた「保証付私募債」で募集することで縁故者に安心感を与え、募集を容易にすることができます。
ただし、保証付私募債を発行する場合には、銀行や信用保証協会の審査を受ける必要があり、無保証で少人数私募債を発行するよりも細かい条件が課せられます。
例えば、ある銀行の保証付私募債では、自己資本比率、純資産倍率、使用総資本事業利益率、インタレスト・カバレッジ・レシオなどが一定水準を上回る会社のみ、保証に応じています。
少人数私募債のメリット
少人数私募債で資金調達するメリットは複数挙げられます。代表的なメリットを見ていきましょう。
資金繰りを計画しやすい
少人数私募債は、償還期間や償還方法を自由に決めることができます。一般的には、
償還期間:運転資金ならば2~3年、設備資金ならば3~5年で償還
償還方法:満期一括償還
とします。
満期一括償還にしておけば、銀行融資のように元金を毎月返済する必要がなく、償還日までは利息のみを支払います。
例えば、500万円を金利3%・償還期間5年で調達したならば、年間15万円の利息を支払い続け、5年後に元金500万円を一括で返済します。
もし、償還日を迎えた時点で元金の一括償還が不可能であれば、再び少人数私募債を発行して500万円を調達し、償還に充てることもできます。
毎年固定金利で利息だけを支払えばよいため、資金繰りの計画も立てやすいです。これは、少人数私募債のメリットの中でも、特に大きなメリットです。
金利を抑えられる
少人数私募債には、金利を抑えられるメリットもあります。
融資の際に設定される金利は、銀行融資ならば高くても3%台の金利であり、1%台やそれ以下での借入れも可能です。しかし、銀行融資を断られてノンバンクから融資を受ける場合には、15~20%の高い金利で借りなければなりません。
少人数私募債は、金利を自由に設定できます。唯一の条件は、社債の引受人が納得できる金利であることです。
会社の経営状況がそれほど悪くなく、きちんと償還できる可能性が高ければ、銀行よりも低い金利で借りることも可能です。リスクさえ低ければ、例えば金利を1%に設定したとき、社債の引受人は「定期預金よりはいい」「国債よりは高利回りだ」などと考えて社債を引き受けます(定期預金も国債も利回りは良くて0.1%程度)。
経営が厳しい会社でも、経営計画を示して償還能力があることを理解してもらえば、金利を高めに設定することで引受人を募りやすくなるでしょう。例えば、金利を5%に設定すれば、毎年安定的に5%の利息を得られることを魅力に感じる人は多いです。もちろん、ノンバンクで借りるよりもはるかに安い金利で資金調達できます。
従業員の意識向上につながる
少人数私募債の引受人は、親族や友人だけではそれほど多く集まらないため、従業員なども対象とすることが多いです。
可能であれば、事業に直接関係のない親族や友人ではなく、事業に直接関係のある従業員を中心に引き受けてもらうべきです。
従業員を勧誘する場合、社債を引き受けた従業員は経営への参画意識が高まります。会社の現状や今後の経営計画などにも関心を抱くようになり、協力的になることも期待できます。
会社のイメージアップにつながる
少人数私募債を取引先に引き受けてもらう場合には注意が必要です。自社の経営状況が悪ければ、それを知った取引先が取引縮小に動く可能性があります。
しかし、自社の経営状況が特に悪いわけではなく、「資金調達の多様化のため」「金利を抑えるため」などの目的をもって少人数私募債を発行するならば、取引先の勧誘も検討して良いでしょう。
その場合、引き受けに応じた取引先は、自社の経営が安定していることがわかり、イメージアップにつながります。社債権者となった取引先と自社が、より良い関係を築いていくきっかけになるでしょう。
さらに、少人数私募債の発行は銀行や、社債に無関係な他社からも評価される傾向があります。なぜならば、
・融資だけではなく多様な方法で資金を調達しており、手元資金が潤沢である
・多数の従業員が社債を引き受けており、従業員の意識が高く、組織としての結束力も強いことがうかがえる
・取引先も社債を引き受けており、取引先から信頼されていることがうかがえる
といったことは、全て会社の強み・安定性につながるからです。これが、今後の取引や銀行融資でプラスに影響することがあります。
まとめ
本稿では、中小企業の資金調達にも使いやすい少人数私募債について解説しました。多くのメリットがあるため、活用してみたいと思った人も多いことでしょう。
少人数私募債では、資金の出し手が縁故者であることをしっかりと認識しておくことが重要です。償還できなくなってしまえば、身近な人に迷惑をかけることになります。
また、償還に問題がなかったとしても、なまじ縁故者であるだけに、経営に何らかの口出しをされたり、縁故者の感情に必要以上に気を配ったりすることによって、経営判断に悪影響が出ることもあります。
銀行から融資を受けられる会社では、強いて少人数私募債を利用する必要はないでしょう。少人数私募債を活用したい会社は、まずはコンサルタントなどの専門家に相談し、少人数私募債という選択がベストかどうか、ベストであればどのように進めるかなど、アドバイスを受けることをおすすめします。