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ABL(動産・債権担保融資)とは?新たな資金調達方法を理解する

ABL(動産・債権担保融資)とは?

数ある資金調達方法の中でも、比較的新しい方法にABLがあります。ABLとは「Asset Based Leading」の略称で、動産・債権担保融資ともいいます。

その名の通り、ABLは動産や債権などの流動資産を担保に融資を受けるものです。

日本ではまだまだ新しいABL

世界的に見ればABLの歴史は古く、19世紀末のアメリカではABLの原型ともいえる、流動資産に対する担保制度が存在していました。

1990年代以降、大手商業銀行が本格的にABLに進出したことで、ABLの普及が飛躍的に拡大しました。2007年には、ABLによる融資残高が50兆円を突破しています。

これに対し、日本での普及はかなり遅れています。経産省がABLの推進を始めたのは2003年であり、ごく最近のことです。担保といえば不動産の活用が当たり前であった日本では、今に至るまでABLの普及はあまり進んでいません。

導入がごく最近であることや、いまだに普及率が低いことを考えると、日本においてABLはまだまだ新しい資金調達といってよいでしょう

今こそABLを理解すべき理由

しかし、今後、ABLの普及が広がっていくことは十分に考えられます。

普及スピードはいまひとつであり、融資の規模も小さいとはいえ、ABLを取り扱う銀行は着実に増加しています。金融庁の2009年のデータ(これが最新データ)によれば、全てのメガバンクと97%の地方銀行でABLの実績があると回答しています。

また、今後の日本では不動産を担保とした融資が徐々に難しくなっていくとも言われています。

かつて日本には、不動産価格が上昇を続けていた時代がありました。担保にした不動産の価値は増大を続け、融資額も拡大したため、不動産は資金調達の際に非常に使いやすい資産といえました。不動産担保によって資金調達が支えられていた時代の名残で、今も「担保≒不動産」といったイメージが根強く残っています。

この「土地本位制」はバブル崩壊によって機能しなくなりました。さらに、日本の人口は減少を続けており、不動産の担保価値は長期的な下落傾向にあります。不動産担保に過度に依存していた融資のあり方は変化を迫られているのです。

したがって、今後、ABLの普及が進んでいき、担保の選択肢も広がっていく可能性が高いです。

ABLであれば、売掛債権だけではなく、棚卸資産を始めとする様々な動産が担保の対象となります。今までABLと無縁であった会社も、ABLの仕組みや活用方法を知り、資金調達の多様化に役立てていくべきでしょう。

ABLの特徴とメリット

ABLの特徴は、担保にできる資産の対象が広いことです。この特徴により、資金調達の幅を大きく広げることができます。

ABLで担保にできる資産

ABLで担保に使える資産は、主に売掛債権、有価証券、在庫、機械などです。

一般的な不動産担保融資とABLの大きな違いは、

・不動産担保融資→不動産の売却価値=担保価値とみなし、その価値の範囲内で融資する

・ABL→担保資産によって生み出されるキャッシュフローを裏付けとして融資する

ということです。

例えば、10万円で売っている商品の在庫が100個あるならば、それを全て売却した場合に1,000万円の現金が入ってきます。しかし、100個の在庫に1,000万円の担保価値があり、ABLによって1,000万円の融資が受けられるわけではありません。100個の在庫を全て希望価格で売ることができ、無事に1,000万円のキャッシュフローが生まれるとは限らないからです。

また、何らかの事情(在庫の劣化や流行の移り変わりなど)によって価値が目減りすることも考えられます。したがって、ABLでは担保価値を低く見積もって融資する必要があります。ABLの担保資産の価値を考える際には、この点をしっかり理解しておくことがポイントです。

ABLが非常に普及しているアメリカの情報を参考にすると、ABLに利用する資産別の担保掛目の中間値は以下のようになっています。

資産 担保掛目中間値(%)
実行ベース 上限
有価証券 90% 90%
売掛債権 85% 85%
在庫 25~50% 30~60%
機械 70% 80%
不動産 55% 70%

資産によって担保価値の優劣がありますが、多くの資産が不動産に劣らない担保価値を持っていることが分かります。

在庫の査定は厳しい傾向がありますが、売れるまではただ保有しているだけの在庫を50%程度の掛目で担保に活用できるならば大きなメリットがあるといえるでしょう。

もっとも、日本ではABLの普及が進んでおらず、主に不動産を担保とみなしてきた歴史があるため、不動産以外の担保掛目を低く見積もる傾向があります。

今後の普及状況次第では、ABL先進国の水準に近づくことも十分に考えられます。

ABLで資金調達の幅が広がる

上記で、不動産を担保にした融資が徐々に困難になっていくと述べましたが、現時点では不動産に勝る担保はありません。不動産は担保評価が比較的容易であり、経年による担保価値の低下も起こりにくいため、担保に適した性格を持っています。

これに対して、流動資産を担保にすることは容易ではありません。中でも、棚卸資産の種類は様々であり、適切な担保評価が困難です。業種によって食品、衣類、日用品、自動車、電化製品など、在庫の種類は多岐にわたります。物によっては劣化しやすい性質があり、担保に適さないことも少なくありません。

とはいえ、不動産以外の資産も担保にできるならば、資金調達はずっとラクになります。

日本企業全体が保有する資産の比率は、大まかには「売掛金:棚卸資産:不動産≒3:2:3」となっています。流動資産と固定資産で比較するならば「流動資産:固定資産≒5:3」ということです。

土地や不動産などの固定資産を担保として活用するだけではなく、売掛金や棚卸資産などの流動資産も担保にできるならば、企業の調達余力は大きく高まることが分かります。

担保資産を活用しつつ事業を継続できる

ABLで棚卸資産を担保にしたとき、事業にどのような影響があるか気になる人も多いことと思います。棚卸資産の活用によってキャッシュフローが生まれるのですから、担保権を設定することで何らかの制限がかかると、事業に支障をきたすことも考えられます。

しかし、この点は全く問題ありません。ABLで担保にした資産の扱いには一定のルールが課せられますが、事業に支障をきたす可能性は低いからです。

棚卸資産を担保にしても、原料を使って製造を行ったり、商品を販売したりすることが可能です。ここに大きな制限をかけてしまうとキャッシュフローは生れなくなり、担保価値も損なわれてしまうため、事業に悪影響のない仕組みになっているのが当然です。

担保にした棚卸資産を事業に活用しても、恒常的に担保を押さえておくことは可能です。100の在庫を担保する場合、事業を継続する以上はこの在庫が0になることはないからです。継続的な製造のためには常に100以上の原料を在庫として保有しているでしょうし、継続的な販売のためには常に100以上の商品を在庫として保有しているものです。

担保として必要なだけの棚卸資産を常に確保できるため、融資先が在庫を事業に活用したところで銀行が不利益を被ることはありません。これもABLの特徴であり、メリットであるといえるでしょう。

債務者区分が悪化したときの手段に

具体的な活用に触れると、ABLは債務者区分が悪化しつつある会社が融資を引き出す際に役立ちます。

債務者区分は銀行融資の判断を大きく左右する要素であり、基本的には債務者区分が正常先の会社でなければ融資を受けることが難しいです。しかし正常先であっても、銀行格付けが低下して「正常先の下位」とみなされていれば、無担保のプロパー融資が受けられなくなる可能性が高いです。

また、正常先のひとつ下の区分である要注意先であっても、担保さえあれば融資を受けられることがしばしばあります。

債務者区分が「正常先の下位」や「要注意先の上位」の会社は、ABLの活用によって融資を引き出せる可能性が高いのです。実際に、銀行はこのような取引先に対してABLを行うケースが非常に多いです。

ABLがおすすめの業種・おすすめではない業種

以上の特徴やメリットを踏まえて、ABLがおすすめの業種・おすすめではない業種を見ていきましょう。

ABLがおすすめの業種

ABLがおすすめなのは、動産を多く保有している業種です。例えば、

・製造業(製造のための機械や製造品を多く保有している)

・卸売業や小売業(商品在庫などの棚卸資産を多く保有している)

などです。

実際に、ABLの融資実績を業種別に見ても、製造業、小売業、卸売業の3業種で過半数を占めています。

もちろん、ABLで担保にできる資産は多岐にわたるため、その他の業種でも利用可能です。事業に使う設備を担保に融資を受けることも考えられます。例えば、

・運輸業(運送用のトラックを担保にする)

・建設業(建設機械や重機を担保にする)

などです。

ABLをおすすめできない業種

逆に、ABLをおすすめできないのは、管理が難しい動産の保有が多い業種です。

分かりやすい例は畜産業です。

畜産業では、牛や豚などが棚卸資産となります。確かに資産価値はあるのですが、銀行が牛や豚を担保にとることは現実的に困難です。牛や豚の資産価値を査定することは難しく、担保管理も難しいためです。

狂牛病や豚インフルエンザなど、担保価値がほとんどなくなってしまう病害に見舞われるリスクもあります。

また、いざ貸し倒れに至った場合、担保の処分にも苦労するはずです。不動産ならば競売にかけて売ればよく、担保の処分は比較的容易です。しかし、牛や豚を処分・換金して債権回収に充てることは容易ではありません。

つまり、このような資産は担保として非常に扱いにくいのです。担保評価と担保管理が難しく、そのうえ回収も手間がかかるとなれば、銀行もそのような資産を担保にはしたくありません。無担保で融資したほうがよほど簡単です。

したがって銀行は、資産によっては「ABLで貸すくらいならば無担保で貸したほうが良い、無担保で貸せないならABLでも貸さない」と考えます。そのような資産を多く抱える業種は、ABLには不向きです。

まとめ

本稿では、日本ではまだまだ新しい資金調達方法であるABLを解説しました。ABLの基本的な仕組みや活用方法などが理解できたことと思います。

資金調達方法には色々なものがありますが、できるだけ多くの方法を知っておくことが大切です。必要なタイミングで、必要な資金を調達するためには、資金調達の選択肢が多いに越したことはないのです。

今後、ABLは普及していくと考えられています。これまでABLとは無縁であった会社も、折に触れて活用を検討してみてください。興味はあるものの不安が大きい方は、まずは資金調達のプロに相談してみることをおすすめします。