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今まで融資してくれていたのに・・・理由は債務者区分にあった!

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銀行融資を受けられない本当の理由とは?

これまで融資を受けられていた銀行が急に融資してくれなくなった、という経験をお持ちの経営者は少なくありません。しかし、その理由がどこにあるかを理解している経営者はあまりいないものです。もちろん、

 

・借入希望額が大きかったから?

・すでにたくさん借りていたから?

・担保/保証がなかったから?

・業績が落ちたから?

 

といった程度には理解しているのですが、もっと重大な原因を見落としていることがほとんどです。

融資を受けられなくなった最大の原因は「債務者区分」にあります。

経営者であれば、「債務者区分」という言葉を耳にしたことがあるはずです。ただ、それがなんであるかを理解している人は少ないものです。

銀行融資を考えていくうえでは、債務者区分の重要性を知っておくことが欠かせません。

 

債務者区分とは?

債務者区分とは、金融庁が作成した「金融検査マニュアル」をもとに、銀行が融資先を評価し、経営内容に応じて区分したものです。金融庁のマニュアルがもとになっているため、銀行によって債務者区分が変わることはありません。

金融検査マニュアルでは、以下のように6段階の債務者区分が設定されています。

 

債務者区分 内容
正常先 業績・財務ともに安定しており、特に問題がない融資先。
要注意先 今後貸し倒れリスクの高まりが懸念され、注意を要する融資先。

 

Ex.
・業績が落ち込んでいる融資先
・軽微な延滞が起きている融資先

・わずかな債務超過状態にある融資先

要管理先 要注意先のうち、以下の融資先。

Ex.
・元本または利息を3ヶ月以上延滞している融資先
・リスケジュールが決定した融資先

破綻懸念先 現時点では経営破綻に陥っていないものの、深刻な経営難の状態にあり、今後破綻が懸念される融資先。

Ex.

・長期にわたって延滞している融資先
・大幅な債務超過に陥っている融資先
・赤字かつ債務超過の融資先

実質破綻先 破産や民事再生などによる法的な経営破綻には至らないものの、実質的に経営が破綻している融資先。
(破産、清算、取引停止処分などには至っていないが、資金繰りが極端に悪化しており、実質的に債務の履行が不可能であり、経営の継続も不可能な状況) 

Ex.

・ファクタリングや手形割引などによる短期の資金繰りも困難な融資先

破綻先 法的に経営破綻している融資先。
(破産、清算、取引停止処分などの事実が発生している状況)

 

この債務者区分が、資金調達にも大きな影響をもたらします。銀行融資が可能かどうかだけではなく、融資条件にも響いてくるのです。

 

債務者区分による融資の可否

債務者区分は、融資の際に非常に厳しく見られます。基本的には、融資が受けられるのは正常先までなのです。

地方銀行や信用金庫・信用組合であれば、要注意先まで融資を検討することもあります。とはいえ、業績の落ち込みが軽微であるなど、信用をあまり損なわないケースに限られます。

要管理先以下になれば、融資を受けることはまず不可能です。こればかりは、融資コンサルなどの専門家に協力を仰いでもどうにもなりません。

債務者区分は定期的に見直しが行われます。したがって、要管理先以下に陥っている会社では債務者区分の改善を目指していく、そのためにコンサルに依頼するという方針が現実的です。

銀行融資を受けられずに困っている会社が、まず自社の債務者区分を考えるべき理由はここにあるのです。

 

正常先以外貸せない理由

では、なぜ正常先しか融資できないのでしょうか。厳しすぎると感じるかもしれませんが、これには抜き差しならない理由があるのです。

銀行は、金融庁の管理を受けています。銀行が極端な営利目的に奔ったり、不正融資を行ったり、反社会的勢力に融資したりすれば大きな問題になるからです。

銀行の方針が営利目的に傾いた場合で考えてみましょう。銀行のメインとなる収益源は、融資による金利収入です。そのため、利益を高めるにはできるだけ多くの融資を行う必要があります。

営利目的に奔るあまり、銀行は少々危ない会社にも融資を行うことがあります。特に、好景気で経済全体のお金の巡りが良い時期には、財務的に不安がある会社でも資金繰りが回りやすく、返済にも問題ないだろうと考えて融資の判断が甘くなりがちです。

この後、不景気に突入すれば、財務基盤が弱い融資先が債務不履行に陥り、銀行は多額の不良債権を抱え込む可能性が高いです。同様の事態が多数の銀行で起これば、深刻な社会問題を引き起こすことになります。

実際、バブル期にこのような甘い融資が行われた結果、バブル崩壊後に大きな問題になりました。金融庁の金融検査マニュアルが作られたのもこの時期です。

つまり、債務者区分には、銀行が融資先をしっかりと評価し、審査と与信管理を慎重に行うことを促し、不良債権問題に備えるためのものなのです。

 

銀行が嫌う「貸倒引当金」

不良債権問題に備えるための具体策が「貸倒引当金」の存在です。貸倒引当金とは、融資先の貸し倒れに備えて積み立てておく資金のことです。

十分な引当金がプールされていれば、何らかの理由によって多数の貸し倒れが発生した場合にも銀行経営が行き詰ることはなく、経済全体への影響も軽微にとどめられるというわけです。

金融検査マニュアルでは、債務者区分に応じて貸倒引当金を積み立てることを銀行に義務付けています。債務者区分ごとの引当率は、

 

債務者区分 引当率
正常先 0.2~0.3%
要注意先 1~15%
要管理先
破綻懸念先 50~70%
実質破綻先 100%
破綻先 100%

 

です。要注意先と要管理先の引当率が曖昧ですが、制度的には要管理先は要注意先に含まれる区分であるため、引当率の幅も広くなっています。

 

貸倒引当金の影響

貸倒引当金の影響は、銀行にとって深刻です。融資に伴って引当金を積み立てておく必要があるため、引当率が高ければ引当金として拘束される資金も多くなり、収益の低下につながるからです。

具体的に見てみましょう。

融資額1,000万円、返済期間1年間、金利2%の場合を例とすると、債務者区分ごとに以下のような差が生じます。

 

債務者区分 引当率 融資額 貸倒引当金 融資に要する総額 金利収入 利益率
正常先 0.25% 10,000,000 25000 10,025,000 200000 2.00%
要注意先 8% 10,000,000 800,000 10,800,000 200,000 1.85%
要管理先
破綻懸念先 60% 10,000,000 6000000 16,000,000 200000 1.25%
実質破綻先 100% 10,000,000 10000000 20,000,000 200000 1.00%
破綻先 100% 10,000,000 10000000 20,000,000 200000 1.00%

 

ざっくりとした計算ですが、債務者区分が下がるにつれて利益率が下がることが分かるでしょう。破綻懸念先以下になると、利益率は1.00~1.25%まで低下します。

さらに、破綻懸念先に融資した場合には貸し倒れに陥る可能性が極めて高く、1.00~1.25%の金利収入さえ得られない可能性が高いです。

銀行の主な収益が金利収入である以上、貸出に回せる資金はできるだけ多いほうがよく、引当金として拘束されることを嫌います。

もし、実質破綻先に融資せず、引当金相当の1,000万円を正常先に融資すれば、低リスクでしっかりと金利を稼ぐことができます。

銀行が正常先のみ(場合によっては要注意先以上)に融資し、要管理先以下に融資しないのも当然といえます。

 

債務者区分を軸に考える

債務者区分と貸倒引当金の関係を理解すれば、債務者区分が融資に大きく影響することが分かるでしょう。

急に融資が受けられなくなった会社では、債務者区分を意識しなければなりません。融資してもらえない理由は色々あるでしょうが、「いくつかの理由によって、債務者区分が正常先ではなくなった」ことが最大の問題なのです。

確かに「業績が落ちたから」ともいえるのですが、それ以上に

 

「業績が悪くなり、債務者区分が低下して融資が難しい水準に達したから」

 

と考えるべきです。

単に「業績が落ちたから融資が受けられなくなった」と考えるだけでは、

 

・業績が落ちたことを銀行がどのように評価しているのか

・どの程度の業績回復が求められているのか

・業績悪化以外に懸念材料はないのか

 

といったことが分かりません。しかし、債務者区分を軸に考えるならば、

 

・自社の業績や財務の現状を考えて、債務者区分は要注意先に落ちたのだろう

・業績の低調を脱すれば、正常先に戻れる可能性がある

・ただし、財務が新たな悪材料にならないよう、債務超過は何としても避ける必要がある

・債務総額をできるだけ増やさないために、一部の現金はファクタリングによって調達しよう

 

といった考え方ができるのです。

このように考えて取り組めるならば、再び融資を受けられる日もそう遠くはないでしょう。

 

まとめ

本稿では、知っているようで知らない「債務者区分」の知識を解説しました。

債務者区分や銀行格付けというものは、確かに融資を左右する要素であるものの、知識として知る機会はなかなかありません。銀行員に聞いても、具体的な評価方法を教えてくれないのはもちろんのこと、ごく表面的なことしか話さないのが普通です。

逆に言えば、これをきちんと知っておけば資金調達の際に強みとなります。債務者区分が正常な会社(=資金調達に困らない会社)になるよう、的確に努力できるからです。

ぜひ、債務者区分の知識を活用してほしいと思います。