企業の資金調達方法のひとつに、IPOがあります。IPOは、「上場」「株式公開」などとも言われる通り、非上場企業から上場企業になることで株式市場から資金を調達する方法です。IPOには多くのメリットがある一方で、非常にハードルが高い資金調達方法でもあります。本稿では、IPOのメリット・デメリットや流れなど、基礎知識を解説します。
IPOとは?
株式投資の経験がある人にとって、IPOは身近な言葉でしょう。IPOとは「Initial Public Offering」の略であり、直訳すれば「最初に公開される売り物」という意味です。
株式市場に上場していない非上場企業の株式は、投資家が自由に売買できません。株式の所有者は経営者やその縁故者、一部の出資者などに限られ、そのコミュニティの内部でのみ流通しています。
非上場企業が株式市場に上場すると、株式は非公開株式から公開株式へと変わります。上場の際には、新規に発行した株式や、上場前の自社の保有株式が売りに出されます。このように、上場に際して株式を売り出し、資金を調達することをIPOと呼ばれます。
IPOは、成長を目指す企業が、多額の資金を効率よく調達するための有効な手段です。。上場を見据えていない中小企業には無縁ですが、いずれは上場を目指しているベンチャー企業などは知っておくべき資金調達方法でしょう。。
IPOでの資金調達をするメリット・デメリットとは?
IPOは投資家から資金を集める方法であり、出資に属するものです。返済義務のない資金を調達する、銀行融資などとは大きく異なります。
それだけに、IPOには特有のメリット・デメリットがあることを知っておくべきです。
IPOによる資金調達の3つのメリット
IPOで資金調達するメリットは、主に次の3つを挙げることができます。
メリット1:高額な資金調達が可能
一つ目のメリットは、多額の資金を調達できることです。
株式が非公開の段階で出資を募る場合、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が出資者となるため、出資者を見つけることが難しく、出資額も出資者の資金力に依存します。これに対し、IPOは市場全体に株式を公開するため、幅広い投資家から出資を募ることができます。
株式投資の中でも新規公開株を狙い撃ちするIPO投資は高い人気を誇るため、出資者が見つからないということは、ほぼあり得ません。加えて、調達可能額も大きくなります。
さらに、IPOの延長としても、次のように資金調達が容易になります。
- 新株発行による増資が可能となる
- 新株予約権や新株予約権付社債などを発行できる
- 上場基準のクリアによって信用が高まり、銀行融資が容易になる
このように、上場前に比べて資金調達の選択肢が広がり、大規模な資金調達も容易となります。。
メリット2:知名度が上がる
上場することによって、知名度も格段に向上します。IPOによって認知度が向上することは研究でも明らかになっており、知名度向上はIPOを行う大きな目的でもあります。
非上場企業でも知名度が高い会社はありますが、上場企業の方が知名度は上がりやすいのは確かです。知名度が上がることによって顧客の安心感につながり、業績にも好影響が期待できます。
メリット3:人材不足を解消できる
知名度が向上することによる効果は色々ありますが、人材不足を解消できることは非常に大きなメリットです。
近年、人材不足が深刻な問題となっていて、政府が「働き方改革」に力を入れたり、外国人労働者の受け入れに取り組んだりしているのも、人材不足を解消するためです。
IPOによって上場すれば、優秀な人材の確保が容易になります。
働き方が多様化した現代でも、求職者にとっては上場企業で働けることは大変魅力的です。優秀な若者の多くが上場企業で働くことを望んでいるため、上場前に比べて人材確保ははるかに容易になるでしょう。
「ヒト・モノ・カネ」の三大経営資源のうち、ヒトの重要性が高まっています。カネは調達すればよく、モノの充実もそれほど困難ではありませんが、ヒトの絶対数は限られています。限られたヒトという資源を積極的に獲得していくためにも、IPOは非常に有効な手段といえるでしょう。
IPOによる資金調達のデメリット
いいことだらけに見えますが、IPOにもデメリットはあります。
デメリット1:資金調達に時間がかかる
一つ目のデメリットは、資金調達に時間がかかることです。
IPOを完了するためには、適切な流れに沿って、多くの要件を満たさなければなりません。証券会社や監査法人との交渉、社内管理体制の強化・整備、業務改善、多くの書類の作成、上場審査などが必要となります。
自社が独力でIPOを進めるのは、ほぼ不可能です。IPOを専門とするコンサルタント、顧問弁護士などの専門家に依頼し、IPOのためのチームを組む必要があります。
IPOの監査期間は、上場期の直前々期から始まります。監査期間に備えて準備するために、直前前々期以前からIPOに取り組むのが一般的です。
トータルで考えると、専門家の協力を受けながら進めても、最低3年以上の期間を要します。ですからIPOは、スピーディな資金調達とは無縁となります。
デメリット2:管理コストが必要
IPOには、膨大なコストがかかることもデメリットです。上場までにも数千万円単位でコストがかかりますが、IPOを達成したからといって安心はできません。上場後に要する管理コストは膨大となります。
上場後は、上場を維持するために毎年数千万円の管理コストが発生します。これには、株主の管理費用、監査法人の監査費用、会計報告費用などが含まれます。
多くの中小企業にとって、このような管理コストを毎年支払い続けることは困難です。この管理コスト負担に耐えられなければ、IPOは不可能となります。
デメリット3:経営の自由度が損なわれる
非上場企業でも、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資を受けた場合、経営への干渉を受け経営の自由度が損なわれることがあります。IPOで株式を公開すると、このリスクはさらに高まります。
株式を公開すれば、不特定多数の投資家が株主となり、株主の意見を経営に反映しなければなりません。経営陣と株主の意思が一致すればよいですが、上手くいかないことも多いでしょう。
株主が経営陣の意思を尊重してくれるのは、経営が極めて上手くいっている場合に限られます。結果が不十分であれば必ず改善を求められ、株主の意思を尊重せざるを得なくなってきます。
また、上場後は買収のリスクも高まります。非上場企業であれば株の流通が限られるため、買い占めが起こる可能性は低いです。しかし、上場後は買い占めが起こる可能性が高まります。買収されることは、経営の自由度が完全に失われることを意味するので、警戒が必要となります。
IPO(上場)の流れ
数年がかりで取り組むIPOは、どのような流れで進めるのでしょうか。IPOに取り組む会社は、細部は専門家に任せて、大まかな流れを把握することが大切です。
次に、そのIPOの大まかな流れを紹介しましょう。
- 直前前々期以前:直前々期から始まる監査期間に備えて準備する(IPOの必要性を検討する、IPO計画を策定する、専門家の協力を取り付けてチームを編成するなど)
- 直前々期:監査期間が始まる
- 直前期:上場企業としての適性を審査される
- 申請期:上場を申請し、ヒアリング、実地調査、面談などを行う
- 上場期:上場が承認され、IPOを実施する
通常申請の場合
上記の流れのうち、IPOの大詰めとなる申請期の申請方法には、通常申請と予備申請があります。この時、社長自身の影響が高まるため、流れと内容を知っておくことが大切です。
通常申請の流れを紹介しますので、ご覧ください。
- 審査日程の通知
- 上場審査の申請(必要書類を上場審査部に提出)と質疑応答
- 提出書類に基づく書面審査
- 追加質問事項の提示と回答
- 提出書類に基づくヒアリング
- 申請会社の本社・店舗・工場などの実地調査、会計確認
- 公認会計士面談
- 監査役面談
- 社長面談
- 社長説明会
- 東証内決裁
特に、社長面談や社長説明会に注目してください。社長面談では、
- 社長が会社や業界についてどのようなビジョンを持っているか
- 上場後、株主にどのように対応していくか(IR活動の方針)
- 内部情報管理や適時開示に関する社内体制をしっかり認識しているか
などを聞かれます。また社長説明会では、社長自身が東証自主規制法人役員に対して、自社の特徴や経営方針、事業計画などを説明しなければなりません。
通常申請の流れをみれば、社長が上場審査の決め手になることがお分かり頂けるでしょう。IPOを専門家や社員に任せて、社長自身が積極的に関知していない場合、上場審査に通らなくなる可能性が高くなります。
予備申請の場合
IPOの申請には、予備申請という制度があります。これは、通常申請より予定を前倒しすることで、IPO申請時期を早期化する制度です。
予備申請制度を利用した場合、上場申請直前事業年度末の3ヶ月前に申請することができます。これにより、通常申請よりもやや早くIPO実施が可能です。
もっとも、早期化できるといっても数ヶ月であり、全体で数年を要することを考えるとメリットに欠けます。しかし、IPO申請時期の集中を避け、申請から上場までをスムーズに進めるためには予備申請が役立ちます。
その理由は、日本企業の多くが3月を決算期としているためです。3月決算に合わせて通常申請で進めた場合、同じく3月決算の会社とIPO時期が被り、想定以上に上場に時間がかかる可能性が高くなります。なので、これを緩和するために、予備審査を利用します。
予備申請は、申請時期が前倒しになるだけで申請の流れそのものは、通常申請と全く同じです。
まとめ
本稿では、IPOのメリット・デメリットや流れを解説しました。
成長を目指す会社にとって、IPOによる資金調達、またその後の資金調達の多様化には大きなメリットがあります。
しかし、長い期間と多額の資金を要するため、資金調達方法の中でもハードルの高さは突出しています。現実として、時間とコストをかけてIPOに取り組んだ会社のうち、上場に至る会社は1~2割程度に過ぎません。
IPOに取り組む会社は、確実に成功させるためにも専門家の支援が欠かせません。まずはコンサルタントに相談し、IPOの可能性を探ってみることが重要といえるでしょう。