資金調達サポート

個人事業主が新規事業や開業時に使うべき助成金や補助金

助成金・補助金は主に中小企業向けに設定されている制度ではあるものの、個人事業主が開業時や新規事業の際に利用できる助成金・補助金も少なくありません。本稿では、個人事業主が助成金・補助金を活用すべき理由、注意点、おすすめの助成金・補助金などを徹底解説します。

Contents
  1. そもそも助成金とは?補助金との違い
  • 個人事業主でも助成金や補助金の申請は可能?
  • 個人事業主が助成金や補助金を使うメリット・デメリット
  • 個人事業主が確実に知っておくべき補助金5選
  • 個人事業主におすすめの助成金8選
  • 個人事業主が助成金・補助金を申請する時のポイント
  • まとめ
  • そもそも助成金とは?補助金との違い

    近年、助成金や補助金に注目する経営者が増えています。色々な理由が考えられますが、

    などの影響が特に大きいでしょう。

    既に、助成金や補助金を利用している中小企業経営者も多いはずですが、個人事業主の活用はそれほど普及はしていません。実際、助成金・補助金は中小企業支援を軸に設定されています。

    大企業が利用できる助成金・補助金の種類は少なく、助成内容も中小企業に比べて手薄です。個人事業主の場合、助成内容は充実しているものの、種類の豊富さでは中小企業に劣ります。

    助成金の目的とは?

    助成金・補助金のうち、助成金をより身近に感じている人が多いと思います。では、助成金は何を目的とする制度なのでしょうか。

    助成金の最大の目的は、雇用対策による経済の安定です。雇用対策は、行政において非常に重要な意味を持っています。なぜならば、雇用がうまくいかなければ経済は成り立たないからです。そのため厚生労働省は助成金を支給することで、

    を促しているのです。
    雇用の安定を促すためには、職場環境や処遇の改善などが重要です。これらの取り組みによって労働者が安定して働けるようになり、延いては経済全体にメリットがあります。

    補助金の目的とは?助成金と補助金の違い

    補助金の目的は、助成金の目的と大きく異なります。すなわち、

    という違いです。「経済安定」と「経済成長」で方向性が大きく異なります。

    このような違いから、支給の仕組みも異なります。助成金は、できるだけ多くの事業主が取り組み、さらに多くの労働者に恩恵が行き渡り、日本全体で雇用の維持・安定を進めることが重要です。したがって、要件を満たした全ての事業主が助成金を受給できます。

    これに対し、補助金は政策への貢献度が高い事業主を優先的に支援し、そうでない事業主への支援は見送る必要があります。このため、あらかじめ予算を設定して公募を実施し、採択された事業主だけが受給できます。

    細かいことをいえば、他にも色々な違いがあります。しかし、ほとんどは助成金と補助金の目的の違いによって生まれるものですから、それぞれの目的を理解しておけばおのずと分かります。

    個人事業主でも助成金や補助金の申請は可能?

    特に助成金の場合、中小企業支援の色が濃いですが、個人事業主も助成金・補助金の申請が可能です。

    雇用保険に加入することで個人事業主でも申請が可能

    助成金申請できるのは、雇用保険に加入している事業主だけです。この条件を満たすことによって、個人事業主も助成金の利用が可能となります。

    そもそも、雇用保険制度とは労働者の生活や雇用の安定、就労の促進などを目的とする制度です。助成金の目的と密接な関係にあり、助成金制度は雇用保険料を財源として成り立っています。

    雇用保険に加入していない事業主は、助成金の財源となる雇用保険料を支払っていないのですから、助成金の申請も認められません。逆に、雇用保険料を支払っている事業主であれば、それを財源とする助成金の活用も認められるというわけです。

    つづいて、補助金の考え方はやや異なります。補助金の財源は法人税です。そのため、法人税を支払っていない個人事業主は利用できないと考える人も多く補助金は法人税を支払っている法人向けの制度が多いのも確かです。

    しかし、個人事業主でも利用できるものが少なくありません。法人税を支払わずに利用できるのですから、個人事業主が補助金を活用するメリットは非常に大きいといえるでしょう。

    助成金や補助金の申請は社労士に依頼しよう

    助成金・補助金の最大の問題は、申請の難しさにあります。コロナ禍の中、雇用調整助成金の特例措置が複数回実施されたのも、申請があまりにも複雑であり、申請のハードルが高すぎたためです。

    雇用調整助成金に限らず、助成金・補助金の申請手続きは基本的にかなり複雑です。満たすべき要件や提出書類が細かいため、手続きでのトラブルが頻繁に起こります。

    これは、行政側の配慮が不足しているのではなく、不正受給を防ぐために厳しく審査する必要があるからです。コロナ禍での特例措置などの特殊な事情がなければ今後も手続きが緩和されることはないでしょう。

    また、助成金・補助金はたびたび改正されます。制度の新設や統廃合も珍しくありません。これは時代に合わせて制度を運用する必要があるため、細かな改正が欠かせないのです。

    そのため、助成金・補助金の専門家である社労士でさえ制度を詳細に把握することは大変な負担とされます。本業を抱える個人事業主が、自力で制度を把握し、申請手続きを正確に進めることは不可能です。

    助成金・補助金を活用するなら社労士に依頼する、社労士に依頼しないなら助成金・補助金は諦める、と考えた方が良いでしょう。

    助成金や補助金は受給に時間がかかる

    詳しくは、助成金・補助金のデメリットとして解説しますが、助成金・補助金を受給するまでには多くの時間がかかります。というのも、助成金・補助金を受給するためには一定の取り組みが必要であり、その成果に応じて支給されるためです。

    これは、受給よりもコスト負担が先行するということです。もちろん、コストをかけながら取り組んでも、最終的に要件を満たせなければ受給はできません。コスト負担だけが残り、かえって資金繰りが悪化する可能性もあります。

    このような状況を踏まえた上で、やはり社労士の協力は欠かせないものとなります。無駄のない取り組みを実施し、スムーズに受給できるように手続きすることで、受給までの時間を短縮できます。

    個人事業主が助成金や補助金を使うメリット・デメリット

    助成金・補助金は、使い方次第で非常に役立つものです。このため、助成金・補助金のメリットから活用を促す意見も多いです。

    しかし、気を付けるべきは、それらの意見のなかにはデメリットを無視した意見も多いことです。個人事業主が助成金・補助金を利用するとき、たとえ同じ助成金・補助金でも、中小企業が利用した場合に比べてデメリットが大きくなることが少なくありません。

    個人事業主ゆえのメリット・デメリットをしっかり理解し、メリットが大きいと判断してから活用することが重要となります。

    個人事業主が助成金や補助金を使うメリット

    まず、3つのメリットを確認していきましょう。

    メリット1.返済義務がない

    助成金・補助金の最大のメリットは、返済義務がないことです。銀行からの借入金などは返済義務があるため、資金繰りを圧迫する要因にもなりますが、助成金・補助金にはその返済にたいしての負担がないのです。

    多くの個人事業主は、法人に比べて業容が小さく、売上を伸ばすことも容易ではありません。中小企業庁のデータによると、個人事業主の平均売上高は963万円、法人の平均売上高は7967万円です。約8倍もの差があります。

    つまり、支給額が同じ助成金・補助金を利用した場合、個人事業主は法人に比べて8倍のインパクトがあるということです。そのうえ返済義務がないのですから、個人事業主が助成金・補助金を活用すべき理由がよくわかると思います。

    返済義務がないため、受給した助成金・補助金は他人資本ではなく自己資本となります。自己資本が増えると、相対的に他人資本の割合が小さくなり、財務内容の改善につながります。これにより、銀行融資の審査に通りやすくなる効果も期待できます。

    メリット2.しがらみのない資金が得られる

    資金調達方法によっては、しがらみが生まれることがあります。

    分かりやすいのが、縁故者からお金を借りる場合です。個人事業主は法人に比べて資金調達のハードルが高いため、家族や親戚、友人・知人などからお金を借りる人も少なくありません。

    法人でも縁故者から資金調達することがありますが、経営者が個人的に借りるのではなく、少人数私募債を利用することも可能です(個人事業主は社債を発行できません)。

    当然ながら、縁故者から借りた資金にはしがらみがあります。きちんと返済できれば問題ありませんが、返済の予定を守れなかったり、返済不能になったりすれば、人間関係にキズが付くでしょう。人生は長いのです、短期間の資金繰りをカバーするために人間関係を犠牲にすることは避けたいものです。

    そこで、助成金・補助金が役立ちます。助成金・補助金は、事業主の取り組みの成果を評価して支給するものですから、しがらみが全くないのです。

    メリット3.継続的に受けられることもある

    助成金・補助金の中には、継続的に受給できるものもあります。例えば、

    といったものです。雇用関連助成金には、このような設計の制度がしばしばみられます。
    しっかり取り組むことによって、長期間にわたってボーナスが入ってくるようなものですから、売上の規模が小さい個人事業主には大きなメリットがあります。

    個人事業主が助成金や補助金を使うデメリット

    個人事業主が助成金・補助金を使う場合、以下のデメリットに注意してください。

    デメリット1.要件が厳しい

    まず、要件が厳しいことです。
    要件自体は個人事業主も法人も大差ないことが多いのですが、「個人事業主ゆえに法人より要件を満たすことが難しい」というケースがたびたびあります。分かりやすい例を挙げるならば、社労士とのマッチングに苦労することが多いです。

    法人であれば、普段から税理士や社労士と付き合いがあります。士業にも色々ですが、税理士と社労士は士業間の繋がりが密接です。これは、税理士兼社労士といったように、両方の資格を持つ専門家も多いためです。

    このため、法人は付き合いのある税理士や社労士に相談することで、助成金・補助金に強い社労士を紹介してもらうことができます。社労士の中でも、特に専門性の高い人の協力を受けることで、手厚いサポートを受けながら要件をクリアしていき、受給にこぎつけることも比較的容易です。

    個人事業主の中には、税理士や社労士に依頼することなく、税務処理や労務管理を自力でこなしている人も多いです。この場合、税理士や社労士との繋がりがないため、助成金・補助金のプロを紹介してもらうきっかけをなかなか掴めません。

    インターネットなどを経由して探すこともできますが、能力の低い社労士に依頼すればサポートが不十分となり、要件のクリアが厳しくなることも考えられます。

    デメリット2.受給まで時間がかかる

    このほか、助成金・補助金は受給に時間がかかることも知っておいてください。
    助成金も補助金も、受給後に取り組むものではありません。取り組みの後、内容に問題がないことを確認してから支給されるものです。このため、受給のための取り組みが先になり、コスト負担が先行します。

    活用する制度にもよりますが、受給までにある程度の時間がかかると考えてください。例えば助成金ならば、「新規雇用の後、数ヶ月間にわたって継続雇用すること」といった要件があります。この場合、数ヶ月の雇用実績があって、初めて申請が可能です。

    個人事業主は法人に比べて、財務基盤が脆弱です。また、資金繰りと生活が密接であるため、受給までのコスト負担により、生活に大きな打撃を受けることも考えられます。

    したがって、資金繰りや生活への影響を考えつつ、コスト負担を織り込みながら資金繰り計画を立てることが欠かせません。「資金不足のために取り組みの継続が困難になり、受給要件を満たせなかった」といったトラブルが起こらないように注意が必要です。ここでコンサルタントの支援を受けつつ、資金繰りを管理するのもよいでしょう。

    デメリット3.申請期限が決まっている

    このほか、申請期限が決まっていることも大きなデメリットといえます。
    助成金・補助金には、例えば「数ヶ月にわたって取り組んだ後、数ヶ月以内に申請すること」といった定めがあります。

    申請期限内に申請しなければ、たとえ要件を完璧に満たしていても受給は認められません。コスト負担だけが残り、資金繰りが悪化する可能性が高いです。

    個人事業主は、労働力や機動力など、あらゆる点で法人に劣ります。支給申請期間中、事業が急に忙しくなったために手が回らず、申請期限に遅れることも考えられます。

    もっとも、社労士などのサポートがしっかりあれば、申請期限もあまり気にせずに事業に取り組むことができるでしょう。

    個人事業主が確実に知っておくべき補助金5選

    個人事業主が知っておくべき助成金・補助金にはどのようなものがあるのでしょうか。まずは補助金からみていきましょう。

    補助金の中には、開業時に利用できるものや、新規事業に取り組む際に利用できるものがあります。個人事業主もタイミングに応じて積極的に活用していきたいものです。

    なお、以下の情報は2021年10月5日現在のものです。補助金の内容(制度の概要や補助額・補助率など)は変更されることも多いため、活用の際には必ず最新の情報を確認してください。

    1.創業補助金

    創業補助金は、開業時に利用できる補助金です。個人事業主も支給の対象となります。
    開業時には、店舗を借りる、事業に必要な設備を導入する、マーケティング調査を行うなど、色々なコストがかかります。創業補助金は、これらの初期投資の一部を補助する制度です。

    なお、創業補助金は各自治体で実施される「創業時の補助金制度」の総称であり、自治体ごとに補助内容が異なります。例えば、

    といったように内容が異なるのです。
    当然、補助対象となる経費も自治体ごとに定めが異なります。開業時に要した経費を広く補助する制度もあれば、賃料のみ補助する制度もある、といったイメージです。

    助成金・補助金は自己資本として数えるため、創業補助金は創業期の資金調達にも役立ちます。特に、公的融資を受ける場合に大きなメリットがあります。

    創業期の必要資金を、日本政策金融公庫や地方自治体の制度融資で調達する場合、融資額には厳しい定めがあります。日本政策金融公庫は自己資金の9倍まで、制度融資は自己資金と同額が上限です。

    自己資金によって調達余力が変わるのですから、調達余力を大きく保つには自己資金をできるだけ減らさないことが重要です。

    創業補助金を活用すれば、開業時の経費の1/2、2/3といったまとまった単位で補助してもらえるため、自己資金の目減りを防ぎ、資金調達余力を保つことに役立ちます。

    2.小規模事業者持続化補助金

    全ての事業は、旧態を守るだけではいずれ破綻します。事業を取り巻く環境の変化に順応していくべきであり、時には新規事業展開、販路開拓、生産性向上などの取り組みも必要です。個人事業主も例外ではありません。

    小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者の新規事業展開や業務効率化を支援するものです。商工会議所の支援を受けながら経営計画書や補助事業計画書を作成し、採択された個人事業主に補助金を支給します。

    小規模事業者持続化補助金には「一般型」と「低感染リスク型ビジネス枠」の2種類があります。

    一般型

    一般型は、小規模事業者持続化補助金の基本的な枠組みであり、上記のように新規事業展開や業務効率化に取り組む個人事業主を対象としたものです。

    したがって、機械購入費や広報費、展示会出展費、旅費、開発費などが対象経費となります。補助上限額は50万円、補助率は2/3以内です。

    低感染リスク型ビジネス枠

    低感染リスク型ビジネス枠は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて新設された枠です。コロナの影響により、感染リスクが高いビジネスは大きな変化を強いられています。

    例えば、消費者との接触が基本であった飲食店が、テイクアウトやデリバリーなどによって非接触を軸とするサービスへと舵を切るケースが多いです。

    低感染リスク型ビジネス枠は、そのような取り組みを行う個人事業主を補助するものです。緊急性と需要が高いことから、補助上限額は100万円、補助率は3/4となっており、一般型よりも手厚い補助を受けられます。

    3.中小企業・小規模事業者海外展開戦略支援事業

    中小企業・小規模事業者海外展開戦略支援事業は、海外での新規事業展開を図る中小企業や小規模事業者を支援する制度です。単なる資金的な支援だけではなく、

    など、総合的に支援する制度です。支援してくれるのは中小機構やジェトロ、商工会議所などであり、人材や営業力に乏しい個人事業主だからこそ、利用価値の高い制度といえます。

    中小企業・小規模事業者海外展開戦略支援事業で補助しているのは、支援に伴って必要となる経費の一部です。どのような支援を受け、どのように海外展開するかによって補助上限額や補助対象経費、補助率が異なります。例えば、海外展開のためにWEBサイトを外国語化する場合

    といった違いがあります。
    グローバル化の著しい昨今、日本国内から海外への輸出に取り組む個人事業主も増えています。海外展開を検討している個人事業主は、中小企業・小規模事業者海外展開戦略支援事業を活用してください。

    4.ものづくり補助金(革新的ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)

    中小企業庁と中小企業基盤整備機構が手掛けるものづくり補助金は、正式名称を「革新的ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といいます。

    正式名称からわかる通り、革新性のある商品やサービスの開発などにより、新規事業展開や経営革新を図る事業主を補助する制度です。

    革新性をもたらす取り組みには多額のコストを要するため、ものづくり補助金は支給額が最大1億円に設定されています。

    ものづくり補助金には一般型・グローバル展開型・ビジネスモデル構築型の3種類があります。このうち、個人事業主が利用できるのは一般型とグローバル展開型です。

    一般型

    一般型は、新商品やサービスの開発、生産プロセスの改善などに要する設備費用・開発費用などを支援するものです。ものづくり補助金の一般的な形態であり、補助上限額は1,000万円です。

    個人事業主の中には、独創的なアイデアで勝負する人も少なくありません。そのような人は、ものづくり補助金の一般型を積極的に活用し、開発費用などを獲得するのがおすすめです。

    グローバル展開型

    グローバル展開型は、海外事業の拡大・強化のために、現地で設備投資などを行う場合に利用できる制度で、補助上限額は3,000万円です。

    上記の中小企業・小規模事業者海外展開戦略支援事業も海外展開に伴う補助金ですが、支援の対象は「海外での“新規”事業展開に取り組む事業主」です。

    これに対し、ものづくり補助金のグローバル展開型は「既に海外展開しており、さらなる拡大・強化に取り組む事業主」を対象とする点で大きく異なります。

    5.主要な省庁などが公募している補助金

    上記のほかにも、個人事業主が利用できる補助金は色々あります。特に経済産業省が手掛ける補助金のうち、ITツールの導入に伴う経費を補助する「IT導入補助金」、事業の承継・引継ぎの支援と、支援に伴う経費を補助する「事業承継・引継ぎ補助金」などは個人事業主にも利用しやすいでしょう。
    これらの制度では、

    といった補助を受けることができ、数百万円単位での補助を受けられる可能性があります。
    このほかにも、個人事業主が利用できる補助金は多く、特に各自治体の実施する小さな補助事業も合わせれば、ここには書ききれないほど多種多様です。「自治体名 個人事業主 補助金」などのキーワードで検索してみてください。

    個人事業主におすすめの助成金8選

    補助金と同様に、助成金にも個人事業主を対象とするものがあります。大きな違いは、補助金は「創業補助金」のように開業時に利用できる制度が多いのに対し、助成金は基本的に開業後の利用を対象とすることです。

    既に書いた通り、助成金は事業主の取り組みによって雇用の安定や拡大を促すことが目的です。開業前~開業時は雇用を積極的に生み出す段階にないため、多くの助成金は利用できません。

    あくまでも、助成金は開業後に一定期間をかけて取り組み、要件を満たすことによって受給できるものです。

    とはいえ、地域雇用開発助成金のように、開業時に利用できる助成金も少ないながら存在します。また、補助金とは違い要件を満たした事業主は漏れなく受給できるため、機会を逃すことなく、確実に受給していきたいものです。
    ここでは、個人事業主におすすめの助成金を8つ紹介します。

    ※各助成金について、全て解説することはできないため、主要なコースや基本的な助成内容だけを取り上げます。実際に検討する際には社労士に相談し、アドバイスを受けてください。

    1.人材開発支援助成金

    従業員を雇っている個人事業主ならば、人材開発支援助成金を利用できます。これは、従業員の訓練を実施した場合に、訓練中の賃金の一部と訓練にかかった経費の一部を助成する制度です。
    人材開発支援助成金には、

    の4コースが設けられています。中でも、多くの事業主に利用しやすいのが特定訓練コースと一般訓練コースです。

    特定訓練コース

    特定訓練コースは、

    のいずれかを実施し、助成を受けるコースです。助成対象となる特定の訓練をOFF-JTで実施することから、「特定訓練コース」といいます。

    少しややこしいのが、賃金助成の基準です。賃金助成はOFF-JTの部分とOJTの部分を分け、

    と計算します。OFF-JTは訓練時間が長くなり、訓練を受ける従業員の負担も大きいため、助成金額が大きくなっているのです。

    経費助成はOFF-JTとOJTを区別せず、どちらも対象経費の45%まで支給されます。ただし、経費助成の上限額は原則50万円までです。

    このほか、賃金助成と経費助成の合計で、1事業所ごとの1年度あたりの助成上限金額は1,000万円までに設定されています。

    一般訓練コース

    一般訓練コースは、特定訓練コースで指定されている訓練に該当しない訓練を、OFF-JTによって実施した場合に助成金を受給できるコースです。

    個人事業主の場合、一般訓練コースのほうが利用しやすいケースが多いです。これは、

    といった理由によるものです。特に、人材に乏しい個人事業主にとって、外部機関に訓練を外注できるメリットは大きいでしょう。

    一般訓練コースの助成内容は、以下の通りです。

    なお、1事業所・1年度あたりの助成上限は500万円です。

    2.トライアル雇用助成金

    個人事業主が新規に従業員を雇い入れる場合、事業との相性・適性をチェックした上で雇用したいと考えるはずです。

    個人事業主は従業員数が少ないのが普通ですから、適性のない従業員を雇い入れてしまうと、事業所内の不和の原因になったり、生産性が大きく低下したりする可能性が高いため、新規雇用の影響は、法人に比べてかなり大きいといえます。

    そこで、新規雇用の際には数ヶ月間にわたって試験的に雇用できる「トライアル雇用助成金」の活用がおすすめです。

    トライアル雇用助成金は、3ヶ月間のトライアル雇用期間を設け、その期間中の賃金を助成する制度です。

    トライアル期間の就労状況から、適性がある場合には継続雇用し、適性がない場合には継続雇用しないという判断ができ、新規雇用のミスマッチを防ぐことができます。

    また、トライアル雇用は求職者側にもメリットがあります。求職者側も、適性を見極めたうえで就職先を探したいと考えています。

    特に、未経験の業種に挑戦したいものの、適性が分からないので躊躇している、といった求職者は多いものです。

    トライアル雇用は、そのような求職者が積極的に応募するきっかけになるため、人材を広く募りたい場合に役立ちます。トライアル雇用助成金の支給額は、月額最大4万円です。

    ただし、支給額は雇用実績によって変わるため注意が必要です。「1ヶ月間の就労日数(実績)」を「1ヶ月間の就労予定日数」で割った数値によって、以下のように変動します。

    支給額(月額)
    75%超 4万円
    50%以上75%未満 3万円
    25%以上50%未満 2万円
    0%超25%未満 1万円
    0% 0円

    トライアル雇用助成金は、トライアル雇用後に継続雇用を見送る場合にも、雇用実績に応じて助成金を受給できます。新規雇用を検討している個人事業主は、ぜひ検討してみましょう。

    3.キャリアアップ助成金

    キャリアアップ助成金も、多くの事業主に人気の助成金です。個人事業主も、雇用している従業員に処遇改善を実施する場合などに利用できます。キャリアアップ助成金には、

    1. 正社員化コース:有期雇用労働者の雇用条件を改善した場合
    2. 障害者正社員化コース:有期雇用労働者(障害者)の雇用条件を改善した場合
    3. 賃金規定等改定コース:有期雇用労働者の基本給を増額した場合
    4. 賃金規定等共通化コース:有期雇用労働者と正社員の賃金規定を共通化した場合
    5. 諸手当制度等共通化コース:有期雇用労働者と正社員の諸手当制度を共通化した場合
    6. 選択的適用拡大導入時処遇改善コース:社会保険の適用拡大措置を導入し、有期雇用労働者に社会保険を適用した場合
    7. 短時間労働者労働時間延長コース:有期雇用労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し、社会保険を適用した場合

    の全7コースがあります。このうち、個人事業主でも利用しやすいのが1の正社員化コースです。有期契約から無期契約へ、あるいは正規雇用へ雇用条件を転換する場合には、転換する従業員の労務コストが高まります。これを緩和するために、正社員化コースが役立ちます。
    正社員化コースの助成内容は、以下の通りです。

     転換の内容 基本的な支給額 生産性要件を満たした場合
    有期契約から正規雇用へ転換 1人当たり57万円 1人当たり72万円
    有期契約から無期雇用へ転換 1人当たり28.5万円 1人当たり36万円
    無期雇用から正規雇用へ転換 1人当たり28.5万円 1人当たり36万円

    これは基本的な助成内容であり、転換対象者の属性によって加算を受けられる場合もあります。元々雇用人数が少ない個人事業主であれば、ごく少人数の転換を実施するだけでも生産性が大きく伸び、生産性要件を簡単にクリアできることが多いです。したがって、生産性要件による増額措置も意識しておきましょう。

    このほか、3の賃金規定等改定コースも利用しやすいです。日本では長期にわたって最低賃金の増額が続いています。

    最低賃金の公示前に積極的に増額することで、助成金を受給しながら賃金増額に対応することも可能です。その他のコースも利用できる可能性がありますが、個人事業主には利用しにくいものが多いでしょう。

    4.特定求職者雇用開発助成金

    特定求職者雇用開発助成金は、高年齢者や障害者など、一般的な就労が困難な求職者を雇用した場合に助成を受けられる制度です。特定求職者雇用開発助成金には、

    1. 特定就職困難者コース:高年齢者・障害者・母子家庭の母等を雇用した場合
    2. 生涯現役コース:65歳以上の高年齢者を雇用した場合
    3. 被災者雇用開発コース:東日本大震災による被災離職者を雇用した場合
    4. 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース:発達障害者または難治性疾患患者を雇用した場合
    5. 就職氷河期世代安定雇用実現コース:就職氷河期に正規雇用の機会を逃した求職者を雇用した場合
    6. 生活保護受給者等雇用開発コース:ハローワークから就労支援を受けている生活保護受給者を雇用した場合

    の6コースが設けられています。
    個人事業主でも利用しやすいのは、1の特定就職困難者コースです。このコースの対象となる求職者を雇い入れる場合、事業主の負担が大きくなるため、助成内容も充実しているのが特徴です。
    特定就職困難者コースの助成内容は以下の通りです。

    対象労働者 支給額 助成対象期間 支給対象期(1期=6ヶ月)ごとの支給額
    短時間労働者以外 高年齢者(60歳以上65歳未満)
    母子家庭の母等
    60万円 1年 30万円×2期
    重度障害者等を除く身体・知的障害者 120万円 2年 30万円×4期
    重度障害者等(重度障害者、精神障害者、45歳以上の障害者) 240万円 3年 40万円×6期
    短時間労働者

    (週所定労働時間が20時間以上30時間未満)

    高年齢者(60歳以上65歳未満)
    母子家庭の母等
    40万円 1年 20万円×2期
    重度障害者等を含む身体障害者・知的障害者・精神障害者 80万円 2年 20万円×4期

    障害者の雇用義務は、規模が一定以上の法人に対して課せられる義務であり、個人事業主は対象外です。したがって、新規雇用の際に障害者を雇用する個人事業主は少ないと思います。

    しかし、障害者などの雇用を通して社会貢献したい個人事業主であれば、特定求職者雇用開発助成金を検討してみる価値があるでしょう。

    5.両立支援等助成金

    両立支援等助成金は、働き方改革の指向が分かりやすく表れている助成金です。多様な働き方を促進し、出産、育児、介護などによる離職を防ぐことを目的としています。

    離職の原因になる問題と対処方法に応じて、両立支援等助成金は以下の4つのコースに分かれています。

    1. 出生時両立支援コース:男性労働者が育児休暇を取得できる制度を導入し、制度を適用した場合
    2. 介護離職防止支援コース:介護休業の取得と、その後の職場復帰を円滑化するための制度を導入し、制度を適用した場合
    3. 育児休業等支援コース:育児休業の取得と、その後の職場復帰を円滑化するための制度を導入し、制度を適用した場合
    4. 再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金):妊娠、出産、育児、介護、配偶者の転勤などによって退職した元従業員が、再び就労できる制度を導入し、制度を適用した場合

    このうち、もっとも話題性があるのは出生時両立支援コースでしょう。2020年、前環境省の小泉進次郎氏が育児休暇を取得したことで話題になりました。世間的な関心も高まっているため、男性労働者を雇用している個人事業主は検討してみても良いかもしれません。
    出生時両立支援コースを受給するには、

    が条件となります。助成金の支給額は以下の通りです。

    育児休暇を取得した人数 支給額
    1人目 57万円
    2人目以降 5日以上:14.25万円
    14日以上:23.75万円
    1ヶ月以上:33.25万円

    1人目は育児休暇取得日数に関係なく、連続5日以上であれば57万円を受給できます。まずは連続5日を1人に実施、という形ならば個人事業主にも利用しやすいでしょう。

    6.中小企業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成及び掛金月額変更掛金助成

    中小企業退職金共済制度に係る新規加入掛金助成及び掛金月額変更掛金助成(以下、「この助成金」)は、中小企業退職金共済(中退共)制度に新規加入した事業主を助成するものです。

    「中小企業退職金共済」という名称の通り、基本的には中小企業法人を対象とした制度です。しかし、個人事業主も従業員を雇っているならば加入できます。

    この助成金には、新規加入助成と月額変更助成の2種類があります。それぞれの助成内容は以下の通りです。

    助成内容からもわかる通り、正社員雇用の従業員だけではなく、パートタイマーやアルバイトの従業員も対象となるため、個人事業主にも利用しやすい制度です。従業員のために、退職金制度を作りたい個人事業主は検討してみると良いでしょう。

    7.地域雇用開発助成金

    地域雇用開発助成金は、雇用機会が特に不足している地域(同意雇用開発促進地域、過疎等雇用改善地域、特定有人国境離島地域)の事業主に対し、事業所の設置・整備を支援する制度です。助成金の中でも珍しく、開業時に利用できます。

    対象地域で開業し、2人以上の雇い入れを計画しているならば、個人事業主でも受給可能です。計画の期間は最長18ヶ月間であるため、時間をかけて取り組むのがポイントです。
    地域雇用開発助成金の支給額は、

    の3つの要素で決まります。
    開業時の支給額は、以下の通りです。

    設置・整備費用 対象労働者の増加人数
    2~4人 5~9人 10~19人 20人以上
    300万円以上1000万円未満 100万円 160万円 300万円 600万円
    1000万円以上3000万円未満 120万円 200万円 400万円 800万円
    3000万円以上5000万円未満 180万円 300万円 600万円 1,200万円
    5000万円以上 240万円 400万円 800万円 1,600万円

    初回に上記の内容で助成を受けた後、2回目以降は(仮に事業の安定しない創業期であっても)開業時の申請とはみなされません。したがって、以下の内容が適用されます。

    設置・整備費用 対象労働者の増加人数
    3~4人 5~9人 10~19人 20人以上
    300万円以上1000万円未満 48万円 76万円 143万円 285万円
    1000万円以上3000万円未満 57万円 95万円 190万円 380万円
    3000万円以上5000万円未満 86万円 143万円 285万円 570万円
    5000万円以上 114万円 190万円 380万円 760万円

    開業時に限らず、まとまった助成金を受給できるため、積極的に活用したいものです。
    ただし、助成対象となる設置・整備費用は1点20万円以上、合計300万円以上と定められています。個人事業主には負担が大きいため、資金繰りに注意してください。

    8.地方再生中小企業創業助成金

    地方再生中小企業創業助成金も、開業時に利用できる助成金です。ただし、

    が条件です。重点産業分野は各道県が独自に定めているため、問い合わせて確認する必要があります。
    地方再生中小企業創業助成金では、経費助成である創業支援金と、賃金助成である雇入れ奨励金の2種類を実施しています。助成内容は以下の通りです。

    助成率・金額 助成上限額・人数
    創業支援金 対象経費の1/3 対象労働者の雇用人数が
    ・5人以上:500万円まで
    ・5人未満:300万円まで
    雇入れ奨励金 1人当たり30万円 100人まで

    7の地域雇用開発助成金は、開業時の事業所の設置・整備を支援するの対し、地方再生中小企業創業助成金は事業計画作成費、職業能力開発費、設置・運営費など、開業時の必要経費や新規雇用を広く支援します。また、受給に必要な雇用人数も1人以上です。

    したがって、条件に該当する個人事業主であれば、地域雇用開発助成金よりも地方再生中小企業創業助成金の方が利用しやすいでしょう。

    個人事業主が助成金・補助金を申請する時のポイント

    5つの補助金、8つの助成金を紹介してきました。個人事業主でも色々な助成金・補助金を利用できるのです。
    これまでに書いた内容と重複する部分もありますが、最後に個人事業主が助成金・補助金を申請する際のポイントをまとめておきます。

    法人向けと個人事業主向けを見分ける

    まず、法人向けと個人事業主向けのどちらであるかを見分けることが大切です。

    上記に挙げた助成金・補助金は、中小企業法人と個人事業主のどちらにも対応しています。しかし、制度の内容を詳しくみてみると、明らかに中小企業法人向けの設計になっているものや、個人事業主への配慮が十分に感じ取れるものなど様々です。

    個人事業主におすすめの助成金で紹介した「7. 地域雇用開発助成金」が良い例です。地域雇用開発助成金は、対象経費が1点20万円以上、合計300万円以上であり、これらの負担が先行します。業容が小さい個人事業主には明らかに不向きです。どちらかといえば、中小企業法人向けの助成金といえます。

    「8.地方再生中小企業創業助成金」は、類似の制度であるものの、対象経費の範囲が広く賃金助成も受けられます。開業時のコンサルタントへの相談費用や、開業届の作成代行費用も対象となるため、個人事業主に向いています。
    個人事業主が助成金・補助金を活用する際には、個人事業主向けの制度を的確に選ぶことが大切です。

    要件と期限を厳密に守る

    助成金・補助金の受給には、受給要件と期限の厳守が欠かせません。これらは改正によって変更されることも多いため注意が必要です。

    また、一口に「期限」といっても、助成対象の期限や申請の期限など、色々な期限があります。特に気を付けたいのは助成対象の期限です。

    申請期限は、助成金ならば大抵「取り組み完了後2ヶ月以内」などと決まっています。しかし、助成対象期間の定めは制度によってかなりばらつきがあります。例えば、

    といったように、類似の制度でも対象期間・期限が大きく異なることが分かります。
    期限を守らなければ、期限以降の経費が対象にならなかったり、そもそも受給できなくなったり、様々な不都合が起こります。

    社労士に依頼すれば、要件と期限の厳守を前提にサポートを受けることができ、要件・期限で失敗する可能性は低いです。しかし、いくら社労士がサポートしても、個人事業主の対応が悪ければ意味がありません。社労士との二人三脚で受給を目指すことが重要です。

    審査を通過するためのコツ

    助成金・補助金の審査を通過するためのコツですが、これはズバリ「専門家の協力を仰ぐこと」に尽きます。

    助成金は、要件や期限さえしっかり守っていればほぼ確実に受給できます。社労士に相談しながら利用する助成金を選び、社労士のアドバイス・指示に沿って進めることで審査に通過できるでしょう。受給までの先行コストを踏まえた資金繰りのために、コンサルタントに資金繰り管理を依頼するのもおすすめです。

    補助金には予算があり、採択された事業主だけが受給できます。補助金によって審査の難易度が変わるため、専門家の協力を受けても審査に通過できるとは限りません。

    だからこそ、なおさら専門家の協力が必要となります。補助金選びでは社労士の協力を仰ぎ、経営計画や事業計画の作成では経営コンサルタントに協力してもらうのが良いでしょう。

    個人事業主が、自力で助成金・補助金を受給するのはほぼ不可能ですから、必ず専門家に依頼してください。

    まとめ

    本稿では、個人事業主が活用できる助成金・補助金について詳しく解説しました。
    助成金・補助金の中には、開業時に利用できる制度がたくさんあります。また、新規事業時に利用できる制度も多く、特に新規事業に伴う人材確保にあたって利用できる助成金が多いです。

    ただし、業容の小さい個人事業主だからこそ、効果の高い助成金・補助金を適切に選び、取り組み期間中のコスト負担をよく考える必要があります。そのための社労士やコンサルタントへの依頼は必須と考えましょう。
    まずは無料相談などを通して、助成金・補助金の活用を模索してみてください。